第5コーナー ~競馬余話~
第5回 フレンチの料理人
2008.08.25
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7月6日,その日の成績を振り返っていて,ある種の感慨に襲われた。
この日,函館競馬場で行われた重賞レースの函館スプリントSは圧倒的な1番人気に支持されたキンシャサノキセキがハイペースを3番手で追走し,直線で力強く抜け出した。手綱を取っていたのは岩田康誠騎手。今年9つ目の重賞勝ちは,JRAジョッキーの中では最多の勝ち星だ。
福島競馬場であったラジオNIKKEI賞はレオマイスターが最後の直線で一完歩ごとに逃げたノットアローンに迫り,首差でかわしたところがゴールだった。大きなアクションでレオマイスターを励ましていたのは内田博幸騎手。前の週,エイシンデピュティで宝塚記念を制したのに続く2週連続の重賞制覇となった。
そして阪神競馬場。メーンレースの米子Sはフサイチアウステルが鮮やかな逃げ切りを決めた。鞍上は赤木高太郎騎手。頭差の2着に食い込んだマチカネオーラの手綱を取っていたのは小牧太騎手だった。
開催している全競馬場のメーンレースを制したのは,いずれも地方競馬出身のジョッキー。はっきりとした記録はないが,おそらく初めてのケースだろう。赤木騎手は翌週,阪神競馬場で行われたプロキオンSでヴァンクルタテヤマを見事,勝利に導き,自身にとってのJRA重賞初制覇を果たした。
JRAが初めて地方競馬出身のジョッキーに騎手免許を与えたのは2003年だった。
岐阜・笠松でオグリキャップの主戦を務めるなど通算3000勝以上を挙げていた安藤勝己騎手が移籍第一号になった。
40歳をすぎてからの移籍ではあったが,いきなりのG1競走・高松宮記念をビリーヴで優勝すると,秋にはザッツザプレンティに騎乗して菊花賞を制し,確かな技術を見せつけた。
安藤勝を追って小牧,赤木,柴山雄一,岩田康誠,安藤光彰,鷹野宏史,そして内田が続き,現在まで地方からの移籍組は8人を数えるまでになった。このうち安藤勝,小牧,岩田,内田が移籍後にG1のタイトルをつかみ取っている。
今年は7月13日までにJRAで68の平地重賞レースが終了した。このうち岩田の9勝を筆頭に,安藤勝6勝,小牧3勝,内田3勝,柴山1勝,赤木1勝と,地方出身騎手は合わせて23勝を挙げている。一大勢力と考えていいし,もうなくてはならない存在になっている。もし彼らの免許が認められていなかったとしたら,現在のJRAの競馬はずいぶんと味気ないものになっていただろうと思う。
ことし前半,地方出身騎手とのコンビで大きく花開いた種牡馬がいることをご存じだろうか。フレンチデピュティである。小牧騎手と組んだ桜花賞のレジネッタ,岩田騎手を背にした天皇賞・春のアドマイヤジュピタ,内田騎手と臨んだ宝塚記念のエイシンデピュティ。3頭のフレンチデピュティ産駒はいずれも地方出身騎手とともにG1タイトルを手にした。
ひとまとめにしてしまうのは乱暴な話だとも思うが,JRA生え抜き騎手と地方出身騎手を大きく分けるとしたら「柔」と「剛」だろう。馬が動きやすいよう邪魔にならない騎乗をしてきたのがJRA騎手だとしたら,地方出身騎手は少しぐらい強引にでも馬を動かしていく。フレンチデピュティ産駒はそんな剛腕タイプの騎手と相性がいいのだろう。追われても追われてもあきらめずに走る特性と地方出身騎手の騎乗スタイルがぴったりと合ったというほかない。
昨年から今年までフレンチデピュティ産駒でもっとも多くの勝ち星を挙げているのは岩田騎手で16勝。次は蛯名正義騎手で9勝,横山典弘騎手が8勝で続き,小牧騎手が7勝,武豊騎手は6勝という成績だ。
フレンチデピュティ産駒の活躍は,種牡馬と騎手の相性という新しい観点を示してくれた。
JBBA NEWS 2008年8月号より転載
この日,函館競馬場で行われた重賞レースの函館スプリントSは圧倒的な1番人気に支持されたキンシャサノキセキがハイペースを3番手で追走し,直線で力強く抜け出した。手綱を取っていたのは岩田康誠騎手。今年9つ目の重賞勝ちは,JRAジョッキーの中では最多の勝ち星だ。
福島競馬場であったラジオNIKKEI賞はレオマイスターが最後の直線で一完歩ごとに逃げたノットアローンに迫り,首差でかわしたところがゴールだった。大きなアクションでレオマイスターを励ましていたのは内田博幸騎手。前の週,エイシンデピュティで宝塚記念を制したのに続く2週連続の重賞制覇となった。
そして阪神競馬場。メーンレースの米子Sはフサイチアウステルが鮮やかな逃げ切りを決めた。鞍上は赤木高太郎騎手。頭差の2着に食い込んだマチカネオーラの手綱を取っていたのは小牧太騎手だった。
開催している全競馬場のメーンレースを制したのは,いずれも地方競馬出身のジョッキー。はっきりとした記録はないが,おそらく初めてのケースだろう。赤木騎手は翌週,阪神競馬場で行われたプロキオンSでヴァンクルタテヤマを見事,勝利に導き,自身にとってのJRA重賞初制覇を果たした。
JRAが初めて地方競馬出身のジョッキーに騎手免許を与えたのは2003年だった。
岐阜・笠松でオグリキャップの主戦を務めるなど通算3000勝以上を挙げていた安藤勝己騎手が移籍第一号になった。
40歳をすぎてからの移籍ではあったが,いきなりのG1競走・高松宮記念をビリーヴで優勝すると,秋にはザッツザプレンティに騎乗して菊花賞を制し,確かな技術を見せつけた。
安藤勝を追って小牧,赤木,柴山雄一,岩田康誠,安藤光彰,鷹野宏史,そして内田が続き,現在まで地方からの移籍組は8人を数えるまでになった。このうち安藤勝,小牧,岩田,内田が移籍後にG1のタイトルをつかみ取っている。
今年は7月13日までにJRAで68の平地重賞レースが終了した。このうち岩田の9勝を筆頭に,安藤勝6勝,小牧3勝,内田3勝,柴山1勝,赤木1勝と,地方出身騎手は合わせて23勝を挙げている。一大勢力と考えていいし,もうなくてはならない存在になっている。もし彼らの免許が認められていなかったとしたら,現在のJRAの競馬はずいぶんと味気ないものになっていただろうと思う。
ことし前半,地方出身騎手とのコンビで大きく花開いた種牡馬がいることをご存じだろうか。フレンチデピュティである。小牧騎手と組んだ桜花賞のレジネッタ,岩田騎手を背にした天皇賞・春のアドマイヤジュピタ,内田騎手と臨んだ宝塚記念のエイシンデピュティ。3頭のフレンチデピュティ産駒はいずれも地方出身騎手とともにG1タイトルを手にした。
ひとまとめにしてしまうのは乱暴な話だとも思うが,JRA生え抜き騎手と地方出身騎手を大きく分けるとしたら「柔」と「剛」だろう。馬が動きやすいよう邪魔にならない騎乗をしてきたのがJRA騎手だとしたら,地方出身騎手は少しぐらい強引にでも馬を動かしていく。フレンチデピュティ産駒はそんな剛腕タイプの騎手と相性がいいのだろう。追われても追われてもあきらめずに走る特性と地方出身騎手の騎乗スタイルがぴったりと合ったというほかない。
昨年から今年までフレンチデピュティ産駒でもっとも多くの勝ち星を挙げているのは岩田騎手で16勝。次は蛯名正義騎手で9勝,横山典弘騎手が8勝で続き,小牧騎手が7勝,武豊騎手は6勝という成績だ。
フレンチデピュティ産駒の活躍は,種牡馬と騎手の相性という新しい観点を示してくれた。
JBBA NEWS 2008年8月号より転載