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第5コーナー ~競馬余話~

有吉正徳 第5コーナー ~競馬余話~

第126回 「第11位」

 8月8日、東京オリンピックの最終日に函館競馬場では第26回エルムSが行われた。優勝したのはハーツクライを父に持つスワーヴアラミス(牡6歳、栗東・須貝尚介厩舎)だった。

 この勝利によって、中央競馬におけるハーツクライ産駒の勝利数は1,258となり、歴代11位のヒンドスタン(GB)と並んだ。翌週の8月14日には札幌競馬の第7レースでコーストラインが1番人気に応え、通算勝利数を1,259に伸ばし、父を単独の歴代11位へと押し上げた。産駒は2010年に走り始め、12年目で1,200勝を超える数字を残した。

 産駒のJRA勝利数歴代ベスト10の種牡馬はそうそうたるメンバーだ。①サンデーサイレンス(USA)2,749勝②*ディープインパクト2,449勝③*キングカメハメハ2,036勝④ノーザンテースト(CAN)1,757勝⑤ブライアンズタイム(USA)1,711勝⑥フジキセキ1,527勝⑦*クロフネ(USA)1,453勝⑧サクラバクシンオー1,435勝⑨ライジングフレーム(IRE)1,379勝⑩パーソロン(IRE)1,272勝(数字は8月9日現在、*は産駒が現役で残る種牡馬)

 歴代3位のキングカメハメハと同期の2001年生まれ。1歳年下に歴代2位のディープインパクトという超大物がいる。どう見ても状況は不利なのだが、その中でこつこつと実績を残していく。その種牡馬生活は、苦しみながらも最後に大輪を咲かせた現役時代と似通った軌跡のように映る。

 そんなハーツクライが種牡馬を引退した。今後は功労馬として余生を送る。2021年は種付けを行っておらず、2021年生まれが産駒最後の世代ということになった。

 ハーツクライは父サンデーサイレンス、母アイリッシュダンス、その父トニービン(IRE)という血統を持つ。栗東トレーニング・センターの橋口弘次郎厩舎に入り、3歳の1月にデビュー勝ちした。3戦目の若葉Sで2勝目を挙げると勇躍東上し、皐月賞に挑んだ。しかし18頭立ての14着とGⅠの壁に一度は、はね返された。しかし、ただでは転ばない。地元に戻って5月の京都新聞杯で重賞初制覇を果たすと再び東上し、ダービーに臨んだ。年明けデビューでダービーがデビュー6戦目という強行軍だったが、キングカメハメハに次ぐ2着。底力を見せつけた。

 世代屈指の実力を持ちながら、京都新聞杯を最後に勝ち星から遠ざかった。10連敗後に出走したのが2005年12月の有馬記念だった。京都新聞杯から1年と7か月が経っていた。この秋の天皇賞からルメール騎手と新コンビを組んでいた。ジャパンカップでは、レコード駆けしたアルカセットのハナ差の2着に健闘するなど相性の良さを披露した。コンビ3戦目の有馬記念ではそれまでになかった先行策に出た。大本命馬ディープインパクトに先着するには、この方法しかないと、ルメール騎手は決めていた。積極策は見事に当たり、ハーツクライは1年7か月ぶりの白星と初のGⅠタイトルを手に入れた。

 5歳になった2006年はアラブ首長国連邦に遠征。ドバイシーマクラシックを逃げ切り、7月には英アスコット競馬場でのキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでは、当時の欧州最強クラスだったハリケーンラン、エレクトロキューショニストを向こうに回し、五分の勝負を演じ3着に頑張った。

 ハーツクライ種牡馬引退の報はあっという間に競馬界に広がった。リスグラシュー、ジャスタウェイ、ワンアンドオンリー、スワーヴリチャード、ヌーヴォレコルト、シュヴァルグラン、サリオス、タイムフライヤー、ヨシダYoshida(JPN)、アドマイヤラクティとGⅠ馬10頭の父となった実績を惜しむ気持ちは種牡馬引退が明らかになった直後に行われたセレクトセールに反映された。出場した1歳19頭のうち18頭が落札され、落札総額は11億3,900万円に達した。最終世代となる当歳は3頭が出場し、2億円、2億8,000万円、2億円という高値を呼んだ。

 産駒のジャスタウェイが種牡馬になってGⅠ馬ダノンザキッド(ホープフルS)を出したり、娘のケイティーズハートが皐月賞馬エフフォーリアの母になったり、ハーツクライの遺伝子はその裾野を広げている。年内にはパーソロンを捉え、産駒のJRA勝利数で種牡馬歴代10位になるのは確実だろう。