第5コーナー ~競馬余話~
第166回 「好敵手」
2024年11月24日に行われた第44回ジャパンカップは1番人気のドウデュース(牡5歳、栗東・友道康夫厩舎)が優勝した。手綱を取った武豊騎手は、スペシャルウィーク(1999年)、ディープインパクト(06年)、ローズキングダム(10年)、キタサンブラック(16年)に続く8年ぶり5度目のジャパンカップ制覇となった。ジャパンカップ5勝は4勝で並んでいたクリストフ・ルメール騎手に1差をつける単独の歴代トップになった。
前半の1200㍍通過が1分14秒5というスローペースだったのに対し、後半の1200㍍は1分11秒0。前半と後半でがらりと変わった展開に、うまく対応できたかどうかが勝負の明暗を分けた。オーギュストロダンAuguste Rodin(IRE)、フランス調教馬ゴリアットGoliath(GER)という欧州のトップクラスも、このペースの急激な変化に、ついていけなかった。
この優勝でドウデュースは中央競馬のGⅠレース5勝目となった。21年の朝日杯フューチュリティS、22年の日本ダービー、23年の有馬記念、24年の天皇賞・秋、ジャパンカップである。2歳から5歳まで4年連続のGⅠ制覇だ。面白いのは1番人気でGⅠを勝ったのはジャパンカップが初めて。過去の4勝はいずれも2番人気以下だった。
84年にグレード制が導入されてから、中央競馬の平地GⅠで4年連続優勝したのはドウデュースが7頭目だった。
最初に達成したのがメジロマックイーン(牡、87年生まれ)だった。3歳時に菊花賞、4歳と5歳で天皇賞・春を連覇。6歳時に宝塚記念を制した。そのほかはメジロドーベル(牝、94年生まれ)、アグネスデジタル(USA)(牡、97年生まれ)、ウオッカ(牝、04年生まれ)、ブエナビスタ(牝、06年生まれ)、ゴールドシップ(牡、09年生まれ)が達成している。ドウデュースのように2歳から5歳にかけての4年間となると、メジロドーベル、ウオッカ、ブエナビスタの3頭しかいない。3頭はいずれも牝馬で、牡馬ではドウデュースが初めての馬になった。
若いうちにデビューし、息長くトップクラスで戦い、常に脚光を浴びる存在であり続ける。野球選手に例えるなら、夏の甲子園で優勝し、プロ野球でも活躍、果ては大リーグで首位打者になるような活躍ぶりといっていい。
日本ダービー、有馬記念、そしてジャパンカップとGⅠ中のGⅠを制した馬はドウデュースが史上4頭目だった。過去の3頭はシンボリルドルフ(牡、81年生まれ)、トウカイテイオー(牡、88年生まれ)、ディープインパクト(牡、02年生まれ)という豪華メンバーだ。このうちシンボリルドルフとトウカイテイオーは天皇賞・秋で敗戦を喫しており、ディープインパクトは出走していない。ドウデュースは歴史的名馬を超える実績を残したことになる。
19年5月7日に北海道安平町のノーザンファームで生まれたドウデュースは父ハーツクライ、母ダストアンドダイヤモンズ(USA)という血統だ。ハーツクライは01年生まれで05年の有馬記念でディープインパクトを破る金星で脚光を浴び、続くドバイシーマクラシックも快勝して、トップホースの仲間入りを果たした。ワンアンドオンリー、ドウデュースという2頭の日本ダービー馬のほか、ジャスタウェイ、スワーヴリチャード、リスグラシュー、シュヴァルグランなどのGⅠ勝ち馬を送り出し、米国で芝ダートの双方でGⅠ勝ちしたヨシダ(本邦輸入種牡馬)や英セントレジャーを制したコンティニュアスといった海外での活躍馬も生み出した。
母ダストアンドダイヤモンズ(USA)は米国で11戦6勝の成績を挙げた。GⅡのギャラントブルームH(ダート6.5ハロン)、GⅢのシュガースワールS(ダート6ハロン)で優勝。ブリーダーズCフィリー&メアスプリント(ダート7ハロン)でも2着になった。
ドウデュースは父からスタミナ、母からスピードを受け継いでいるように見える。天皇賞・秋で繰り出した上がり32秒5の末脚は母譲り。ジャパンカップでドゥレッツァとシンエンペラー(FR)にかわされなかった、しぶといレース運びは父譲りだろう。どんなレースにも対応できる自在性は父と母のいいとこ取りがなせるわざだ。
引退レースに予定されている有馬記念で2連覇を達成すれば、テイエムオペラオー、ゼンノロブロイに次ぐ史上3頭目となる同一年での秋の古馬3冠(天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念)制覇という記録になる。また獲得賞金でイクイノックスを抜いて、トップに立つことにもなる。
来春には種牡馬入りだ。サンデーサイレンス(USA)の後継種牡馬は3つの系統に分かれて、その分枝を伸ばしている。1つはサンデーサイレンス→ディープインパクト→キズナという流れ。次にサンデーサイレンス→ブラックタイド→キタサンブラック→イクイノックスというラインだ。そしてサンデーサイレンス→ハーツクライ→ドウデュースの枝がこれに加わる。
22年の日本ダービーではドウデュースが優勝し、クビ差の2着でイクイノックスが続いた。その後、イクイノックスはGⅠ6連勝を果たし、世界ナンバーワンに輝いた。同期2頭のライバル対決は現役時代に続き、種牡馬になってからも続く。