烏森発牧場行き
2025年の記事一覧
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第368便 不思議な世界 2025.08.12
『ニンゲンはカネとコドクのたたかいをする生きもの。ボクの武器はジョーダン弾!』というのが私の人生観である。悲しみや空しさと向き会うのに有効な手立てはユーモアだ、というロシアの劇作家アントン・チェーホフの言葉が、心もとない私の人生を救ってくれた。 50代半ばごろ、JR鎌倉駅に近い地下鉄の酒場でときどき顔を合わせた紳士から、 「うちの施設に来て子供たちを笑わせてくれませんか」 と声をかけられた。どうやら私の冗談を認め...
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第367便 セツカク 2025.07.11
去年11月に92歳で亡くなった詩人の谷川俊太郎のお別れの会が5月12日に開かれ、作家の池澤夏樹が、「孤独をしなやかに生きる。その谷川さんの姿勢を身につけたかった」と語りかけた。 「孤独をしなやかに」という言葉が、私の全身の隅々にまで浸透してきて、「おい、88歳の君よ、この先、この言葉と、どのように向きあい、どのようにたたかうか、それが問題だな」と私は自分に語りかけ、ありがたい問いかけだと、池澤夏樹に感謝をした。 5月29...
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第366便 わたしの旅 2025.06.11
5月3日、憲法記念日。世間は大型連休中。たくさんの人が旅に出ているよね。おれも旅に行こう。そう私は思い、笑いそうになった。私が行くのはウインズ横浜。そんなの旅とは言えないよとか言う人がいるだろう。でも、私にとっては旅なのだ。 家を出る。バス停まで歩く。バス停の名は「火の見下」。この地へ私が引っ越してきた1976(昭和51)年ごろ、そのバス停のとなりに火の見櫓があって、高所の回廊を、双眼鏡を手に消防署員が歩き回っていた...
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第365便 言葉たち 2025.05.09
2025年3月30日、第55回高松宮記念。2番人気のジョアン・モレイラ騎乗のサトノレーヴが勝ち、クリストフ・ルメール騎乗のナムラクレアが4分の3馬身差の2着だった。 翌日の新聞で、サトノレーヴの馬主の里見治オーナーは、2017年の宝塚記念をサトノクラウンが勝ってから7年9か月ぶりのGⅠ勝ちだと読み、そのうれしさを推測してみる。 ナムラクレアは高松宮記念を3年連続して2着。長谷川浩大調教師は、「強力メンバーのなかで3着以下は離...
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第364便 マサトノコドク 2025.04.10
2025年2月23日、第42回フェブラリーSでコスタノヴァ(父ロードカナロア、母カラフルブラッサム、母の父ハーツクライ)が勝った。騎乗はレイチェル・キング。女性騎手でJRA平地GⅠ勝利は初めてである。 私は家でのテレビ観戦だったが、レース後すぐに、東京競馬場で見ていた正人から電話があり、「勝ちました。GⅠを勝ちました。マサトノコドク勝ちました」 と今にも泣きそうな声がした。正人と私のあいだでは、マサトノコドクという、コスタノヴ...
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第363便 手紙 2025.03.11
1965(昭和40)年、東京の赤坂にある貴金属販売会社で働いていた私は、翌年からの札幌営業所勤務を命じられた。 30歳の私は、妻と3歳の娘と飛行機に乗った。当時は北海道新聞に、羽田から飛行機に乗った人の名簿が載っていたのが、今から考えると不思議である。 狸小路5丁目、札幌市中央区南3条西6丁目、グランドビル6階に住み、函館へ、旭川へ、帯広へ、釧路へと、月に一度、真珠のネックレスの束が重い鞄を下げ、列車で出張する日々が始...
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第362便 ハナの差 2025.02.12
前号に続いて文章にかみさんが出てくる。君のかみさんの話など、読みたくないよという人がいるだろう。ごめんなさい。 63年もの月日を一緒に暮らしたかみさんが、空へ行ってしまった。悲しい。悲しいけれども、悲しんでばかりいられない。そうだ、かみさんとの新しい人生を作っていこうと決めた。 「おはよう」 「おやすみ」 「行ってくるよ」 「ただいま」 4つの言葉でかみさんと新しい生活を始めた。始めたからには、元気に、なるべく明...
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第361便 どこか行くの? 2025.01.10
2年前、かみさんが難病に襲われた。病名は、顕徴鏡的多発血管炎。原因不明で難病指定を受けた。手術は無理。ステロイド治療しかない。 50ミリ近いステロイド投薬の副作用か、精神障害を発生。精神科の隔離入院により認知症に。 退院したけれど要介護3の状況。難病で介護施設利用も困難。おれがガンバルしかないと私は覚悟し、その後、入退院のくりかえしと老々介護の苦戦の日日。 私も2年半前に心臓と胃ガンの手術をした身。介護中、自分が...