烏森発牧場行き
第232便 どんけつ人気
2014.04.18
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「わたくしは3月1日の川崎でのコトバ会で、お話を聞いた者です。あのとき、ひとりでいても、仲間といても、どこにいても、世間で自分は、どんけつ人気でないかと感じているというお話、とても引きつけられました。
どんけつ人気といっても、負け犬になっているわけでなくて、どんけつ人気と感じることをバネにして、それで元気になるというのに、わたくしはとても共鳴したのです。
それにわたくしがよく行く横浜の場外が、言ってみればふるさとだなんて聞いて、わたくしもあそこが唯一の楽しみの場なので、うれしくなってしまいました。
チューリップ賞の日も横浜場外へ行ってました。ハープスターは負けないだろな。単勝が110円とか120円だろうな、と思ってしまう日、阪神のチューリップ賞の前の、中山のスピカSで、7頭立て7番人気のトーセンジャガーが勝ち、どんけつ人気のお話を思いだしました。
ハープスターは圧勝で、1・1倍でした。コトバ会のときに、吉川さんが、高知のクロスオーバーが別府真衣騎手で出走したら、どんけつ人気をバネにしている自分は、記念に100円、単勝を買い、仕事部屋の机に入れておくと言っていたのを思いだし、わたくしも100円、クロスオーバーの単を買いました。
中山の11RのオーシャンSもはずし、中山12Rでわたくしは、すこしヤケ気味に、15頭立て15番人気のテンゲントッパの単を200円勝ったら9着。1着は1番人気のミッキーナチュラルで、トイレへ行って笑いながら小便をしました。
翌日の弥生賞の日も横浜場外へ行き、吉川さんがいるかなと、探したりしました。
今日も昨日のハープスターと同じように、弥生賞はトゥザワールドが勝つだろうなあと思いながら、10Rの上総Sのとき、昨日のどんけつ人気で勝ったトーセンジャガーのレースが目に浮かんできて、上総Sの13頭立てどんけつ人気のビンテージチャートの単勝を100円買いました。
それで券売機から離れて、その馬券を見て、100円というのは最初から記念に買ったという気持ちで、あと100円、つまり200円買うようでなければ、その馬の単勝を狙っていることにならないと思い、100円の単をもう一枚、買いました。もちろん、このレース、堅そうだという考えもあり、馬連を3点、人気なのを500円ずつ買ってはいました。
レースになって、勝浦が乗っているビンテージチャートが、2コーナーも3コーナーも4コーナーも3番手か5番手あたりにいて、その赤いヘルメットから目をはなせなくなりました。
ダート1800㍍のゴール前。なんとなんと赤いヘルメットが、バテるどころか踏んばって、踏んばって踏んばって、もうドキドキなんてもんじゃなくて、わたくしの脳ミソも心臓の血管も、ヘソのあたりもキンタマのあたりも、どうかなってしまうみたいに、さわいでさわいで、目の前がかすんでしまいそうになりました。
どんけつ人気が勝ったのです。いくらつくのか。いくらつくのか。見当がつかずに、昨日のトーセンジャガーはどんけつ人気なのに2,810円だったから、そんなものかもなと、決定を待っていると、いちまんろっぴゃくにじゅうえん、とテレビに出て、天井からも天使のような声が、いちまんろっぴゃくと言うではありませんか。
今、3月9日の夜です。どうしても手紙を書きたくなって、コトバ会のあとの飲み会でもらった名刺を前に置いて、だらだらと書いてしまいましたが、どんけつ人気でもらった配当金で、わたくしはどうしても、吉川さんに、うちの近くの焼肉屋でおごりたいと思って、手紙を書いたのです。
ケイタイ番号を書いておきますので、ぜひ、ぜひ、電話を待っています。おごらせてください」
横浜市戸塚区の森井さんからの手紙である。2014年3月11日に来た。東日本大震災から3年が過ぎた日である。昨日は米軍の東京大空襲から69年が過ぎた日と考えながら、こんなに楽しい手紙が届いてもいいものか、と私は思った。
私の競馬友だちである横浜の倉庫会社の社長が数年前から、20人ほどは座れる川崎の会議室を借り、年に一度、講師を招いて話を聞く「コトバ会」を主催している。私に声がかかり、私の話を森井さんが聞いてくれたというわけだ。
その二次会でもらった森井さんの名刺をあらためて見ると、職業は鉄鋼業界紙記者だった。年令は50代半ばと私には思える。
森井さんからの手紙を前にして私は、コトバ会で自分が、104歳で亡くなったばかりの、まど・みちおさんの詩について喋っていたのを思いだしていた。
「ぞうさんぞうさん、おはながながいのね、そうよ、かあさんもながいのよ。
この、ぞうさんの歌を作詞したまど・みちおという詩人は、自分のことを、不思議がり、と言っていたそうです。何でも見すごさずに、不思議がってしまう。
ぼくも、ぞうさんの詩を不思議がってみると、こんなに簡単に、こんなに深い意味をと、凄いなあって、おどろいてしまいます。
やぎさんゆうびんという歌を、まど・みちおは作詞しています。しろやぎさんからの手紙を、くろやぎさんが読まずに食べてしまい、仕方ないので、さっきの手紙の用事はなあにって?
なんともとぼけていて、ユーモアたっぷりで、しかし、ごようじなあにって、なんだかうれしい歌です。
まど・みちおはいのちというのはことばのことだと言っています。そうしてぞうさんとかやぎさんゆうびんのうたとか、ぼくは何度もつきあっているうち、まど・みちおの詩は、競馬の馬券の、どんけつ人気の馬の単勝を買って、一生懸命に応援しているような気がするんです。
すると、どこでもいつでもどんけつ人気から解放されないように思ってしまう自分が、まど・みちおの詩で、やさしくて強い生きものになれるぞという気持ちになるんです」
そんなふうに私は喋っていたのだけれども、それが森井さんのビンテージチャートの単勝につながっただなんて、それを私は、ぞうさんややぎさんに知らせたいなあと思ったのだった。
どんけつ人気といっても、負け犬になっているわけでなくて、どんけつ人気と感じることをバネにして、それで元気になるというのに、わたくしはとても共鳴したのです。
それにわたくしがよく行く横浜の場外が、言ってみればふるさとだなんて聞いて、わたくしもあそこが唯一の楽しみの場なので、うれしくなってしまいました。
チューリップ賞の日も横浜場外へ行ってました。ハープスターは負けないだろな。単勝が110円とか120円だろうな、と思ってしまう日、阪神のチューリップ賞の前の、中山のスピカSで、7頭立て7番人気のトーセンジャガーが勝ち、どんけつ人気のお話を思いだしました。
ハープスターは圧勝で、1・1倍でした。コトバ会のときに、吉川さんが、高知のクロスオーバーが別府真衣騎手で出走したら、どんけつ人気をバネにしている自分は、記念に100円、単勝を買い、仕事部屋の机に入れておくと言っていたのを思いだし、わたくしも100円、クロスオーバーの単を買いました。
中山の11RのオーシャンSもはずし、中山12Rでわたくしは、すこしヤケ気味に、15頭立て15番人気のテンゲントッパの単を200円勝ったら9着。1着は1番人気のミッキーナチュラルで、トイレへ行って笑いながら小便をしました。
翌日の弥生賞の日も横浜場外へ行き、吉川さんがいるかなと、探したりしました。
今日も昨日のハープスターと同じように、弥生賞はトゥザワールドが勝つだろうなあと思いながら、10Rの上総Sのとき、昨日のどんけつ人気で勝ったトーセンジャガーのレースが目に浮かんできて、上総Sの13頭立てどんけつ人気のビンテージチャートの単勝を100円買いました。
それで券売機から離れて、その馬券を見て、100円というのは最初から記念に買ったという気持ちで、あと100円、つまり200円買うようでなければ、その馬の単勝を狙っていることにならないと思い、100円の単をもう一枚、買いました。もちろん、このレース、堅そうだという考えもあり、馬連を3点、人気なのを500円ずつ買ってはいました。
レースになって、勝浦が乗っているビンテージチャートが、2コーナーも3コーナーも4コーナーも3番手か5番手あたりにいて、その赤いヘルメットから目をはなせなくなりました。
ダート1800㍍のゴール前。なんとなんと赤いヘルメットが、バテるどころか踏んばって、踏んばって踏んばって、もうドキドキなんてもんじゃなくて、わたくしの脳ミソも心臓の血管も、ヘソのあたりもキンタマのあたりも、どうかなってしまうみたいに、さわいでさわいで、目の前がかすんでしまいそうになりました。
どんけつ人気が勝ったのです。いくらつくのか。いくらつくのか。見当がつかずに、昨日のトーセンジャガーはどんけつ人気なのに2,810円だったから、そんなものかもなと、決定を待っていると、いちまんろっぴゃくにじゅうえん、とテレビに出て、天井からも天使のような声が、いちまんろっぴゃくと言うではありませんか。
今、3月9日の夜です。どうしても手紙を書きたくなって、コトバ会のあとの飲み会でもらった名刺を前に置いて、だらだらと書いてしまいましたが、どんけつ人気でもらった配当金で、わたくしはどうしても、吉川さんに、うちの近くの焼肉屋でおごりたいと思って、手紙を書いたのです。
ケイタイ番号を書いておきますので、ぜひ、ぜひ、電話を待っています。おごらせてください」
横浜市戸塚区の森井さんからの手紙である。2014年3月11日に来た。東日本大震災から3年が過ぎた日である。昨日は米軍の東京大空襲から69年が過ぎた日と考えながら、こんなに楽しい手紙が届いてもいいものか、と私は思った。
私の競馬友だちである横浜の倉庫会社の社長が数年前から、20人ほどは座れる川崎の会議室を借り、年に一度、講師を招いて話を聞く「コトバ会」を主催している。私に声がかかり、私の話を森井さんが聞いてくれたというわけだ。
その二次会でもらった森井さんの名刺をあらためて見ると、職業は鉄鋼業界紙記者だった。年令は50代半ばと私には思える。
森井さんからの手紙を前にして私は、コトバ会で自分が、104歳で亡くなったばかりの、まど・みちおさんの詩について喋っていたのを思いだしていた。
「ぞうさんぞうさん、おはながながいのね、そうよ、かあさんもながいのよ。
この、ぞうさんの歌を作詞したまど・みちおという詩人は、自分のことを、不思議がり、と言っていたそうです。何でも見すごさずに、不思議がってしまう。
ぼくも、ぞうさんの詩を不思議がってみると、こんなに簡単に、こんなに深い意味をと、凄いなあって、おどろいてしまいます。
やぎさんゆうびんという歌を、まど・みちおは作詞しています。しろやぎさんからの手紙を、くろやぎさんが読まずに食べてしまい、仕方ないので、さっきの手紙の用事はなあにって?
なんともとぼけていて、ユーモアたっぷりで、しかし、ごようじなあにって、なんだかうれしい歌です。
まど・みちおはいのちというのはことばのことだと言っています。そうしてぞうさんとかやぎさんゆうびんのうたとか、ぼくは何度もつきあっているうち、まど・みちおの詩は、競馬の馬券の、どんけつ人気の馬の単勝を買って、一生懸命に応援しているような気がするんです。
すると、どこでもいつでもどんけつ人気から解放されないように思ってしまう自分が、まど・みちおの詩で、やさしくて強い生きものになれるぞという気持ちになるんです」
そんなふうに私は喋っていたのだけれども、それが森井さんのビンテージチャートの単勝につながっただなんて、それを私は、ぞうさんややぎさんに知らせたいなあと思ったのだった。