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第133回 「外貨」

2022.04.11
 現地時間2月26日に行われた「サウジカップデー」は日本の競馬界にとって驚くべき結果だった。遠征した12頭の日本調教馬が計6レースに出走し、重賞4勝を挙げ、入着賞金を含め約7億円もの賞金を稼いだ。サウジアラビア・リヤドのキングアブドゥルアジーズ競馬場で勝利を挙げたのは次の4頭だった。優勝したレースはいずれもGⅢだ。
 ■オーソリティ(牡5歳、美浦・木村哲也厩舎)=ネオムターフC、芝2100メートル■ソングライン(牝4歳、美浦・林徹厩舎)=ターフスプリント、芝1351メートル■ステイフーリッシュ(牡7歳、栗東・矢作芳人厩舎)=レッドシーターフH、芝3000メートル■ダンシングプリンス(牡6歳、美浦・宮田敬介厩舎)=リヤドダートスプリント、ダート1200メートル

 改めて調べてみると、各馬のレース選択が好結果を呼び込んだことがわかる。オーソリティのJRAでの成績を見てみよう。通算11戦5勝で青葉賞、アルゼンチン共和国杯2連覇と重賞は3勝。重賞勝ちはすべて東京競馬場で挙げたもので、昨年のジャパンカップもコントレイルの2着と健闘した。東京競馬場は5戦3勝、2着2回と完璧に近い「左回り巧者」なのだ。

 それはソングラインにも共通する特徴だ。通算8戦3勝。大敗したのは右回りの阪神競馬場で走った桜花賞と阪神Cの2度だけ。あとの6戦はすべて左回りで3勝、2着2回、3着1回と常に馬券圏内に入っている。ダンシングプリンスは中央デビュー後に一度地方競馬に移籍したことがある。地方時代に左回りの船橋競馬場で3戦3勝の成績を残していた。

 同じ左回りで中京競馬場を少し大きくしたようなキングアブドゥルアジーズ競馬場は、この3頭にとって絶好の舞台だったわけだ。2月のこの時期、左回りの東京、中京、新潟の各競馬場は開催していないか、開催していても適当な出走レースがなければ、必然的に関係者の視線は海外に向く。国内にとどまらない視野の広さは敬服するしかない。

 2020年に新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるい始めて2年あまりが経つが、日本調教馬の海外での活躍はとどまることを知らない。昨年はラヴズオンリーユー(牝2016年生まれ)が史上初のブリーダーズC制覇と年間海外GⅠ3勝の偉業を達成。マルシュロレーヌ(牝2016年生まれ)がブリーダーズCディスタフで1着となり、日本調教馬による米ダートGⅠ勝利という史上初の記録を達成した。

 こうした成果は長年にわたる経験から海外遠征という難事を克服するノウハウを磨いてきた日本の競馬関係者の努力の賜物だ。

 日本調教馬が海外に進出し、数々の成果を挙げるようになって20年あまりが経つ。航空機による長距離輸送のノウハウが蓄積されたのと同時に、どんなタイプが海外遠征に強いのかという適性もわかってきた。海外で活躍した日本調教馬の賞金ランキングを作ってみた。記録は昨年末現在のもので今年のサウジアラビア分は含まれていない。

 堂々の第1位に輝いたのはヴィブロス(牝2013年生まれ)だ。2017年から3年連続でアラブ首長国連邦(UAE)に遠征。芝1600メートルのドバイターフに出走し、1、2、2着となり、2018年には香港マイルにも遠征して2着になった。GⅠ4戦で獲得した賞金は7億6,764万8,400円だった。国内では2016年の秋華賞制覇など13戦3勝で獲得賞金は1億8,609万8,000円。国内の4倍の「外貨」を稼ぎ出した。

 第2位は前述したラヴズオンリーユー。昨年1年間でドバイシーマクラシック(UAE)3着、クイーンエリザベスⅡ世C(香港)、ブリーダーズカップフィリー&メアターフ(米)、香港Cと4戦3勝の成績を残し、5億7,519万9,700円を獲得した。国内での獲得賞金は3億3,874万9,000円。こちらも国内の約1.7倍の賞金を海外で手にした。

 第3位はモーリス(牡2011年生まれ)で香港のGⅠで3戦3勝の成績を残した。2015年に香港マイル、2016年には5月にチャンピオンズマイル、12月に香港Cで優勝している。獲得賞金は5億4,743万9,700円で国内の5億3,624万6,000円と合わせて総獲得賞金は10億円を超えた。

 以下ヴィクトワールピサ(牡2007年生まれ)、リアルスティール(牡2012年生まれ)、アドマイヤムーン(牡2003年生まれ)、ジェンティルドンナ(牝2009年生まれ)、アーモンドアイ(牝2015年生まれ)、エイシンプレストン(USA)(牡1997年生まれ)、ハーツクライ(牡2001年生まれ)と上位10位までが並ぶ。

 かつての日本は海外から競走馬、種牡馬や繁殖牝馬などを輸入する一方だったが、今では外貨を稼いでくるようになった。大きな進歩だろう。
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