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第170回 『初めての講演会』

2023.02.17
 まさに、寝耳に水だった。
 発した言葉を聞き取ってもらえないと思ったのか、スマホの向こうから声を発している(有)平野牧場の平野謙二代表は、先ほどと同じ言葉を告げてくる。

 「今度、三石軽種馬生産振興会で講演会をやるんだけど、もし良かったら村本さんに講演をしてもらえないかと思いまして!」

 二度同じ言葉を言われても、やはり、それが事実とは受け取れず、先ほどと同じように、「はあ...」との返答しかできなかった。

 とここまで読んでみて、これはデジャヴ?もしくはどこかで読んだことがあるぞ、と思った方、これは第166回のコラムである、『九州再上陸』の書きだしを書き換え。カッコよくいうところのセルフカバーである。というか、寝耳に水ということばかりが起こった2022年。その締めとなるのが年末から年始にかけて筆者を襲った、新型コロナウイルス発症だったというのも、オチとしてはでき過ぎな気もしてくる。

 と話は平野会長からの電話に戻るのだが、講演会をやってくれないか?との問いに対して自分が返したのは、「講演会などやったことが無いのですが...」という言葉だった。

 いや、このコラムを書いていて思い出したのだが、その昔、札幌の広告代理店からのオファーを受けて、市内の経済人やお医者さんを前にした、「なんちゃってビギナーズセミナー」らしき講演をやったことがあった。ただ、これはビギナーズセミナーというひな形もあり、そこにちょっとした競馬トークを加えれば良いだけだったので、何とか勢いで押し切れたような気がする。

 ただ、今回は競走馬生産者の皆さんを相手にした講演である。自分も勉強がてら、競走馬生産団体が主催する講演会に参加したこともあるが、聴講者の皆さんは、まさに「勉強するぞ!」といった雰囲気で構えており、ほぼ、笑いは起きていなかった。

 そんなシリアスな場に、講演会素人の自分を講師として招くとは、普段から仲のいい平野さんといっても、それは無いっすよ~と言おうとしていた矢先、その平野さんから、「それで今回は村本さんに、SNSの使い方といったテーマで何か話してもらえないかと思ってるんだけど」とお題のテーマが発表された。

 講演会で最も重要なのは、どんなテーマを発表するかである。そのテーマとは、聴講者の皆さんの興味を引き付けるものでなければいけないし、また、「そうだったのか!」と、聴講者の目から鱗が落ちるような情報を届けなければいけない。

 その意味ではSNSの使い方との講演テーマとは、自分にうってつけ...ではなかった。

 実はFacebookを使用しているのは公表しているものの、それでも記事の公開は友達に限定している。しかも友達の友達までにしか友達申請を受け付けないようにしているなど、こちらが知らない人との接点は、ほぼ持たないようにもしている。

 また、著名人や知り合いの活動、そして気になるラジオ番組からの情報を受け取るべく、TwitterとInstagramのアカウントを取得したものの、どちらも実名を出していないどころか、つぶやきや写真を公開したことなど、一度たりとも無い。

 そんな僕がSNSの講演なんてしていいのでしょうか?と平野さんに尋ねると、「村本さんなりの観点と、マスコミとしての捉え方で構いませんから!」と快活に答えを返してくる。これは自分でテーマを決めてみるべきではないだろうか、と思い始めた矢先、この電話の数日前に、たまたま数人の牧場関係者の方と交わしていた、SNSにまつわる幾つもの話が頭をよぎった。

 その一つとは、頻繁に牧場のTwitterを更新している某マネジャーの話である。その牧場は普段から懇意にさせてもらっていることもあって、裏アカウント(笑)いや、名前を出していないTwitterでもフォローさせてもらっているのだが、個人だけでやっているとは思えない程の更新の多さに、「一体どうやっているんですか」と話を聞くと、「Twitterでは写真をメインにアップしているのですが、様々な場所に行くたびにカメラを持って行って、使えそうな写真があれば撮影しておいて、あとは予約投稿をしているだけですよ」と事も無げに話してくる。ただ、そこまでするメリットとして某マネジャーの方が話してくれたのは、「求人をしていても、Twitterを見てどんな牧場か気になりました、という声がほとんどになって来ました」との意外な答えだった。
(次号に続く)
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