JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

第10回 馬産地見学

2009.10.01
 ツアーコンダクターになった。前回のコラムで「馬主になった」と書かせてもらったが,今回は(仮)ではなく本当である。

 別にライターとしての筆力の無さに今頃気付き,将来をはかなんだわけではない。JBBAの競走馬のふるさと案内所が企画する「馬産地見学ガイドツアー」でツアーコンダクター兼ライターの大役を担うこととなったわけだ。
 先日,JBBAの方や協力をしてくださるHBA,IBAの方々と打ち合わせをしてきたが,3日間に亘る行程を見て正直,驚いた。そこには普段の取材でも到底回りきれないほどの日程が書き込まれていたからだ。

 ツアー参加者にとっては涙が出るほどのサービスぶりであり,ツアー代金や新千歳空港までの交通費をかけてもまだ安いと思える。一方,主催者側に立つものとしては,「本当にできるのだろうか?」や「果たして自分がツアーコンダクターでもいいのだろうか?」という不安がつきまとう。

 ただただ願うことは,「せめてツアーに参加した方が楽しいと思って帰ってもらえるように」だけなのだが,それも実際にツアーに同行してみないと分からない。ツアーの詳しい内容,はたまたドタバタぶりについては,またこのコラムの中で取り上げさせてもらえればと思う。

 ところで馬産地見学についてだが,近年は日高を中心とした馬産地を訪ねてくる人が減ったと感じる。「競馬ブームの頃は,休みとなれば牧場の前に車を停めて勝手に訪ねてくる人もいたから,そう思えば今ぐらいでいいんじゃないかな」とは重賞勝ち馬を輩出したことのある生産者の言葉である。また,その生産者が言うには,「『こちらで生産されたあの馬のお母さんに会いたい』というならまだいいけど,『ここには何か有名な馬はいますか?』と聞いてくる人には閉口したね」と信じられない話もあったという。馬産地観光が衰退していることで,このような非常識な人が減ったということは,メリットと言えばメリットなのだろう。

 また,見学マナーの向上には,見学の前には必ずふるさと案内所に連絡するというルールが浸透したことも大きい。同時にふるさと案内所のホームページから見学に関する情報だけでなく,重賞勝ち馬やそれにまつわる馬たちの近況や見学の有無を確認できるようになったのも,見学者と牧場のトラブルを未然に防ぐことに繋がったと言える。

 しかし,馬産地に興味を持ってもらえないということは,そこで働く人材を確保できないことにも繋がってくる。

 取材の中で自分と同世代,もしくは自分より遙かに若い牧場スタッフと話をする機会があったのだが,働こうと思った理由の中に,「観光で日高に来て,そこで馬と触れあった時に将来の仕事としたいと思った」という答えがあった。そこまで直接的な動機では無くとも,面接や研修の時に様々な馬を見せてもらって,改めてこの仕事をしてみたくなったという言葉も聞かれている。

 先日,終了したJRA北海道シリーズの最終日で興味深いイベントが行われた。それは功労馬となったサニーブライアンの展示なのだが,これまでの展示のようにパドックや馬場で引き馬を見せるのではなく,今回は競馬場内の公園に柵を作り,そこにサニーブライアンを展示していたのだ。

 当初は競馬場内に動物園ができたような印象も受けたが,柵の近くに寄って興味深げにサニーブライアンを見つめる子供たちの姿を見た時に,馬とのファーストコンタクトをはかるには最高の展示なのではないかと思えた。

 実際に競馬場にはポニーがおり,レース中やイベントなどでも愛らしい姿を見せている。しかし,実際にレースで活躍した馬を見せることで改めてその大きさに驚き,それでも優しい瞳やかわいげのある仕草に,サラブレッドという動物や,そして競馬にもまた興味を持ってくれるのではないだろうか?

 馬産地観光もこれまでのファンだけを対象としたものではなく,新たな競馬ファンを発掘するものへと視点を変えれば,ゆくゆくは人材を馬産地に呼び込むことにも繋がっていくのではないだろうか。そのためには様々な方向性から馬とのふれあいが必要となっていくに違いない。もし競馬を全く知らない人向けの馬産地ツアーが企画されるのなら,ライターではなく,ツアーコンダクターとして協力できればと思う。


JBBA NEWS 2009年10月号より転載
トップへ