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第12回 ダイワスカーレットの未来

2009.03.01
 ダイワスカーレットの引退が決まった。

 2月11日,フェブラリーS出走に向けて,1週前の追い切りを終えたダイワスカーレットの左前脚に異常が見つかった。浅屈腱の炎症だった。すぐにフェブラリーSの回避が決定され,続けてアラブ首長国連邦(UAE)で行われるドバイ・ワールドカップの遠征中止も発表された。
 16日,大城敬三オーナー,生産者であり共同オーナーの社台ファーム・吉田照哉代表が会談し,現役引退が決定。18日付で競走馬登録を抹消された。

 あの素晴らしい走りが2度と見られない。名牝の引退はとても残念だが,その一方で無事に生まれ故郷に戻れることを僕は喜んでもいる。

 彼女の素晴らしさは十分すぎるほどわかった。ウオッカを突き放した07年の桜花賞,牝馬として37年ぶりに優勝した08年の有馬記念。そして,2センチ差で2着に涙をのんだ08年秋の天皇賞。どのレースも見る者にインパクトを与えてきた。通算12戦8勝,2着4回の連対率10割の完璧な成績で,牝馬としてはエアグルーヴ,ウオッカに次ぐ歴代3位となる7億8,668万5,000円の賞金を稼いだ。「世界制覇」という最後で最大の夢を実現することはできなかったが,体が悲鳴を上げている。これ以上無理をさせてはいけない。現役引退は馬を愛する関係者の正しい選択だったと思う。

 引退発表と同時に明らかにされたのが,今春の種付け相手だった。日本では新種牡馬となるチチカステナンゴ(FR)である。

 チチカステナンゴはフォルティノ(FR)を父祖に持つ系統で,日本ではタマモクロス,アドマイヤコジーン,スターオブコジーン(USA)などと同じ父系だ。毛色もタマモクロスと同じく芦毛である。98年に生まれ,今年で11歳。現役時代はフランスで14戦し,4勝を挙げた。4勝のうち01年のリュパン賞(芝2100)とパリ大賞典(芝2000)。2つのG1優勝がある。日本の現役馬ランペイア(牝5歳,父アグネスタキオン)はチチカステナンゴの6歳下の半妹に当たる。ランペイアがダイワスカーレットと同じ松田国英調教師に育てられているのも何かの縁を感じさせる。

 チチカステナンゴは01年いっぱいで現役を引退し,02年から種付けを開始した。05年に生まれたヴィジョンデタが代表産駒だ。ヴィジョンデタは07年9月にデビューし,4連勝で臨んだ08年のフランス・ダービーを制し,無敗のダービー馬となった。秋初戦のニエル賞にも勝ってデビュー以来6連勝。勇躍挑んだ凱旋門賞では優勝したザルカヴァに遅れること3馬身あまりの5着に終わり,生涯初の黒星を喫した。

 ダイワスカーレットの引退が種付けシーズンに間に合ったことは不幸中の幸いだった。早ければ,来年春には第1仔を見ることができる。

 牝馬として史上最強レベルの競走能力を示したダイワスカーレットは同時に日本有数の名繁殖牝馬という血統的背景を持っている。

 71年5月5日,米国で生まれたスカーレットインク(USA)という牝馬がいた。たった1戦しただけで現役を引退。73年には日本に輸入された。スカーレットインクの9番目の仔が,ダイワスカーレットや天皇賞馬ダイワメジャーを産んだスカーレットブーケである。

 スカーレットインクを祖にする母系は次々と活躍馬を送り出している。メジャー,スカーレットのダイワ兄妹のほか,ダートの強豪ヴァーミリアン,サカラートの兄弟,ダートグレード競走で勝ち星を重ねたトーセンジョウオー,02年の桜花賞2着馬ブルーリッジリバーなどがそうだ。俗に「くずの出ない血統」などというが,スカーレット一族は「活躍馬しか出ない血統」といってもおかしくないほどだ。

 ダイワスカーレットは「第2の馬生」でも名馬出産という素晴らしい成果を残してほしい。


JBBA NEWS 2009年3月号より転載
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