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第148回 「凄味」

2023.07.10

 2023年6月3日、英国エプソム競馬場で第244回英ダービーが行われた。優勝したのはディープインパクトを父に持つアイルランド調教馬オーギュストロダン(牡3歳、エイダン・オブライエン厩舎)だった。2019年7月に死んだディープインパクトの数少ない最終世代の1頭がとてつもない偉業を成し遂げた。

 14頭で争われたレースで、ライアン・ムーア騎手が騎乗したオーギュストロダンは後方から5、6番手を進んだ。最後の直線でキングオブスティールがいい手ごたえで先頭に躍り出る。ワンテンポ遅れてスパートしたオーギュストロダンが外から追いすがり、ゴール前は2頭のマッチレースになった。最後はオーギュストロダンがキングオブスティールに1/2馬身差をつけてゴール。ムーア騎手にとっては3度目、オブライエン調教師にとっては9度目の英ダービー制覇が達成された。

 オーギュストロダンの母ロードデンドロンは2014年にアイルランドで生まれたガリレオの娘。現役時代は2歳時にフィリーズマイル(英)、3歳時にオペラ賞(仏)、4歳時にロッキンジS(英)とGⅠ3勝を挙げたほか2017年の英オークスでは5馬身差の2着に終わったものの、凱旋門賞2連覇のエネイブルと激戦を演じたこともある実力馬だ。世界的な競馬組織であるクールモアは、ディープインパクトと交配するためロードデンドロンを日本に送り、受胎を確認後、アイルランドに戻し、オーギュストロダンを誕生させた。

 2歳のデビュー戦こそ2着に終わったオーギュストロダンだが、2戦目からは3連勝。3連勝目のGⅠフューチュリティトロフィー(芝8ハロン)の勝ちっぷりの良さから2023年の英ダービーの最有力候補と言われる存在になった。数々の大レースを制してきたオブライエン調教師が「私が育てた中で、もっともエキサイティングな馬」と評し、人気に拍車がかかった。迎えた3歳初戦の英2000ギニー。当然のように14頭立てのレースで1番人気に支持されたオーギュストロダンだったが、レースはまったく見せ場もなく惨敗。優勝馬から22馬身も離された12着に終わった。この現実を突きつけられてもなお、オブライエン調教師の英ダービーに対する強気の姿勢は変わらなかった。オーギュストロダンの英ダービー制覇は同レース史上でもまれに見る大逆転勝利となった。

 最終世代でついに世界のクラシック競走の頂点である英ダービー制覇を成し遂げた種牡馬ディープインパクトだが、産駒の欧州クラシック制覇はこれが初めてではない。合わせて7度もマークしている。達成順に挙げる。2012年ビューティーパーラー(仏1000ギニー)、2018年サクソンウォリアー(英2000ギニー)、2018年スタディオブマン(仏ダービー)、2020年ファンシーブルー(仏オークス)、2021年スノーフォール(英オークス、愛オークス)、そしてオーギュストロダンの英ダービーと続く。

 国内でディープインパクト産駒は初年度のマルセリーナからアスクビクターモアまで12世代連続でクラシック24勝を挙げた。改めて、その軌跡を紹介する。

 【2011年】マルセリーナ(桜花賞)【2012年】ジェンティルドンナ(桜花賞、オークス)ディープブリランテ(ダービー)【2013年】アユサン(桜花賞)キズナ(ダービー)【2014年】ハープスター(桜花賞)【2015年】ミッキークイーン(オークス)【2016年】ディーマジェスティ(皐月賞)シンハライト(オークス)マカヒキ(ダービー)サトノダイヤモンド(菊花賞)【2017年】アルアイン(皐月賞)【2018年】ワグネリアン(ダービー)フィエールマン(菊花賞)【2019年】グランアレグリア(桜花賞)ラヴズオンリーユー(オークス)ロジャーバローズ(ダービー)ワールドプレミア(菊花賞)【2020年】コントレイル(皐月賞、ダービー、菊花賞)【2021年】シャフリヤール(ダービー)【2022年】アスクビクターモア(菊花賞)

 皐月賞3勝、ダービー7勝、菊花賞5勝、桜花賞5勝、オークス4勝で計24勝という記録はディープインパクトの父サンデーサイレンス(USA)が持っていた23勝を超えて、歴代トップの記録となった。

 この原稿を書いている時点で最終世代に残された国内のクラシック競走は10月の菊花賞だけになった。国内での全13世代クラシック制覇という空前絶後の大記録達成の可能性もわずかながら残っているが、国内と欧州を合わせれば、全世代クラシック制覇はオーギュストロダンによって達成された。

 オーギュストロダンより一足先に種牡馬になった英2000ギニー馬サクソンウォリアー(JPN)は初年度産駒のヴィクトリアロードが2022年、米ブリーダーズカップジュベナイルターフ(芝8ハロン)で優勝するなど幸先のいいスタートを切っている。いずれはオーギュストロダンも種牡馬入りし、ディープインパクトのDNAを世界中に広げてくれることになりそうだ。

 オーギュストロダンの英ダービー制覇は、改めてディープインパクトの凄味がわかる素晴らしい出来事だった。

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