第5コーナー ~競馬余話~
第135回 「砂娘」
2022.06.10
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2022年5月15日にあった第17回ヴィクトリアマイル(東京競馬場芝1600メートル)は単勝4番人気のソダシ(牝4歳、栗東・須貝尚介厩舎)が1分32秒2のタイムで優勝した。2歳時の阪神ジュベナイルフィリーズ、3歳時の桜花賞に続く3年連続のGⅠ制覇となった。2歳時のアルテミスSを含めると、芝の1600メートル戦では負け知らずの4戦4勝とした。また2着のファインルージュにつけた2馬身差というのは、デビュー戦の2馬身半に次ぐ大きな着差で、中身の濃い勝利でもあった。
オジュウチョウサンと並び、ぬいぐるみの売り上げで上位を争う現代の「アイドルホース」がソダシだ。人気も実績もあるソダシが、ヴィクトリアマイルではなぜ4番人気にとどまったのか。考えられる要因はそのステップだ。ヴィクトリアマイルに臨むにあたって、ソダシはダートのフェブラリーSを年明け初戦に選んでいた。フェブラリーSの前、2021年の最終戦もダートのチャンピオンズCだった。2戦続けてダートを戦った馬が高速決着になることの多い芝のマイル戦で勝ち負けできるのだろうか。そうした懸念がソダシの単勝人気に影響したと思う。
芝のGⅠ勝ち馬で前走がダート戦だった例はあるのだろうか。調べてみると、想像以上に多くの前例があった。
直近のケースは2013年12月の朝日杯フューチュリティSを制したアジアエクスプレス(USA)だ。同年11月に東京競馬場のダート戦でデビュー勝ちを収めたアジアエクスプレスは2戦目のオキザリス賞(ダート1600メートル)も7馬身差の圧勝で飾り、3戦目に朝日杯フューチュリティS(中山競馬場芝1600メートル)を選んだ。初めての芝レースだったこともあり、16頭立ての4番人気にとどまった。レースでは、ライアン・ムーア騎手に導かれ、後方からしぶとく末脚を伸ばし、無傷の3連勝を飾った。この年のJRA賞最優秀2歳牡馬にも選ばれている。
アジアエクスプレスの前は2004年5月の天皇賞・春を逃げ切り、波乱の主役になったイングランディーレだ。デビュー当時からダートを中心に走っていたイングランディーレだが、4歳春にステイヤーとして新境地を開いた。ダイヤモンドS(芝3200メートル)、日経賞(芝2500メートル)と長距離重賞を2連勝。意気揚々と天皇賞・春に向かった。しかし、この年は9着に終わった。
その後は再びダート路線に戻り、地方の旭川、金沢、大井、名古屋、船橋を転戦。翌年春の天皇賞までに6戦したが、中央の芝コースで走ったのは1度だけ。18頭立ての天皇賞では10番人気。そんな伏兵がスタートから先頭に立つと、あれよ、あれよの逃げ切り勝ち。2着のゼンノロブロイに7馬身差をつけていた。
アグネスデジタル(USA)は中央競馬での芝GⅠ3勝すべてをダート戦の直後に挙げている。2000年のマイルチャンピオンシップの直前は武蔵野S(ダート1600メートル)、2001年天皇賞・秋の前走はマイルチャンピオンシップ南部杯(ダート1600メートル)、2003年安田記念は、1年ぶりのかきつばた記念(ダート1400メートル)からのステップという稀有なローテーションだった。
珍しいのはトゥザヴィクトリーのケースだ。2001年3月、アラブ首長国連邦に遠征。ドバイワールドカップ(ダート2000メートル)で2着に健闘。帰国後、ぶっつけで向かったのが同年11月のエリザベス女王杯だった。5着までハナ、ハナ、クビ、クビという大接戦を制してみせた。
ここに挙げた4頭の例、それにソダシを加えたケースはいずれも単勝1番人気ではなかった点で共通している。ファンとしてみれば、馬券を買いにくいステップだろう。
ソダシのヴィクトリアマイル優勝は、もう一つの傾向をも示した。それは桜花賞馬の強さだ。
ヴィクトリアマイルの優勝馬をさかのぼってみると、2020年がアーモンドアイ、昨年がグランアレグリアで、今年がソダシと3年連続で桜花賞馬が優勝している。さらにさかのぼってみると、ダンスインザムード、ブエナビスタ、アパパネと3頭の桜花賞馬が加わる。
少し範囲を広げて桜花賞3着以内という条件にすると、コイウタ、ウオッカ、ホエールキャプチャ、ヴィルシーナ(2連覇)と4頭が5勝をあげている。ヴィクトリアマイルは2006年に創設され、今年で17回が終わったところだが、そのうち11勝を桜花賞3着以内の実績馬があげていることがわかる。
改めて今年のヴィクトリアマイルの結果を見てみると、1着のソダシ、2着のファインルージュ、3着のレシステンシアはいずれも桜花賞で3着以内に入った実績を持っていた。また6着になったデアリングタクトは2020年に桜花賞、オークス、秋華賞を制した3冠牝馬である。脚部不安から復帰し、1年1カ月ぶりの実戦だったことを思えば、よく走っているといえる。ヴィクトリアマイルは桜花賞好走馬を狙え。来年まで覚えていられるだろうか。
オジュウチョウサンと並び、ぬいぐるみの売り上げで上位を争う現代の「アイドルホース」がソダシだ。人気も実績もあるソダシが、ヴィクトリアマイルではなぜ4番人気にとどまったのか。考えられる要因はそのステップだ。ヴィクトリアマイルに臨むにあたって、ソダシはダートのフェブラリーSを年明け初戦に選んでいた。フェブラリーSの前、2021年の最終戦もダートのチャンピオンズCだった。2戦続けてダートを戦った馬が高速決着になることの多い芝のマイル戦で勝ち負けできるのだろうか。そうした懸念がソダシの単勝人気に影響したと思う。
芝のGⅠ勝ち馬で前走がダート戦だった例はあるのだろうか。調べてみると、想像以上に多くの前例があった。
直近のケースは2013年12月の朝日杯フューチュリティSを制したアジアエクスプレス(USA)だ。同年11月に東京競馬場のダート戦でデビュー勝ちを収めたアジアエクスプレスは2戦目のオキザリス賞(ダート1600メートル)も7馬身差の圧勝で飾り、3戦目に朝日杯フューチュリティS(中山競馬場芝1600メートル)を選んだ。初めての芝レースだったこともあり、16頭立ての4番人気にとどまった。レースでは、ライアン・ムーア騎手に導かれ、後方からしぶとく末脚を伸ばし、無傷の3連勝を飾った。この年のJRA賞最優秀2歳牡馬にも選ばれている。
アジアエクスプレスの前は2004年5月の天皇賞・春を逃げ切り、波乱の主役になったイングランディーレだ。デビュー当時からダートを中心に走っていたイングランディーレだが、4歳春にステイヤーとして新境地を開いた。ダイヤモンドS(芝3200メートル)、日経賞(芝2500メートル)と長距離重賞を2連勝。意気揚々と天皇賞・春に向かった。しかし、この年は9着に終わった。
その後は再びダート路線に戻り、地方の旭川、金沢、大井、名古屋、船橋を転戦。翌年春の天皇賞までに6戦したが、中央の芝コースで走ったのは1度だけ。18頭立ての天皇賞では10番人気。そんな伏兵がスタートから先頭に立つと、あれよ、あれよの逃げ切り勝ち。2着のゼンノロブロイに7馬身差をつけていた。
アグネスデジタル(USA)は中央競馬での芝GⅠ3勝すべてをダート戦の直後に挙げている。2000年のマイルチャンピオンシップの直前は武蔵野S(ダート1600メートル)、2001年天皇賞・秋の前走はマイルチャンピオンシップ南部杯(ダート1600メートル)、2003年安田記念は、1年ぶりのかきつばた記念(ダート1400メートル)からのステップという稀有なローテーションだった。
珍しいのはトゥザヴィクトリーのケースだ。2001年3月、アラブ首長国連邦に遠征。ドバイワールドカップ(ダート2000メートル)で2着に健闘。帰国後、ぶっつけで向かったのが同年11月のエリザベス女王杯だった。5着までハナ、ハナ、クビ、クビという大接戦を制してみせた。
ここに挙げた4頭の例、それにソダシを加えたケースはいずれも単勝1番人気ではなかった点で共通している。ファンとしてみれば、馬券を買いにくいステップだろう。
ソダシのヴィクトリアマイル優勝は、もう一つの傾向をも示した。それは桜花賞馬の強さだ。
ヴィクトリアマイルの優勝馬をさかのぼってみると、2020年がアーモンドアイ、昨年がグランアレグリアで、今年がソダシと3年連続で桜花賞馬が優勝している。さらにさかのぼってみると、ダンスインザムード、ブエナビスタ、アパパネと3頭の桜花賞馬が加わる。
少し範囲を広げて桜花賞3着以内という条件にすると、コイウタ、ウオッカ、ホエールキャプチャ、ヴィルシーナ(2連覇)と4頭が5勝をあげている。ヴィクトリアマイルは2006年に創設され、今年で17回が終わったところだが、そのうち11勝を桜花賞3着以内の実績馬があげていることがわかる。
改めて今年のヴィクトリアマイルの結果を見てみると、1着のソダシ、2着のファインルージュ、3着のレシステンシアはいずれも桜花賞で3着以内に入った実績を持っていた。また6着になったデアリングタクトは2020年に桜花賞、オークス、秋華賞を制した3冠牝馬である。脚部不安から復帰し、1年1カ月ぶりの実戦だったことを思えば、よく走っているといえる。ヴィクトリアマイルは桜花賞好走馬を狙え。来年まで覚えていられるだろうか。