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第150回 「好発」

2023.09.21

 新種牡馬スワーヴリチャード(牡9歳)が2023年8月14日時点の集計で、JRAの2歳部門のリーディング種牡馬になった。この時点で産駒26頭が34回走り、8頭が計9勝を挙げた。獲得賞金は9,139万2,000円となり、2位のモーリスの8,907万円に約200万円の差をつけた。1週間後の8月21日時点でも1勝を上乗せし、首位の座を守った。


 6月3日に東京、阪神でJRAの今年の2歳戦が始まって11週間が過ぎた時点でのリーディング獲得は、新種牡馬にとって、これ以上ないスタートダッシュだ。2010年に産駒が走り始めた種牡馬ディープインパクトはこの年、新種牡馬として歴代最高の41勝を挙げ、賞金も5億3,704万3,000円を記録した。そのディープインパクトでさえ、同じ2歳戦が始まって11週がたった時点の産駒の勝ち星は5勝にすぎなかった。倍近い9勝を挙げているスワーヴリチャードの今後には大いに期待が持てそうだ。


 スワーヴリチャード産駒のJRA初出走となったのは6月4日の東京競馬第5レースだった。牝馬限定の新馬戦(芝1600㍍)に2頭が出走し、コラソンビートが3着、ミスファントムが9着になった。初勝利は6月24日、東京競馬第5レースの新馬戦だった。三浦皇成騎手が手綱を取った5番人気のヴェロキラプトル(牡、栗東・高野友和厩舎)は好スタートを決めると、そのまま芝1800㍍を1分49秒3のタイムで逃げ切った。


 ヴェロキラプトルは米国産のルーヴインペリアルを母に持つ社台ファームの生産馬。母の父はジャイアンツコーズウェイで、母の母リューヴトリーは仏オークスで2着の実績がある。ヴェロキラプトルは2022年のセレクトセール1歳セッションに出場し、馬主の加藤裕司さんに5,600万円(税抜き)で落札された。


 ヴェロキラプトルが父スワーヴリチャードに記念すべき1勝をプレゼントした翌日の東京競馬場で、初出走で3着だったコラソンビート(牝、美浦・加藤士津八厩舎)が1番人気に応え、自身の初勝利を手にした。コラソンビートはビッグレッドファームの生産馬で母はルシェルドール。やはり加藤士津八調教師が管理した。その父はオルフェーヴルなのでサンデーサイレンス(USA)の3×4という血統背景を持つ。コラソンビートはその後、8月6日のダリア賞(新潟芝1400㍍)でも1番人気に応えて快勝し、2勝目を挙げた。


 8月13日の札幌競馬第5レースの新馬戦(芝1800㍍)ではアーバンシック(牡、美浦・武井亮厩舎)が1着、ヴィクトリアドール(牝、栗東・奥村豊厩舎)が2着となり、スワーヴリチャード産駒が上位を独占した。


 スワーヴリチャードの現役時代のイメージは「遅咲き」だった。4歳時の2018年に大阪杯を制して、GⅠ初勝利を飾り、5歳時の2019年にジャパンカップで優勝した。2歳でデビューして、3歳の2月に共同通信杯で重賞初白星を挙げるなどクラシック戦線を沸かせた。それでも印象は古馬になってから完成された遅咲きタイプというものだった。産駒がこれほど早い時期から活躍するとは予想できなかった。


 スワーヴリチャードは2014年3月10日、ノーザンファームで誕生した。父は有馬記念やドバイシーマクラシックの優勝で知られるハーツクライ、母ピラミマは米国産でJRAで2戦0勝の戦績を残した。母の父は米国のGⅠ2勝を挙げているアンブライドルズソングという血統だ。ホワイトマズル(GB)を父に持つ半兄のバンドワゴンはJRAで4勝を挙げている。


 スワーヴリチャードは2014年のセレクトセール当歳セッションに出場し、(株)MMBに1億5,500万円(税抜き)で落札された。この年の当歳セッションでは4番目の高額取引だった。栗東の庄野靖志厩舎に入り、2016年9月に阪神でデビューした。翌年の日本ダービーではレイデオロの2着になった。先述した共同通信杯、大阪杯、ジャパンカップのほかアルゼンチン共和国杯、金鯱賞と5つの重賞勝ちがある。このうち4つが左回りコースに集中している点が現役時から特長だと言われていた。


 けれども産駒の勝ち星は東京2勝、函館2勝、福島1勝、札幌2勝、新潟1勝、小倉1勝と1カ所に偏ることなく、どんな競馬場でも頑張っている。


 どうしてもスワーヴリチャードは遅咲きだというイメージを持ってしまうが、改めて血統を調べてみると仕上がりが早くても不思議ではないことがわかる。母系は米国で2歳時から活躍している馬を多数含んでいるし、父ハーツクライもこれまでのJRA平地重賞80勝(8月14日現在)のうち12勝を2歳重賞で挙げている。GⅠである朝日杯フューチュリティSはサリオスとドウデュースが勝っており、ホープフルSもタイムフライヤーが優勝した。このほかにもワンアンドオンリーやリスグラシューが2歳のうちに重賞勝ちを収めている。


 今年の2歳戦線には、ディープインパクト産駒もキングカメハメハ産駒もいない。その後継種牡馬がどの馬になるのか。誰もが関心を持って見つめる中、スワーヴリチャードが飛び出した。

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