第5コーナー ~競馬余話~
第114回 「直千」
2020.09.11
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「夏の風物詩」アイビスサマーダッシュが2020年7月26日に新潟競馬場の直線芝1000㍍(直千)で行われた。記念すべき20回目のレースを制したのは2番人気の支持を受けたジョーカナチャン(牝5歳、栗東・松下武士厩舎)だった。手綱を取った菱田裕二騎手はアイビスサマーダッシュ初出場で初優勝、松下調教師は2度目の挑戦で初制覇となった。
創設以来19年間続いていたジンクスは今年も破られることはなく、生き続けた。そのジンクスとは「サンデーサイレンス(USA)系はアイビスサマーダッシュで勝てない」だ。
優勝したジョーカナチャンはロードカナロアを父に持つミスタープロスペクター系。2着のライオンボス(父バトルプラン(USA))、3着のビリーバー(父モンテロッソ(GB))とミスタープロスペクター系が上位を独占した。3頭が出走したサンデーサイレンス系の中ではカッパツハッチ(父キンシャサノキセキ(AUS))の8着が最良の成績だった。
日本の競馬地図を1頭で塗り替えたサンデーサイレンス。産駒の特長は抜群の瞬発力にある。序盤はエネルギーをため込み、ゴール直前に末脚を爆発させて勝利をもぎ取る。そうしたスタイルがサンデーサイレンス系の長所だ。
ところが新潟競馬場の直線1000メートルで勝つために要求されるのは瞬発力ではなく、トップスピードを持続する能力だ。ジョーカナチャンが54秒5のタイムで優勝した今年のレースの200メートルごとのラップタイムは次のようになっている。11秒7―10秒0―10秒4―10秒8―11秒6。ジョーカナチャンはスタート直後から先頭に立ったので、このラップもほぼジョーカナチャン自身のラップだと考えていい。
競馬関係者がよく使う言葉で「脚がたまる」とか「脚がたまらない」というのがある。レースの序盤あるいは中盤でペースが緩むことがあれば、そこでスタミナを温存し、ラストスパートに結びつけることができる。それが「脚がたまる」ことだ。逆に「脚がたまらない」はずっとペースが緩まず、追走にエネルギーを使い、最後の踏ん張りが利かないことだ。「なし崩しに脚を使わされた」などと悔しがる騎手を見るのは、こんな時だ。
今年のアイビスサマーダッシュは、2ハロン目から10秒台が3ハロン続く厳しい流れ。これでは「脚がたまる」ことはない。弱点が少ないからこそ競馬界を席巻してきたサンデーサイレンス系だが、数少ない苦手種目が新潟の直線1000メートルだ。
ある騎手から聞いた話もジョーカナチャンに当てはまった。「ダートの成績が良い馬が新潟の直千に合っている」
アイビスサマーダッシュ優勝馬の戦績を調べてみて納得した。17頭のうち5頭はダートでも勝ち星を挙げていた。ジョーカナチャンは京都のダート1400メートルと阪神のダート1200メートルで勝利していた。昨年の優勝馬で今年2着だったライオンボスも小倉と函館でダートの1000メートルを制していた。2007年の優勝馬サンアディユ(父フレンチデピュティ(USA)=ノーザンダンサー系)は、ダートで12戦5勝の成績を残した後、13戦目に初めて挑んだ芝のレースがアイビスサマーダッシュだった。
2001年7月14日、リニューアルされた新潟競馬場で初めて直線1000メートルのレースが行われた。3歳未勝利戦。18頭立ての激戦をハナ差で制したのは大西直宏騎手が手綱を取ったセトブリッジだった。父はノーザンダンサー系のペンタイア(GB)だった。
このレースを皮切りに2020年のアイビスサマーダッシュまで、「直千」で517レースが行われた。ジョッキーの最多勝は中舘英二・元騎手と柴田善臣騎手が25勝で並ぶ。最多勝調教師は菊川正達調教師の16勝だ。
最多勝種牡馬はサクラバクシンオー(プリンスリーギフト系)で36勝。14勝で2位のスウェプトオーヴァーボード(USA)(ミスタープロスペクター系)に20勝以上の差をつけている。ジョーカナチャンを送り出したロードカナロアは赤丸急上昇中だ。2018年5月6日にサラドリームが初勝利を挙げて以来、アイビスサマーダッシュまで35戦6勝、2着3回、3着3回の好成績を残す。
創設以来19年間続いていたジンクスは今年も破られることはなく、生き続けた。そのジンクスとは「サンデーサイレンス(USA)系はアイビスサマーダッシュで勝てない」だ。
優勝したジョーカナチャンはロードカナロアを父に持つミスタープロスペクター系。2着のライオンボス(父バトルプラン(USA))、3着のビリーバー(父モンテロッソ(GB))とミスタープロスペクター系が上位を独占した。3頭が出走したサンデーサイレンス系の中ではカッパツハッチ(父キンシャサノキセキ(AUS))の8着が最良の成績だった。
日本の競馬地図を1頭で塗り替えたサンデーサイレンス。産駒の特長は抜群の瞬発力にある。序盤はエネルギーをため込み、ゴール直前に末脚を爆発させて勝利をもぎ取る。そうしたスタイルがサンデーサイレンス系の長所だ。
ところが新潟競馬場の直線1000メートルで勝つために要求されるのは瞬発力ではなく、トップスピードを持続する能力だ。ジョーカナチャンが54秒5のタイムで優勝した今年のレースの200メートルごとのラップタイムは次のようになっている。11秒7―10秒0―10秒4―10秒8―11秒6。ジョーカナチャンはスタート直後から先頭に立ったので、このラップもほぼジョーカナチャン自身のラップだと考えていい。
競馬関係者がよく使う言葉で「脚がたまる」とか「脚がたまらない」というのがある。レースの序盤あるいは中盤でペースが緩むことがあれば、そこでスタミナを温存し、ラストスパートに結びつけることができる。それが「脚がたまる」ことだ。逆に「脚がたまらない」はずっとペースが緩まず、追走にエネルギーを使い、最後の踏ん張りが利かないことだ。「なし崩しに脚を使わされた」などと悔しがる騎手を見るのは、こんな時だ。
今年のアイビスサマーダッシュは、2ハロン目から10秒台が3ハロン続く厳しい流れ。これでは「脚がたまる」ことはない。弱点が少ないからこそ競馬界を席巻してきたサンデーサイレンス系だが、数少ない苦手種目が新潟の直線1000メートルだ。
ある騎手から聞いた話もジョーカナチャンに当てはまった。「ダートの成績が良い馬が新潟の直千に合っている」
アイビスサマーダッシュ優勝馬の戦績を調べてみて納得した。17頭のうち5頭はダートでも勝ち星を挙げていた。ジョーカナチャンは京都のダート1400メートルと阪神のダート1200メートルで勝利していた。昨年の優勝馬で今年2着だったライオンボスも小倉と函館でダートの1000メートルを制していた。2007年の優勝馬サンアディユ(父フレンチデピュティ(USA)=ノーザンダンサー系)は、ダートで12戦5勝の成績を残した後、13戦目に初めて挑んだ芝のレースがアイビスサマーダッシュだった。
2001年7月14日、リニューアルされた新潟競馬場で初めて直線1000メートルのレースが行われた。3歳未勝利戦。18頭立ての激戦をハナ差で制したのは大西直宏騎手が手綱を取ったセトブリッジだった。父はノーザンダンサー系のペンタイア(GB)だった。
このレースを皮切りに2020年のアイビスサマーダッシュまで、「直千」で517レースが行われた。ジョッキーの最多勝は中舘英二・元騎手と柴田善臣騎手が25勝で並ぶ。最多勝調教師は菊川正達調教師の16勝だ。
最多勝種牡馬はサクラバクシンオー(プリンスリーギフト系)で36勝。14勝で2位のスウェプトオーヴァーボード(USA)(ミスタープロスペクター系)に20勝以上の差をつけている。ジョーカナチャンを送り出したロードカナロアは赤丸急上昇中だ。2018年5月6日にサラドリームが初勝利を挙げて以来、アイビスサマーダッシュまで35戦6勝、2着3回、3着3回の好成績を残す。