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第141回 「菊花」

2022.12.12
 10月23日に阪神競馬場で行われた第83回菊花賞は2番人気のアスクビクターモア(牡3歳、美浦・田村康仁厩舎)が優勝した。勝ちタイムの3分2秒4(芝3000メートル)はナリタトップロードが2001年の阪神大賞典でマークした3分2秒5を21年ぶりに更新するコース新記録だった。
 手綱を取った田辺裕信騎手(38)は2016年の安田記念(ロゴタイプ)以来6年ぶりのGⅠ3勝目で、クラシックは初制覇となった。

 レースはセイウンハーデスが先手を取り、ハイペースで流れた。1000㍍通過が58秒7、2000㍍通過が2分1秒4。アスクビクターモアはこの展開を2番手で進み、2周目の4コーナーで先頭に立つと、そのままゴールまで押し切った。積極的に動いた分、最後は後続に詰め寄られたが、2着ボルドグフーシュの追い込みをハナ差抑えた。

 京都競馬場が改修のため2021、2022年の2年間、菊花賞は阪神競馬場に舞台を移して行われた。2021年がタイトルホルダー、2022年がアスクビクターモアと2年連続して、茨城県の美浦トレーニング・センターを本拠にする「関東馬」が優勝した。関東馬の菊花賞連勝は1991年レオダーバン、1992年ライスシャワー以来30年ぶりのことだった。

 アスクビクターモアはディープインパクトの12世代目の産駒として2019年に生まれた。ディープインパクトは2019年7月に急死し、この年は20頭あまりの種付けにとどまっている。アスクビクターモアを含む12世代目が実質上の最終世代といっていい。

 そんなディープインパクトの「最終世代」には今年、大記録がかかっていた。それは初年度産駒からの連続クラシック制覇だった。

 2005年、無敗のまま皐月賞、日本ダービー、菊花賞を制し、史上6頭目の三冠馬に輝いたディープインパクトは2006年の有馬記念優勝を最後に現役生活に幕を下ろした。通算14戦12勝。GⅠは7勝を挙げた。2007年に種付けを開始すると、数多くの繁殖牝馬がディープインパクトの下に集まった。1年目から215頭に種付けし、このうち147頭が血統登録を行い、104頭が勝ち馬になっている。この世代の147頭の中に後の桜花賞馬マルセリーナがいた。

 ここでクラシックレースを制したディープインパクト産駒を世代ごとに紹介しよう。

 【2008年生まれ】マルセリーナ(桜花賞)【2009年生まれ】ジェンティルドンナ(桜花賞、オークス)、ディープブリランテ(ダービー)【2010年生まれ】アユサン(桜花賞)、キズナ(ダービー)【2011年生まれ】ハープスター(桜花賞)【2012年生まれ】ミッキークイーン(オークス)【2013年生まれ】ディーマジェスティ(皐月賞)、シンハライト(オークス)、マカヒキ(ダービー)、サトノダイヤモンド(菊花賞)【2014年生まれ】アルアイン(皐月賞)【2015年生まれ】ワグネリアン(ダービー)、フィエールマン(菊花賞)【2016年生まれ】グランアレグリア(桜花賞)、ラヴズオンリーユー(オークス)、ロジャーバローズ(ダービー)、ワールドプレミア(菊花賞)【2017年生まれ】コントレイル(皐月賞、ダービー、菊花賞)【2018年生まれ】シャフリヤール(ダービー)【2019年生まれ】アスクビクターモア(菊花賞)

 2年目には牝馬三冠のジェンティルドンナ、ダービー馬ディープブリランテを送り出し、2013年生まれと2016年生まれはクラシック5レースのうち4レースを制している。

 クラシック全勝種牡馬はディープインパクト以前に7頭いた。トウルヌソル(GB)、プリメロ(GB)、セフト(IRE)、ヒンドスタン(GB)、パーソロン(IRE)、ブライアンズタイム(USA)、サンデーサイレンス(USA)だ。しかし初年度から12世代連続でクラシック馬を送り出した種牡馬はいない。

 ディープインパクトのクラシック連勝記録も実は達成が危ぶまれていた。今年は桜花賞、皐月賞、オークス、ダービーと勝ち星はなく、もっとも上位だったのはアスクビクターモアのダービー3着だった。ラストチャンスの菊花賞にはアスクビクターモアのほかジャスティンパレスとプラダリアの2頭のディープインパクト産駒が出走していた。父の偉大な記録を継続できるのか。アスクビクターモアがその願いをかなえ、ジャスティンパレスも小差の3着に頑張った。菊花賞は皐月賞と並び産駒の優勝まで6年かかったディープインパクトの「苦手種目」だった。そんな苦手種目で最後のチャンスをものにするのだから、ディープインパクトの勝負強さは大したものだ。

 2020年に生まれたディープインパクトの本当の最終世代で、JRAに登録があるのは5頭。牡馬は1頭で牝馬が4頭だ。数少ない最終世代がクラシックで優勝するのは非常にむずかしいが、ディープインパクトならやってしまうかもしれない。
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