第5コーナー ~競馬余話~
第140回 「母子」
2022.11.11
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2022年10月2日に中山競馬場で行われた第56回スプリンターズSは荻野極騎手が手綱を取った8番人気の米国産馬ジャンダルム(USA)(牡7歳、栗東・池江泰寿厩舎)が優勝し、デビュー29戦目で初めてのGⅠ勝利を飾った。7年目の荻野騎手にとっても初のGⅠ制覇となった。
7歳馬の平地GⅠ優勝は2016年のストレイトガール(牝、ヴィクトリアマイル)以来6年ぶり。7歳以上の高齢馬のGⅠ勝ちとなると2018年のグレイスフルリープ(牡8歳、JBCスプリント=京都競馬場)以来4年ぶりという記録だった。
1984年にグレード制が導入されて以降、7歳以上の馬が平地GⅠを勝った例は16レースを数える。面白いのは、その距離別成績だ。ジュピターアイランド(牡7歳=英国調教馬)の1986年ジャパンカップ、オフサイドトラップ(牡7歳)の1998年天皇賞・秋、タップダンスシチー(USA)(牡7歳)の2004年宝塚記念、カンパニー(牡8歳)の2009年天皇賞・秋と2000メートル以上の優勝例は、この4例しかない。
ほかの12例はすべて1600メートル以下のレースで達成されている。1996年安田記念のトロットサンダー(牡7歳)、2001年安田記念のブラックホーク(GB)(牡7歳)、2006年安田記念のブリッシュラック(せん7歳=香港調教馬)、2006年スプリンターズSのテイクオーバーターゲット(せん7歳=豪州調教馬)、2009年マイルチャンピオンシップのカンパニー(牡8歳)、2010年高松宮記念のキンシャサノキセキ(AUS)(牡7歳)、2010年スプリンターズSのウルトラファンタジー(せん8歳=香港調教馬)、2011年高松宮記念のキンシャサノキセキ(牡8歳)、2015年高松宮記念のエアロヴェロシティ(せん7歳=香港調教馬)、2016年ヴィクトリアマイルのストレイトガール(牝7歳)、2018年JBCスプリントのグレイスフルリープ(牡8歳)、それに今回のジャンダルムだ。イメージとして、年齢を重ねれば、競走馬はスピードが落ちていくものだと考えていたが、現実は逆だ。高齢でも短距離戦で割り引く必要はない。
ジャンダルムの母ビリーヴも快速馬として鳴らした。サンデーサイレンス(USA)を父に持つビリーヴは1998年4月に(有)上水牧場で生まれた。同年7月にあった記念すべき第1回のセレクトセールに出場し、前田幸治さんに6,000万円(税抜)で落札された。栗東の松元茂樹厩舎に入り、2000年11月に京都競馬場でデビュー勝ちを収めた。
4歳夏の2002年に素質が開花。3連勝でセントウルSに快勝し、初めての重賞タイトルを手にすると、直後にGⅠスプリンターズS(この年は新潟競馬場で開催された)に挑み、1番人気に応えて優勝した。20年後に息子のジャンダルムが同じレースでGⅠ初優勝を飾った。ビリーヴは2003年3月には高松宮記念も制し、2つ目の短距離GⅠタイトルに輝いた。連覇を狙った10月のスプリンターズSが引退レースとなった。結果はデュランダルにハナ差かわされたものの2着を確保し、実力を証明した。
現役を引退したビリーヴは繁殖牝馬となり、米国に渡った。現地で一流種牡馬と交配され、産駒は次々と日本で競走馬になった。Kitten's Joy(USA)との間に誕生したビリーヴの第7子がジャンダルムだった。
母と子が同じGⅠレースを制した例はこれまでに6例を数えるが、そのうち5例は母と娘による達成だ。
オークスのクリフジ(1943年)とヤマイチ(1954年)、同じくオークスのダイナカール(1983年)とエアグルーヴ(1996年)、阪神ジュベナイルフィリーズのビワハイジ(1995年)は2頭の娘が同じレースを制した。2008年のブエナビスタと2011年のジョワドヴィーヴルである。秋華賞ではアパパネ(2010年)がアカイトリノムスメ(2021年)を送り出した。つまり母娘の同一GⅠ制覇は過去にも例があったけれど、今回のビリーヴ→ジャンダルムのように母と息子という関係での同一GⅠ制覇は史上初だった。少し意外な感じはした。
世界に目を広げてみると、あの凱旋門賞では母と息子による親子制覇が2度も記録されている。
最初の例が母デトロワ(1980年)と息子のカーネギー(IRE)(1994年)による親子制覇だ。カーネギーは種牡馬として来日し、7世代430頭あまりの産駒を残した。この中からカーネギーダイアン(青葉賞)、ホオキパウェーブ(オールカマー)と2頭の重賞勝ち馬が誕生したが、生産界に残したもっとも大きな貢献は母の父としてモーリスを送り出したことだろう。
凱旋門賞の母、息子制覇のもう1例は母アーバンシー(1993年)と息子シーザスターズ(2009年)だ。シーザスターズは今年、欧州で産駒のバーイードが活躍。引退レースこそ敗れはしたが、競馬界をわかせた。アーバンシーはシーザスターズのほかに種牡馬ガリレオも産んだ。名競走馬であり、とてつもない繁殖牝馬である。
7歳馬の平地GⅠ優勝は2016年のストレイトガール(牝、ヴィクトリアマイル)以来6年ぶり。7歳以上の高齢馬のGⅠ勝ちとなると2018年のグレイスフルリープ(牡8歳、JBCスプリント=京都競馬場)以来4年ぶりという記録だった。
1984年にグレード制が導入されて以降、7歳以上の馬が平地GⅠを勝った例は16レースを数える。面白いのは、その距離別成績だ。ジュピターアイランド(牡7歳=英国調教馬)の1986年ジャパンカップ、オフサイドトラップ(牡7歳)の1998年天皇賞・秋、タップダンスシチー(USA)(牡7歳)の2004年宝塚記念、カンパニー(牡8歳)の2009年天皇賞・秋と2000メートル以上の優勝例は、この4例しかない。
ほかの12例はすべて1600メートル以下のレースで達成されている。1996年安田記念のトロットサンダー(牡7歳)、2001年安田記念のブラックホーク(GB)(牡7歳)、2006年安田記念のブリッシュラック(せん7歳=香港調教馬)、2006年スプリンターズSのテイクオーバーターゲット(せん7歳=豪州調教馬)、2009年マイルチャンピオンシップのカンパニー(牡8歳)、2010年高松宮記念のキンシャサノキセキ(AUS)(牡7歳)、2010年スプリンターズSのウルトラファンタジー(せん8歳=香港調教馬)、2011年高松宮記念のキンシャサノキセキ(牡8歳)、2015年高松宮記念のエアロヴェロシティ(せん7歳=香港調教馬)、2016年ヴィクトリアマイルのストレイトガール(牝7歳)、2018年JBCスプリントのグレイスフルリープ(牡8歳)、それに今回のジャンダルムだ。イメージとして、年齢を重ねれば、競走馬はスピードが落ちていくものだと考えていたが、現実は逆だ。高齢でも短距離戦で割り引く必要はない。
ジャンダルムの母ビリーヴも快速馬として鳴らした。サンデーサイレンス(USA)を父に持つビリーヴは1998年4月に(有)上水牧場で生まれた。同年7月にあった記念すべき第1回のセレクトセールに出場し、前田幸治さんに6,000万円(税抜)で落札された。栗東の松元茂樹厩舎に入り、2000年11月に京都競馬場でデビュー勝ちを収めた。
4歳夏の2002年に素質が開花。3連勝でセントウルSに快勝し、初めての重賞タイトルを手にすると、直後にGⅠスプリンターズS(この年は新潟競馬場で開催された)に挑み、1番人気に応えて優勝した。20年後に息子のジャンダルムが同じレースでGⅠ初優勝を飾った。ビリーヴは2003年3月には高松宮記念も制し、2つ目の短距離GⅠタイトルに輝いた。連覇を狙った10月のスプリンターズSが引退レースとなった。結果はデュランダルにハナ差かわされたものの2着を確保し、実力を証明した。
現役を引退したビリーヴは繁殖牝馬となり、米国に渡った。現地で一流種牡馬と交配され、産駒は次々と日本で競走馬になった。Kitten's Joy(USA)との間に誕生したビリーヴの第7子がジャンダルムだった。
母と子が同じGⅠレースを制した例はこれまでに6例を数えるが、そのうち5例は母と娘による達成だ。
オークスのクリフジ(1943年)とヤマイチ(1954年)、同じくオークスのダイナカール(1983年)とエアグルーヴ(1996年)、阪神ジュベナイルフィリーズのビワハイジ(1995年)は2頭の娘が同じレースを制した。2008年のブエナビスタと2011年のジョワドヴィーヴルである。秋華賞ではアパパネ(2010年)がアカイトリノムスメ(2021年)を送り出した。つまり母娘の同一GⅠ制覇は過去にも例があったけれど、今回のビリーヴ→ジャンダルムのように母と息子という関係での同一GⅠ制覇は史上初だった。少し意外な感じはした。
世界に目を広げてみると、あの凱旋門賞では母と息子による親子制覇が2度も記録されている。
最初の例が母デトロワ(1980年)と息子のカーネギー(IRE)(1994年)による親子制覇だ。カーネギーは種牡馬として来日し、7世代430頭あまりの産駒を残した。この中からカーネギーダイアン(青葉賞)、ホオキパウェーブ(オールカマー)と2頭の重賞勝ち馬が誕生したが、生産界に残したもっとも大きな貢献は母の父としてモーリスを送り出したことだろう。
凱旋門賞の母、息子制覇のもう1例は母アーバンシー(1993年)と息子シーザスターズ(2009年)だ。シーザスターズは今年、欧州で産駒のバーイードが活躍。引退レースこそ敗れはしたが、競馬界をわかせた。アーバンシーはシーザスターズのほかに種牡馬ガリレオも産んだ。名競走馬であり、とてつもない繁殖牝馬である。