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第5コーナー ~競馬余話~

有吉正徳 第5コーナー ~競馬余話~

第142回 「銀馬」

 2022年12月3日に中山競馬場で行われた第56回ステイヤーズSは、3番人気のシルヴァーソニック(牡6歳、栗東・池江泰寿厩舎)が優勝し、デビュー20戦目で待望の重賞初制覇となった。前年は3着に終わっていたレースで見事に雪辱を果たした。

 シルヴァーソニックは5月1日の天皇賞・春でスタート直後につまずいて落馬。ステイヤーズSは、それ以来となる7カ月ぶりの実戦だった。「使われている時と同じ状態だった。仕上げてくれた牧場の方に感謝したい」と池江調教師がレース後に語ったように休み明けの不利を難なく克服してみせた。

 父オルフェーヴル、母エアトゥーレ、母の父トニービン(IRE)という血統のシルヴァーソニックが重賞タイトルを獲得したことにより、4きょうだい重賞制覇という快記録も達成された。

 母のエアトゥーレは1997年生まれ。栗東の森秀行厩舎で育てられ、2001年の重賞・阪神牝馬Sで優勝するなど中央競馬で20戦6勝の成績を残した。2002年にはシンガポール、フランス、英国に遠征。フランスのGⅠモーリスドゲスト賞では2着に食い込む健闘も見せた。2003年3月の高松宮記念を最後に現役を引退し、繁殖牝馬になった。

 2004年、フジキセキとの間に産んだ初子がアルティマトゥーレ(牝)だった。短距離戦に強かったアルティマトゥーレは2009年にセントウルS、2010年にシルクロードSという二つのスプリント重賞を勝ち取った。

 エアトゥーレは翌2005年にアグネスタキオンとの間にキャプテントゥーレ(牡)を出産。キャプテントゥーレは2008年の皐月賞を含め重賞4勝を手にした。

 クランモンタナは2009年、ディープインパクトとエアトゥーレとの間に誕生した牡駒だ。2016年、7歳の時に小倉記念で優勝した。デビューから40戦目という遅咲きだった。転向した障害でも1勝を挙げるなど、9歳まで息長く54戦を積み重ねた。シルヴァーソニックはステイヤーズSを制し、3きょうだいに次ぐ重賞ウイナーとなった。

 距離3600㍍の長丁場で争われるステイヤーズSで芦毛馬が優勝したのは1985年のホッカイペガサス以来、実に37年ぶりのことだった。56回の歴史の中で3頭目だが、ほかの2頭ホッカイノーブル(父フアーザーズイメージ(USA)、母オプアート(USA))とホッカイペガサス(父ホッカイダイヤ、母オプアート)は半兄弟の間柄だった。

 同じく長距離の3200㍍で争われる天皇賞・春はタマモクロス、メジロマックイーン、ビワハヤヒデ、ヒシミラクル、ゴールドシップと芦毛の優勝馬が数多いのに対し、ステイヤーズSでの苦戦は少し意外だった。

 芦毛馬は両親のどちらかが芦毛でなければ生まれてこない。シルヴァーソニックの芦毛はどこから来ているのか。血統をたどってみると芦毛は母系から来ていることがわかる。母エアトゥーレが芦毛。その母スキーパラダイス(USA)、その母スキーゴーグルと芦毛をさかのぼっていくとマームードに行き着いた。

 1933年、フランスで生まれたマームードは英国で競走馬になった。1936年の英国ダービーでは2分33秒8という驚異的なレースレコードで優勝し、父ブレニムに次ぐ父子2代制覇を達成した。マームードは、この時点で英国ダービーで優勝した3頭目の芦毛馬だった。この時に樹立したレースレコードは1995年にラムタラ(USA)に破られるまで58年も保持された大記録だった。好タイムで英国ダービーを制したマームードの真価が発揮されるのは現役を引退して、種牡馬になってからだった。

 1937年から1940年までは英国で、1941年から1958年まで米国で供用され、1946年には米国で種牡馬ランキング1位に輝いている。そして1947年に、その後の血統地図を塗り替えるような名牝をこの世に送り出した。それがアルマームードだ。アルマームードは父マームード、母アービトレータとの間に米国で生まれた。競走成績は11戦4勝。現役を引退して、コズミックボムとの交配で1953年に誕生した牝馬がコスマーである。コスマーは1969年にヘイルトゥーリーズンとの間にヘイローを出産した。ご存じの通り、ヘイローはサンデーサイレンス(USA)の父である。サンデーサイレンスは、たった1頭で日本の競馬に大変革を起こしたことは疑う余地のない事実だ。

 コスマーを産んだことだけでも大きな功績だが、アルマームードはコスマーの4年後にナタルマ(父ネイティヴダンサー)を産む。ナタルマは言わずと知れたノーザンダンサーの母である。ニジンスキー、サドラーズウェルズなどノーザンダンサー産駒は世界中で活躍し、その血統を広げていった。その影響力は近代競馬では一番だろう。

 アルマームードは栗毛で父マームードの芦毛を受け継ぐことはなかったが、その競走能力や遺伝力はしっかりと後世に伝えた。