第5コーナー ~競馬余話~
第164回 「帰郷」
2024年10月6日に京都競馬場で行われた京都大賞典(GⅡ、芝2400㍍)で8番人気のシュヴァリエローズ(牡6歳、栗東・清水久詞厩舎)が優勝した。20年の新潟2歳Sを皮切りに9度目の挑戦で獲得した待望の重賞タイトルとなった。北村友一騎手は13年にヒットザターゲットで優勝して以来2度目、清水調教師も16年にキタサンブラックで制して以来2度目の京都大賞典優勝だった。
シュヴァリエローズは父ディープインパクトという血統だ。ディープインパクト産駒はこれがJRA重賞294勝目で、24年の5勝目となった。294勝の内訳は芝285勝、ダート2勝、障害競走7勝となる。平地では、牡馬は178勝、牝馬は108勝、セン馬が1勝を挙げている。ダービー7勝をはじめ皐月賞3勝、菊花賞5勝、桜花賞5勝、オークス4勝でクラシックは歴代8頭目の全勝。クラシック全勝種牡馬はディープインパクト以前に7頭いた。トウルヌソル(GB)、プリメロ(GB)、セフト(IRE)、ヒンドスタン(GB)、パーソロン(IRE)、ブライアンズタイム(USA)、サンデーサイレンス(USA)だ。クラシック全勝は内国産種牡馬としては初の快挙で計24勝は歴代最多記録だ。また初年度産駒のマルセリーナ(11年桜花賞)から22年菊花賞のアスクビクターモアまで12世代すべてでクラシック制覇を果たすというのも空前の大記録だった。
19年に17歳でこの世を去ったディープインパクトの産駒は現4歳が最終世代だ。24年10月14日現在、JRAに登録のある現役競走馬は84頭にまで減った。4歳馬は数も少なく残っているのは3頭。直子が走るのを見られるのも残るは3年ほどだろう。
JRAのリーディングサイアーに輝くこと11回。24年9月30日現在で通算勝利数2,786勝という歴代トップの記録を持つディープインパクトにもまだ超えられていない記録がある。それが平地GⅠ勝利数とJRA重賞勝利数だ。いずれも並んでいるか、先を行くのは父であるサンデーサイレンスだ。GⅠ勝利数では71勝で並んでいるが、重賞勝利数では311勝の父に対し、17勝差で追いかける立場だ。産駒の残り数を考えても、71勝と311勝を超えられるかどうかは時間との闘いだ。
66勝でディープインパクト産駒がもっとも多くの重賞勝ち星を挙げている阪神競馬場がスタンド改修のため、24年後半の開催がないのはマイナス材料だ。次に勝ち星が多い競馬場は東京競馬場で64勝を挙げている。
このコラムが読まれる頃には、東京競馬場で行われる天皇賞・秋は終わっているが、ジャスティンパレス(牡5歳、栗東・杉山晴紀厩舎)がどんな結果を残しているだろうか。昨年はメンバー最速の上がり33秒7の末脚でイクイノックスの2着に食い込む走りを見せた。
10月12日、JRAはジャパンカップ(11月24日)の海外からの予備登録馬21頭を発表した。その中にアイルランド調教馬オーギュストロダン Auguste Rodin(IRE)の名があった。
ご存じのようにオーギュストロダンは20年生まれのディープインパクト最終世代の1頭だ。母ロードデンドロン(IRE)を日本に送り、ディープインパクトと交配して受胎を確認後、アイルランドに戻して誕生したのがオーギュストロダンである。ロードデンドロンはGⅠ3勝のほか英1000ギニー、英オークスでともに2着になった実力馬だ。
日愛の良血を集めたオーギュストロダンは2歳の6月にデビュー。4戦目でGⅠ初タイトルを獲得すると、3歳6月の英ダービーで優勝。父ディープインパクトに本場ダービーの優勝をプレゼントした。その後、アイルランドダービー、愛チャンピオンS、米ブリーダーズCターフ、プリンスオブウェールズSと5つのGⅠ勝ちを上乗せした。現地のメディアに対し、管理するA・オブライエン調教師は「ジャパンカップが引退レースになる」と話している。ディープインパクト産駒最後の大物が東京競馬場で走る姿を見られるのは楽しみというしかない。優勝すればディープインパクト産駒のGⅠ勝利の記録を伸ばすことにもなる。「里帰り」と言っていいのかどうかは微妙だが、ディープインパクトの忘れ形見のラストランをじっくりと見るつもりだ。