第5コーナー ~競馬余話~
第165回 「新種牡馬」
新種牡馬が大健闘を見せている。11月11日の時点で、JRAの2024年種牡馬リーディングの2歳部門で4頭もの新種牡馬がベスト10入りしている。14年以降のJRA種牡馬リーディング2歳部門で新種牡馬が同時に10位以内に入ったのは3頭が最多だ。この4頭が年末まで、ベスト10圏内をキープすることができれば、過去10年で最多記録になる。
その4頭とは4位のナダル(USA)、5位のサートゥルナーリア、6位のアドマイヤマーズ、8位のタワーオブロンドンである。
ナダル(USA)産駒はこの時点で44頭が85戦し、17頭が計20勝を挙げた。獲得賞金は1億9,785万6,000円だ。17年に米国で生まれたナダル(USA)は20年のGⅠアーカンソーダービー(ダート約1800㍍)を1分48秒34で制した。この優勝タイムは1995年以降ではレース史上最速という優秀なものだった。アーカンソーダービーの優勝で4戦4勝としたナダル(USA)はケンタッキーダービーの有力候補になったが、骨折したため、そのまま現役を引退し、日本の社台スタリオンステーションで種牡馬になった。父はブリーダーズCクラシック優勝のブレイムBlame(USA)、母の父がプルピットPulpit(USA)という米国血統。ナダル(USA)産駒もその血統を受け継いだようでダート戦に強く、20勝のうち17勝はダートで記録した。メルキオル、クァンタムウェーブ、プロミストジーンという3頭の2勝馬はいずれも全勝ち星をダートで挙げた。
サートゥルナーリア産駒は60頭が105戦し、20頭が20勝を挙げた。16年に生まれたサートゥルナーリアは父がGⅠ6勝の快速ロードカナロア、母シーザリオはオークス、アメリカンオークスと日米でGⅠ勝利を挙げた名牝だ。エピファネイア、リオンディーズというGⅠ馬を兄に持つ種牡馬血統でもある。ナダル(USA)産駒がダート戦で結果を出しているのに対し、サートゥルナーリア産駒は芝で本領を発揮している。20勝のうち18勝が芝だ。距離も1200㍍から2000㍍までこなしている。ここまで2勝馬は出ていないが、25年のクラシック戦線には何頭か出走してきそうだ。
アドマイヤマーズ産駒は37頭が81戦し、15頭が計16勝を挙げた。勝ち馬率の4割5厘は新種牡馬4頭の中ではもっとも高い。16年生まれのアドマイヤマーズは父ダイワメジャー、母ヴィアメディチ(IRE)の血統。現役時代は無傷の4連勝で朝日杯フューチュリティSを制し、NHKマイルCでGⅠ2勝目を挙げた。暮れには香港に遠征し、香港マイルに出走。9頭のライバルを相手に見事優勝を果たした。3歳馬が香港マイルを制したのはアドマイヤマーズが史上初だった。産駒は父の芝適性を受け継いだようで16勝のうち15勝を芝で挙げている。
タワーオブロンドン産駒はパンジャタワー(牡、栗東・橋口慎介厩舎)が京王杯2歳Sを制し、初年度から重賞タイトルを獲得した。タワーオブロンドンはいわゆる持ち込み馬で父Raven’s Pass(USA)の血統だ。GⅠスプリンターズSなど短距離を中心に重賞5勝を挙げた。2度のレコード勝ちが光る。産駒の8勝はすべて距離1400㍍以下。父のスプリント能力を受け継いでいるようだ。
11月14日現在の地方競馬の種牡馬リーディング2歳部門では、同じく新種牡馬のゴールドドリームが3位、ルヴァンスレーヴが4位につけ、こちらでも新種牡馬の活躍が目立つ。モズアスコット(USA)はJRA、地方ともに12位で上位をうかがう。
ディープインパクト、キングカメハメハ、ハーツクライといった種牡馬リーディング上位だった常連がこの世を去り、種牡馬の勢力図は様変わりしている。ポスト・ディープを期待され、昨年、初のリーディングサイアーになったドゥラメンテを失ったのも種牡馬の勢力争いに影響を及ぼした。有力種牡馬が去った空白期間だからこそ新種牡馬たちに食い込む余地ができたのかもしれない。
25年も新種牡馬の産駒が競走年齢に達する。中でも注目されるのは三冠馬コントレイルの種牡馬デビューだ。初年度から193頭に種付けし、23年に誕生した産駒130頭が血統登録された。同年のセレクトセール当歳部門には20頭のコントレイル産駒が出場し、全馬が落札される人気ぶりだった。ここ数年は新種牡馬から目が離せない。