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第17回 立ち写真その2(Part1)

2010.05.10
 勝手な解釈かもしれないが,日本は世界の競馬国の中でも,最も立ち写真が美しい国だと感じる。との書き出しに,おや?と思われた方,「ありがとうございます」と心から感謝の言葉を述べさせていただきたい。
 実は冒頭の2行は,本コラム第6回目の「立ち写真」の書き出しをそのまんま貼り付けてみたものである。そこまでこの拙文に目を通していただいたかと思うと,ライター冥利に尽きるというか,連載を続けてきて良かったというか。とにかく,絵文字で申し訳ないとは思うが,素直な気持ちをここに示したいm(_ _)m。

 ところで,前回のコラムではカメラマン視点で立ち写真について書かせていただいたが,では,馬を立てる持ち手側から,いい立ち写真を撮るためのアドバイスをいただけないだろうか?「持ち手のことですが,僕らは『ハンドラー』と呼んでいますね」と教えてくれたのは,写真撮影や展示などで,普段から馬を綺麗に立たせている,知り合いの種牡馬スタッフである。まさに立ち写真に関してはプロ中のプロフェッショナルであり,この文章をまとめる上で鬼に金棒と言えるのではないだろうか。シーズン中で忙しいところ,幾つもの質問に答えてくれたことに,心から感謝をしたい。

 立ち写真の現場にいていつも思うことなのだが,カメラマンの指示こそあるとはいえ,ハンドラーはどのような行程を踏んで馬のポーズを決めていくのだろうか?

 「まずは,カメラマンから指定された撮影位置と角度を確認します。そのあと,ハンドラーは肢元を見ながら馬を前後左右に動かしていくのですが,目の前の馬に集中するばかりに,方向感覚を失いやすくなることに気をつけなくてはいけません」ちなみに角度というのは,光の入ってくる方角のことを指す。勿論,逆光ではお話にならない。基本的には日光の真っ正面に立つのが正しいが,日の長い季節となると,他の影も入ってきてしまうので,その場合はカメラマンの指示を仰いだ方がいいだろう。

 また撮影位置に関しても,オーナーや調教師に報告するための立ち写真を撮影する機会も増えたからか,馬を立たせる場所を場内に作った牧場も見られる。ただ,基本的には水平で,写真を撮影した際に馬の向こうにある背景に気を取られない場所であれば構わないと思う。ベターなのは足場の舗装もされている厩舎の前と言えるのではないだろうか。

 「実は立ち位置の不備を幾度となく指摘されることがあります。立ち写真に関しては初歩的なミスではあるのですが,よく起こることなので,馬を移動させる前から意識して,立ち位置を確認するようにしたいですね」立ち位置が決まってから行われるのが,軸(左前肢と右後肢)の位置を固めることである。しかし,馬の正面に立つハンドラーからだと,軸の位置を確かめることは困難でもあるという。

 「ハンドラーのポジションから肢の距離感を掴まなくてはいけないのですが,カメラマンのいる真横から見た立ちポーズの肢位置と,ハンドラー目線からの肢位置では,距離感に違いが生まれてきます。なのでハンドラーは,他のハンドラーが立ち写真撮影している時に脇から見学するなどして目を慣らしておく必要があると言えますね」

 最近,立ち写真を入社して間もないスタッフに任せる牧場が増えてきた。それは馬に自分の意志を伝えながら指示に従わせるという,ホースマンとして必要な経験でもあるが,軸の概念こそ分かっているものの,軸の幅を理解できていないことが多い。その場合には先輩スタッフが,「よく見ておけよ」と言いながらハンドラーを交代するのだが,大体の場合,言われたスタッフは先輩のすぐ近くで軸の位置を確認することが多い。真横からの軸を見慣れていないがために,自分がハンドラーとなったときには,やはり軸の幅を理解できていないのだ。

 「大事なのは現場を見に行ったり,普段から立ち写真を見ながら,カメラマンの求める立ちポーズを理解することでしょうね。その中で実際に立ちポーズを作りながら,自分のナチュラルなイメージと,カメラマンのオーダーとのギャップとなっている軸肢や左右後肢の距離感などを素早く理解し,反映する必要があると言えるでしょう」
(次号に続く)

JBBA NEWS 2010年5月号より転載
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