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第70回 『ビギナーズセミナー』

2014.10.19
 前回のコラムで、指定席を前売りにしてみてはどうか?という内容と、前売りで指定席が手に入れられるのなら、旅行ツアーも組めるはずと書かせてもらった。その後、よく調べてみると(というか、JRAホームページのイベント欄を見落としていたのだが)、開催期間中に指定席券付きのホテル宿泊セットが発売されていたことに気付いた。
 宿泊セットの対象ホテルは4軒。いずれも市内ではグレードの高いホテルであり、料金は少々お高めだが、宿泊するホテルによってはスポーツ新聞が無料で付いてきたり、競馬場の近くにある札幌場外市場での朝食に変更することもできる。

 いい試みだと思うだけに、できればもう一歩突っ込んだ形で、宿泊する部屋をターフィーグッズで埋め尽くしたり(JRA所属のイケメン騎手のグッズでも可)、競馬観戦終了後は場内ツアーや、騎手との交流会までツアーにしてしまってもいいと思う。それならある程度の設定金額でも、ファンは競馬観戦を軸とした観光を行ってくれると思うのだが。

 その札幌開催だが、ほとんどの時間で自分は講師をしていた。 現在、競馬開催中の各競馬場で、競馬初心者を対象として行っている「ビギナーズセミナー」。嬉しいことにこの札幌開催では、その講師としてのお仕事を仰せつかることになった。

 まあ、従来の競馬教室とは違って、馬券の予想をしなくていい(予想が外れると、参加者の視線が冷たいのです...)という気楽さがあっただけでなく、何よりも本当のビギナーズしか申し込みがなかったので、懇切丁寧に教えていけば、最低でも競馬に興味を示してくれるだろうという自信は持っていた。

 がしかし、実際に講師を始めて見ると、とても大変な仕事であることに気付かされる。ビギナーズセミナーは「20分の講座で競馬が丸わかり!」というのがセールスポイントなのだが、馬券の種類から競馬新聞の見方まで、限られた時間できっちりと説明するのはほぼ不可能だったのだ。

 確かに自分を例にとっても、競馬に興味を持ち、そして馬券を買い始めた頃は予想の印に頼るばかりで、馬柱の細かい情報まで読み取ろうとは思わなかった。また枠連時代を知る者としては、そのあらましの延長にある三連単をいきなり理解するというのは、なかなか至難の業と言えよう。

 一応、代理店の方が簡単なレジュメ(しかも上手な時間配分)を作っていてはくれたのだが、それでも一度質問を受けると、全てのタイムスケジュールが崩壊する。講師を始めた最初の頃は、時間オーバーだけでなく、補習よろしく、質問をいただいた参加者の方たちと、会場の外で「ビギナーズセミナーVol.2」を行うこともあった。

 これではビギナーの方に競馬を理解していただく上でも良くない、と思ったこともあり、代理店やJRAの方々とも相談した上で、ビギナーズの更にビギナーズバーション、つまり競馬を全くやったことのない方を対象とした「超初心者セミナー」を設けることを決定。

 従来のセミナーは馬券を購入したことはあるが、競馬新聞の見方がよく分からないという層を対象とした「初心者セミナー」として、2部構成で行うことにした。

 それでもグランドオープンを迎えた札幌競馬場に一度来てみたかった、という方が多いのか、申し込み者のほとんどが「超初心者セミナー」を希望し、「初心者セミナー」の申込者が少ない時には、「超初心者セミナー」を続けて行うことさえあった。

 内容も「超初心者セミナー」は馬券の種類からマークカードの塗り方、そして馬券を買うところだけに限定。講師は「初めてのお使い」ならぬ「初めての馬券」を自分1人でやりとげるというナビゲート役に役割を変えた。

 その際、超初心者側の視点に立つこともできたのだが、改めて競馬はというよりも、馬券を買う行為自体が、複雑だということに気付かされた。ビギナーズセミナーで参加者に渡される資料を見れば、イラストと共に分かりやすく説明もされているし、マークカードも実にシステマティックで使い勝手もいい。

 しかし、競馬をある程度かじっている人と、そうでない人の間には、それなりの高さとなった「見えない壁」が立ちはだかっているのを、講師をしてみることで、改めて感じずにはいられなかった。

 このビギナーズセミナーの講師とは、見えない壁をいいことに、初心者だけをこちらへ呼び寄せることではなく、ビギナーには壁があることを改めて示すことだと思う。苦労はあるかもしれないが、壁の中に一度入ってもらえれば、更に競馬の楽しさに気付いてもらえるはず。また講師の機会をいただけるなら、壁の中に1人でも多くのビギナーを引きずり込みたい。
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