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第149回 「3冠」

2023.08.10

 2023年7月12日、東京・大井競馬場で第25回ジャパンダートダービーが行われ、1番人気のミックファイア(牡3歳、大井・渡邉和雄厩舎)が優勝。デビューからの6連勝で、羽田盃、東京ダービーに続く南関東3冠制覇を果たした。


 レースは11頭で争われた。これまで南関東所属馬を相手に5連勝してきたミックファイアにとって、中央勢7頭を向こうに回す試練のレースだった。しかし5連勝で2着につけた着差の合計25馬身というミックファイアはいかんなく実力を発揮した。最後の直線で末脚を伸ばし、2着の中央所属馬キリンジに2馬身1/2差をつけ、1着でゴールした。


 地方・南関東の3冠路線は時代ごとに大きく変化してきた。現在のように羽田盃(1800m)、東京ダービー(2000m)、ジャパンダートダービー(2000m)になった2004年以降では、ミックファイアが初めての南関東3冠馬だ。


 地方競馬全国協会(NAR)と日本中央競馬会(JRA)は全日本的なダート競走の体系整備の一環として、来年2024年に3歳ダート3冠レースを創設すると発表していた。これまで地方・南関東の3冠レースのうち羽田盃と東京ダービーは南関東(船橋、浦和、大井、川崎)所属馬限定戦だったが、これをダートグレード競走とし、JRA所属馬、地方の他地区所属馬にも開放する。重ねてジャパンダートダービーはジャパンダートクラシックと名称を変更した上、10月に移設する。というのが新しい3歳ダート3冠だ。ダート3冠路線が大きく変わることになる最後の年にミックファイアという無敗の3冠馬が誕生したことは時代の変わり目を象徴する出来事だった。


 もともと南関東3冠レースを形成していたのは羽田盃、東京ダービー、東京王冠賞の3レースだった。1955年に現東京ダービーである「春の鞍」が創設された。翌1956年に羽田盃が始まり、東京王冠賞が1964年にできて、3冠レースがそろった。史上初めて南関東3冠馬になったのは1967年のヒカルタカイだ。当時は5月の羽田盃(2000m)、6月の東京ダービー(2400m)、11月の東京王冠賞(2400m)と3レースとも現在とは距離が違い、3冠最後の東京王冠賞は開催時期が11月だった。ヒカルタカイは後に中央に移籍し、1968年の天皇賞・春と宝塚記念を制し、この年の最優秀4歳以上牡馬に選ばれている。


 2頭目の3冠馬になった1975年のゴールデンリボー、3頭目のハツシバオーまでは羽田盃、東京ダービー、東京王冠賞の開催距離、開催時期はともにヒカルタカイの頃と同じだった。


 4頭目のサンオーイ(1983年)、5頭目のハナキオー(1986年)、6頭目のロジータ(牝馬、1989年)の時は東京王冠賞が距離2600㍍で行われていた。


 7頭目のトーシンブリザード(2001年)は過去のいずれの馬とも違い、4月の羽田盃(1600m)、5月の東京王冠賞(1800m)、6月の東京ダービー(2000m)、7月のジャパンダートダービー(2000m)という「3冠プラス1冠」を達成した。東京王冠賞はこの年を最後に廃止され、翌2002年からは羽田盃、東京ダービー、ジャパンダートダービーが3冠レースを形づくることになった。ミックファイアは史上8頭目で最後の南関東3冠馬である。


 ミックファイアの母系をさかのぼると凱旋門賞馬オールアロングにたどり着く。母マリアージュ、その母アーミールージュ(USA)、その母がオールアロングである。オールアロングは筆者にとって思い出の馬だ。競馬記者になった1982年、ジャパンカップに出走するためフランスから来日したのが、当時3歳のオールアロングだった。日本の秋華賞に当たるヴェルメイユ賞で優勝し、続く凱旋門賞で15着に終わった後、来日した。スポーツ紙記者だった筆者はオールアロングに◎を打った。ジャパンカップでは米国のハーフアイストに次ぐ2着となった。


 オールアロングが本格化したのはジャパンカップに出走した翌年の1983年だ。凱旋門賞で優勝を果たすと、カナダに遠征してロスマンズインターナショナル、米国のターフクラシックS、ワシントンDCインターナショナルとGⅠレース4連勝を飾り、米国の表彰制度であるエクリプス賞で年度代表馬の栄誉に浴した。


 凱旋門賞馬と日本の3冠馬。ミックファイア以外に、そんな血統背景を持つ馬がいないかと調べてみたところ、牝馬で唯一南関東3冠馬となったロジータが該当した。父はミルジョージ(USA)。その父ミルリーフMill Reef(USA)は1971年に英ダービー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、凱旋門賞という近代欧州3冠と呼ばれるレースを制した名馬。ミルジョージは母方にリボーRibot(GB)の血も受け継いでいた。リボーは1955年と1956年に凱旋門賞を2連覇した16戦16勝の無敗馬である。中央競馬の3冠馬ナリタブライアンにも、父ブライアンズタイム(USA)の母系にリボーの名前が見られる。


 4歳で本格化したオールアロングの血を受け継ぐミックファイアには今後もさらなる飛躍を期待したい。

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