烏森発牧場行き
2024年の記事一覧
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第359便 私的競馬史 2024.11.11
2024年9月29日、第58回スプリンターズSは、西村淳也騎乗、16頭立て9番人気のルガルが勝った。馬名はシュメル語で「王」。シュメルは、メソポタミアにおこり、バビロニア、アッシリア文明の母胎となった最古の都市文明となった名。 24度目のGⅠ挑戦で初めて勝った西村騎手はゴール後のルガルの背で泣き、ヒーローインタビューで何度も、「レースのことは何もおぼえていません」とコメントし、「幸せです」も連発した。競馬は、そういうことでも...
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第358便 ネヴァさん 2024.10.11
1983年3月のこと、桜花賞馬ハギノトップレディの初出産をルポする取材仕事で荻伏牧場にいた。場長の斉藤隆さんの厚意で、従業員寮の空いていた一室で寝泊まりした。昔の話でごめん。 出産予定日を過ぎても、なかなか産まない。荻伏牧場の創業者の斉藤卯助さんが杖をついて歩き、私をネヴァービートのいる馬房へ案内してくれた。ネヴァービートは皐月賞馬マーチス、オークス馬ルピナス、春の天皇賞馬リキエイカン、中山大障害4連覇のグランドマ...
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第357便 チーム力 2024.09.11
2024年7月、異様に暑い日が続く。朝も昼も夜も関係なしに、何日も何日も異常な暑さが続く。何か恨みでもあるのかと、私は窓の外の陽射しを見つめる。 どうしても行かねばならぬ用事があって、覚悟をしてバス停へ歩く。おい、ジイさんを殺す気かよと、顔面を炙ってくる熱気に怯える。 そんな日、パリでオリンピックが開幕し、体操男子団体で、最終鉄棒を残して中国に3.267点差負けていたのに、最後の鉄棒の橋本大輝の演技が終わると、日本が奇...
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第356便 とことん 2024.08.13
NHKの番組、「チコちゃんに叱られる」を見ていたら、「とことん」という言葉、何?という質問が出た。答えは日本舞踊の仕ぐさから生まれた言葉だった。意味は、最後まで、徹底して。 おう、と私は声を出しそうになった。シンザンという名馬を手がけた武田文吾さんの顔と声が思い浮かんだのだった。「とことん」という言葉と武田文吾。私には思い出深いのである。 1986(昭和61)年に文吾さんが79歳で亡くなったあと、栗東トレセンで取材仕事を...
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第355便 ばんば恋しや 2024.07.11
ときどき私は、公園のベンチに腰かけて樹木を見上げたり、足もとの小石に気を取られたりしながら、帯広の競馬場でばんえい競馬を見ている自分を夢見ていることがある。 どうしたってジイさん、人生をふりかえる。ふりかえってばかりいるなよ、と自分で自分を叱ったりもするのだが、どうやら、ふりかえるのが人生の仕事、日常になったような気もする。 おれ、どうして、ふと、ばんえい競馬を見ていたときの自分を思いだしているのかなあ。とても...
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第354便 手紙を書く 2024.06.12
ジイさんになってしまった私は、手紙を書くこと、手紙をもらうことで生きている。変なことを言うなよと思われるかもしれないが、ほとんどの日、誰かしらに手紙を書き、誰かしらからの手紙を読んでいる。 例えばウインズ横浜近くの酒場で知りあったY・Tさんは、定年まで勤務した大手の保険会社に在職中、転勤で苫小牧支店で働いた。 「苫小牧にいた3年間では、えりも、様似、静内、富川、門別、鵡川、苫小牧、白老、室蘭、伊達、そして千歳、恵...
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第353便 おれのドキュメント 2024.05.13
NHKのテレビ番組、「ドキュメント72時間」が私は好きだ。例えば大阪の通天閣の近くのコインランドリーが取材場所になり、「コインランドリーは回り続ける」というタイトル。 深夜近くに若い男が、洗いものを詰めた大きな袋を持ってきて、マイクを向けられる。 「ボク、山口県育ちだけど、近くに仕事がなくて、大阪に出てきたんです。普通の生活をしたくて、昼間、工場で働いてるんだけど、それだけじゃ足りなくて、夜も居酒屋で働いていて。普...
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第352便 月に1万 2024.04.12
毎週末のこと、馬券の買い目を考えながらも、ふと、ロシアとウクライナの争い、イスラエルとパレスチナの争いが頭にちらつき、日本は平和だから馬券の心配をして遊んでいられるんだよなあと思ったりもする。 ニンゲンという生きもの、人を殺しあったり、せっかく作った建物や施設を壊しあったり、ほんと、どう考えても始末が悪い。 たぶん、ほとんどのニンゲンは、殺しあったりしたくないし、ちょっと退屈だけど静かな日常が幸せなのだと思って...
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第351便 意地に乾杯! 2024.03.13
2024年1月11日のこと、横浜市港南区に住む久保田順二からハガキがきた。 「ヒシミラクル、ファストタテヤマ以来の奇跡が起きました。1月7日のフェアリーステークスで、3連単⑬―③―①、15万7,970円を200円持っていました。西村淳也という騎手がいるなあ。妻の淳子の淳。命日が平成13年3月1日。墓まいりする気持ちで買いました。西村淳也のイフェイオンが勝ってくれました」 ウィンズ横浜で知りあった競馬仲間の、久保田順二の呼び名はクボジ...
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第350便 アレ馬記念 2024.02.09
2023年12月23日の夜、柏市に住む88歳の義姉が、 「テレビのコマーシャルで分かったけど、明日、有馬記念なのね。タケシさん、有馬記念のことをオカメ記念って言ってたのを思いだしちゃった」 と電話してきた。タケシさんというのは10年前に死んだ私の兄、義姉の夫である。 「弟の奴、ふざけん坊だから、満員のスタンドで馬群が通過するとき、オカメ、オカメって何度も絶叫しやがって、まわりがみんな笑ったんだ。 おれ、それから何年しても、...