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第14回 北海道日本ハムファイターズ(Part3)

2010.02.01
 一軍の戦力になりきれない中田翔を競走馬に例えるなら,「素質はあるのだが勝ちきれない馬」とでもなるのだろうか。他のチームなら一軍レベルであろう打力を生かして,DHを中心とした起用法,もしくは早いうちから外野手の転向を目論んだはずだ。
 しかし,北海道日本ハムファイターズは,「内野手」としての中田にこだわり続けた。ファンマガジンである「Fighters magazine」の取材で,幾度となくホットコーナー(三塁)を守る中田の姿を見たことがあるが,決して守備範囲は広くなく,試合の前,試合の後とコーチや監督と特守を行う姿が見られた。なぜ,ここまでチームが内野手としての中田にこだわりをもったかだが,そこには打撃だけで終わらないような選手になって欲しかったからである。

 MLBでは,バッティング,パワー,走塁,守備,送球の5項目全てに優れた選手のことを「5ツールプレイヤー」と呼んでいる。今の中田でいうと,バッティングとパワーだけは能力が特出しているが,他の部門においてはプロとしては平均以下のプレイヤーでしかない。

 先ほども書いたように,守備の負担を軽減し,長所である打撃だけを伸ばすという方法論もあったはずだ。しかし,今の北海道日本ハムファイターズが重要視しているのは,12球団一とも言われる守備面。そして近年の高校卒プレイヤーの中でも1,2の素材である中田を,未来の北海道日本ハムファイターズを代表するような,そして日本プロ野球界を背負って立つような「5ツールプレイヤー」となってから,一軍に定着させたいのだろう。

 例えば,もの凄くスピードがある2歳馬が育成牧場にいたとしよう。血統的にクラシックまでの距離はこなしてくれそうだが,そのスピード能力の高さが災いして,現時点ではどうも距離に不安がある。

 折り合い面を直していけば距離はこなしてくれそうだが,今,短距離戦でデビューをすれば,あっさり勝ってくれそうな気もする。しかし,このレースをきっかけとして,気性的にも単なる短距離馬になってしまう可能性もあるし,クラスが上がった時に能力だけでは太刀打ちできないことになるかもしれない。この2歳馬こそが,今の中田なのだ。

 このまま我慢しながら育てていけば,必ずやクラシック級のスタープレイヤーとなってくれるのは明白である。だからこそ,走攻守における全ての面である程度のレベルに達してから一軍に定着させようとしている。それは秋から冬にかけて行われる芝2000㍍ほどの距離のメイクデビューで,素晴らしいレースを見せた馬が,後にクラシックを沸かせる活躍を残しているのとも共通している。

 その一方で,競馬も野球も「使いながら育てる」という方法論もある。それに対しては様々な成功例が残されているので否定はしない。ただこの数年,Aクラスで野球ができるようになり,選手層も厚くなった今の北海道日本ハムファイターズだと,「使いながら育てる」よりも,「完成した選手を使っていく」方が遙かに成功している。

 近年のプロ野球界,そして競馬界に共通しているのはベテランの活躍である。それはしっかりとしたケアや,科学的なトレーニングの導入によるところも大きいと思われるが,こうした選手や競走馬に共通しているのは,「デビューから心身ともに高いレベルを有している」ということ。だからこそ,長きにわたって優れた成績を残し続けていられるのだ。

 ここまで3回にわたって北海道日本ハムファイターズの二軍施設である「ファイターズタウン」と育成牧場の類似点を挙げてきたが,それは単に自分がファンであり,マスコミだからという理由ではない。実はこの「ファイターズタウン」,中山競馬場とは目と鼻の距離にあるのだ。

 近くにはJRA競馬学校もあり,年に一度,選手と騎手課程の生徒との交流も見られているように,競馬との関わりも深い。これをお読みの皆さんの中に,「ファイターズタウン」のことが気になった方がいらっしゃるのなら,中山競馬場に立ち寄ったついででかまわないので,ぜひとも一度,球場まで足を運んで欲しい。きっとそこには,未来のGⅠホースならぬスタープレイヤーが,必死に白球を追いかけているはずだから。


JBBA NEWS 2010年2月号より転載
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