JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

最新記事一覧

  • 第172便 トシザブイとツキサムホマレ 2009.04.01

     「しょうがねえなあ,こんなとこにシケこんじゃって。ペコちゃん,泣くぞ」ベッドに寄せた丸椅子に腰かけて私が言い, 「ナサケなくて,ヘもナミダも出ねえ」とクボちんがベッドで言い返した。 7歳下の大工,久保和夫を,私はクボちんと呼んでいる。横浜の病院の5階の2人部屋だ。廊下の側の老人はどこかへ行っていて,ベッドがからっぽだ。 窓に雨がぶつかってくる。1日おきに降ったり晴れたり,変な3月だ。「ペコちゃんだなんて,なつか...

  • 第171便 国分寺のオズさん 2009.03.01

     東京競馬場へ行くとき,川崎駅で立川行きの南武線に乗る。下車する府中本町駅まで,駅の数は19。時間は45分かかる。もう何十年も前から,どうして準急と急行とかがなくて,各駅停車しかないのだろうと思う。そうか,行くときは競馬新聞をゆっくりと読み,たいてい損をしている帰りは,ゆっくりと頭を冷やせということかな? 川崎駅を出て10分ぐらいした向河原駅あたり,「百年に一度の経済ピンチと言うけど,あいかわらず競馬をしに行く人がいる...

  • 第170便 オフト後楽園 2009.02.01

     新橋駅近くで午後3時に用事が済んだ。夜6時に目黒で友だちと会う約束がある。それまでどう時間をつぶそうかな。 とりあえず久しぶりに銀座でも歩いてみようか。銀ぶら。まだ,銀ぶらなんて言い方が残っているのかね。そんなふうに思いながら銀座の方へ歩きだした私に,「オフト」と聞こえてきて足をとめた。 2008年12月末のことである。北海道の新聞社を定年退職したばかりの札幌に住むAさんが,「オフトって知ってますか?」と電話してきた。...

  • 第169便 ハマノバンチョウ 2009.01.02

     「たまにはお顔を見せてください」と絵ハガキがくる。東京駅八重洲口に近い小さなバーのママからだ。 絵ハガキは京都の嵯峨野の紅葉の景色だ。ひとり旅で,うろうろしてきたとも書いてある。あのバーには30年も前から行ってたなあ。あのママもカンレキかあ。おたがい,トシとったもんだ。 思うように酒がのめなくなったので,行ってもオジヤマ虫になるからと遠慮をし,ときどき近くに行ったときは寄ってみようか迷うのだが,寄らずに帰ってきて...

  • 第168便 イエス,ウィー,キャン 2008.12.02

     ウオッカとダイワスカーレットとディープスカイが熱戦を演じた秋の天皇賞の翌日,わが家へ来たマルコメくんが一泊した。 マルコメくんは浦河の牧場の息子である。20年前,10歳だった彼は,「マルコメ味噌」の宣伝をする子役によく似ていて,私がニックネームで呼んだ。今はメタボくんとでも変えたい体型になってしまったが,私にとってはどうなろうとマルコメくんなのだ。独身である。 「天皇賞を見に来たの?」ビールで乾杯をして私が聞いた。...

  • 第167便 メモリアルキッス 2008.11.02

     水曜日は燃えるゴミの日。ゴミを詰めたレジ袋を下げて私は,外に出て思わず,「気持ちいいなあ」と言いそうになった。 暑くもなく寒くもなく,空気が澄んで,日差しも風もやさしい朝だ。ゴミの集め場所の近くに,彼岸花が連らなって咲いていた。昨夜のテレビの映像で,彼岸花の白いのを初めて見たが,やはり彼岸花は赤がいい,と私は思って色を見つめた。「 明け方の救急車,ホリさんだったの」道路の曲り角でぶつかりそうになった80歳の老婆が...

トップへ