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2016年の記事一覧

  • 第264便 寸又峡 2016.12.14

     東京競馬場へ行ったときの私は、いちどはメモリアル60スタンドの3階へ行き、道をへだてて装鞍所が見える窓辺に立つ。レースの時間が近づいてきた馬たちが鞍をつけ、木立ちのまわりを厩務員に引かれて歩いている。その景色が私の好きな絵なのだ。 もうひとつ、いちどは必ず行く場所が、けやき並木のベンチだ。そこに腰かけ、しばらくぼんやりする。それが私の幸せなのだ。 10月30日、天皇賞の日、くもり日だが雨の心配はない。東京7R3歳上500...

  • 第263便 種牡馬の眼 2016.11.14

     9月10日のこと、私は社台グループが営む共有馬主クラブの会員が参加する牧場ツアーに同行していた。ノーザンホースパークのグリルでの夕食会を終え、苫小牧のホテルへバスで移動する。闇がひろがる勇払原野にぽつんぽつんと光る家の明かりを眺めながら競走馬を見るためのツアーだなんて、縁のない人からすれば特殊な集団だろうなあと思った。 すると私は、昨日の自分を思いだした。横浜の教会で「バッハのオルガン曲の夕べ」という催しがあり、...

  • 第262 ありがとう 2016.10.14

     2年前の夏の日の夕方のこと、鎌倉市大船の大型スーパーマーケットに隣接する回転寿し店で、テーブル席にいた時枝さんと目が合って私は面食らった。時枝さんといっしょにマスダさんがいたからである。 大船の町はずれに、私の長女の友だちのメグさんが営む小さなバーがあり、もう10年になるだろうか、ふた月に一度くらい、私は客になる。そこで何度か、常連客の時枝さんと会っているのだ。 時枝さんは横浜にある大きな病院のベテラン看護師だ。...

  • 第261便 雲の上から 2016.09.13

     朝早く、新聞を読む。ベラ・チャスラフスカさんのことが記事になっていて、1964年の東京オリンピックの体操競技をしている彼女と、2016年6月の74歳になっている彼女の写真が並んで載っている。 「あの東京オリンピックのときの、チェコスロバキアのチャスラフスカの美しさって、今でも思いだせる。テレビに白い夢の花が咲いているみたいだった。おれも、まだ26歳さ」 そう誰かに言いたくなりながら私は、記事を読むうち、緊張してきた。 2015...

  • 第260便 相良の人たち 2016.08.09

     2008(平成20)年の皐月賞とダービーと菊花賞に、いずれも武士沢友治騎乗で出走した小桧山悟厩舎のベンチャーナイン(父エイシンサンディ、母グラッドハンド、母の父コマンダーインチーフ)の馬主は、静岡県牧之原市相良で自動車のボディミラーを製造する本杉芳郎さんである。 「わたしにとっては3冠馬です」 北海道の牧場の放牧地で知りあった私に、とてもうれしそうな顔で本杉さんは言い、 「牧之原から近い御前崎の、夕日が染める海を眺め...

  • 第259便 おれの五月 2016.07.12

     2016年5月31日、晴。明日は6月。 「70代になったら、どうしてこんなに月日の流れが早くなるの?」 と2日前の、ダービーの日の東京競馬場で会った山野浩一さんが言っていたのを思いだした。 5月30日、朝、まだベッドから起きあがらずにカーテンをあけ、雑草がひろがる空地に雨が降っているのを見ていた。 びっくり。昨日のダービーは快晴。超ラッキーだ。もし雨だったら、入場人員13万9,140人とならなかったかもしれないし、まるで気分のち...

  • 第258便 ピロスマニ 2016.06.14

     印鑑証明をもらいに市役所へ行った5月2日、そこから近い鎌倉駅周辺は、連休の人出でごったがえしていた。公民館の椅子で汗をふいて休み、催し物の宣伝物のある棚へと行った私は、「放浪の画家ピロスマニ」という活字にドキッとし、息を詰めてしまった。 その広告チラシを抜いて椅子に戻る。鎌倉市川喜多映画記念館で、4月30日(土)午前10時30分、5月1日(日)午後2時、5月3日(火・祝)午前10時30分、5月4日(水・祝)午後2時と、映...

  • 第257便 カラジによろしく 2016.05.19

     昭次は18歳のときに高知県四万十市から神奈川県小田原市に来て大工の親方の家に住みこみ、大工の腕をつけてから藤沢市、鎌倉市へと移り住んだ。鎌倉にいた10年ほどのあいだ、私とは酒場友だち、競馬友だちだった。 50歳の昭次をふたつの死が襲った。半年のあいだに妻の幸江と、高知にいた兄を病魔に奪われたのだ。横浜の病院で看護師をしていたひとり娘が結婚をした翌年のことである。 「どうしたらいいのだろう」 ひとり暮らしになった昭次が...

  • 第256便 ふたりの友だち 2016.04.11

     私の家からバスと電車で一時間かかる海辺の町の病院へ出かけた。 「会いたいなあって言ってます」 おととい、森井氏の娘さんから電話をもらったのだ。森井氏は病気に追いこまれている。 森井氏は銀行に四十年間勤務。転勤が多く、退職してようやく私と同じ住宅地に落ち着いた。不運にも落ち着いて間もなく奥さんをガンで奪われ、その後に私と町会の集まりで知りあい、私の誘いで競馬を知り、競馬場へも行くようになった。 ひとり暮らしが八年...

  • 第255便 野深卯助 2016.03.14

     正月2日、年賀ハガキといっしょに届いた封筒の差出人が、岩手県紫波郡の野深卯助となっていた。 ノブカウスケ?と読んで私は、ノブカは北海道浦河郡浦河町野深のノブカ、ウスケはそこにあった萩伏牧場の創業者である斉藤卯助のウスケだろうと思った。 『盛岡に住む友人の家に、吉川良の競馬夢景色という本があって、作者の略歴のあとに住所が書いてあり、手紙を書こうと考えました』 という書き出しの手紙の主は、1983年3月に牧場めぐりの旅...

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