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2023年の記事一覧

  • 第348便 オグリの母親 2023.12.12

     「第38回開成美術部OB(三美会)美術展」の案内ハガキが、綾瀬市に住む荒井良一から届いた。会場は東京都中央区京橋2の7の1のギャラリーくぼた。 友だちの画家の個展で「くぼた」に行ったことがあるが、その京橋2の7の1のあたりは私の人生の深い思い出とつながっている。 私の母親は埼玉県加須市の出身。加須女学校で同級生だった仲よしの梅子さんが京橋2丁目に住んでいて、京橋から遠くない神田に住む母親とのつきあいが続いていた。 ...

  • 第347便 おれの財産 2023.11.16

     「大谷選手が米国で本塁打王争いを独走中の9月上旬、駅員の鈴木匡哉さん(28)は福岡市北東部にあるJR香椎駅のホームにいた。配属されて9か月が過ぎ、水色の制服は体になじむ。指さし確認で列車を見送るしぐさも板についてきた。 11年前の高校最後の夏、日米のスカウトが注目する大谷選手と岩手大会の準決勝で相まみえた。一関学院のエースの鈴木さんは7点を追う六回表2死一、三塁で左打席に立った。「絶対に打ってやる」。バットをくるくる...

  • 第346便 心情馬券 2023.10.11

     襲いかかってくるような陽射し。炙られるような舗道からの地熱。2023年の7月と8月は、異様な暑さの連続だった。その異常は北国にもひろがっていて、札幌や青森の友だちからも、変だよなあと声が届く。 8月末の日曜日、東京の墨田区向島に住む富彦くんが私の家へ遊びにきた。富彦くんは47歳、老人介護施設で働く奥さんと、中学生の娘ふたりと暮らしている。仕事は高校を卒業して青森県上北郡から上京してきて以来、変わらずに道路工事会社で働...

  • 第345便 父と子 2023.09.21

     2023年7月から8月、日本列島は襲いかかってくるような異常な暑さに焙られているが、猛暑は日本に限らず世界各地を襲っていて、国連のグテーレス事務総長が、地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が来た、と発言した。 「バス停で10分待っていただけで熱中症になってしまった人もいる」というニュースが聞こえてくる8月6日、原爆投下から78年が過ぎた朝、広島での平和記念式典をテレビで見ている。 午前8時15分、「平和の鐘」が鳴らさ...

  • 第344便 ボロ拾い 2023.08.10

     昔は松竹大船撮影所だった土地に、ホールや画廊や集会室などが並ぶ鎌倉芸術館がある。酒場友だちの画家の個展とかグループ展とか、ピアノコンサートなどによく出かけるのだが、そこへ行くと私は、そこの近くのスーパーマーケットの中にあるフードセンターで、たこ焼きを食べるのが、どうしてか私の幸せな習慣なのだ。 最近、気になっていることがある。注文をして、「できました。取りにきてください」というブザーの音をテーブルで待つのだが、...

  • 第343便 現場 2023.07.10

    第90回日本ダービーの2日前のサンスポ紙に、「日本ダービーといえば、出走馬を生産した牧場にとっても、年に一度の晴れ舞台」ということで、牧場が記事になっていて私はうれしかった。 記事の書きだしをそのまま使わせてもらおう。「今年で創業111年を迎える谷川牧場。かつて5冠馬シンザンを繁養した老舗がファントムシーフを送り出す」というのと、「トップナイフの生まれた故郷である杵臼牧場は、1999年皐月賞をはじめGⅠ7勝を挙げたテイエ...

  • 第342便 タカハシさん 2023.06.08

     やっとのこと、コロナから解放された2023年の4月から5月にかけての連休で、私にもうれしい集まりがあった。友だちのタカハシさんが40分の1口馬主として出資したリバティアイランドが桜花賞を勝ち、新宿の京王プラザホテルにある中華料理店で祝いの会をしたのだ。 その日、私が住む鎌倉も同じようだが、新宿にも外国人の旅行者がたくさんいた。新宿駅から京王プラザホテルへ行く道の雑踏で、たぶんアメリカ人だろう太ったオバさんが、「ハーイ...

  • 第341便 面会競馬 2023.05.12

     2023年4月2日の午前8時半、スマホが鳴り、入院中のスドウさんからだ。3月の初め、庭で踏台に乗って植木の枝葉を切りながら転倒し、足腰と頭部を損傷し、たまたま玄関にきた宅配便の運転手に発見され、救急車に乗った。 「馬券は買ってないけど、大阪杯、一緒に見たい」 とスドウさんが言う。ほかのことは言わず、それだけを言う。 「わかった」 と私は返事をした。 その病院の10階に、3月7日から31日まで、かみさんが入院していた。ス...

  • 第340便 マルデカワッタ 2023.04.11

     去年の暮れのこと、ウォシュレットの故障で修理にきてくれた青年が、トイレに競馬カレンダーが掛けてあったからだろう、 「競馬、好きなんですか」 と私に聞いた。 「好きだよ。かなり好き」 そう私が返事をすると、 「全然知らなかったんですけど、コロナが騒ぎだされたころから、仕事仲間に誘われて横浜のウインズに行って、競馬にハマっちゃったんです。今は毎週、馬券やってます」 と青年は笑顔になった。 修理が終わって、 「コーヒ...

  • 第339便 人生の一日 2023.03.10

     ビッグレッドファームを営む岡田繁幸と、川崎競馬の調教師の河津政明は、いわば「仕事のコンビ」だった。仕事ひと筋で休まない岡田繁幸に、少年時代の粗野を残しているような河津政明は、救いの存在だったのかもしれない。 河津政明と私のつきあいは、いわば「遊びのコンビ」だった。人間は、仕事を一生懸命にしなければならないが、しかし、ふざけもしなければヤッテラレナイというのが、「遊びのコンビ」の言い分。 酒をのまないのに酒場好き...

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