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第162回 「夏馬」

2024.09.11

 2024年8月11日は「種牡馬イスラボニータの日」になった。


 口火を切ったのは札幌競馬場のプルパレイ(セン5歳、栗東・須貝尚介厩舎)だった。武豊騎手を背にオープン特別のUHB賞(芝1200m)に出走したイスラボニータの息子は好位置を進み、最後の直線で先頭に立つと、猛追するキミワクイーンを抑え、1着でゴールした。3歳の3月にGⅢファルコンS(中京競馬場、芝1400m)を制して以来、2年5か月ぶりの通算4勝目となった。


 プルパレイの快走から約10分後、コスタボニータ(牝5歳、栗東・杉山佳明厩舎)が続いた。イスラボニータの娘は坂井瑠星騎手と初コンビを組み、中京競馬場で行われた小倉記念(芝2000m)に出走した。レースはテーオーシリウスが引っ張るハイペースで進んだ。コスタボニータはこの流れを2番手で追走。残り300m付近で先頭に立つと、ゴール寸前まで踏ん張った。最後は1番人気のリフレーミングにかわされ、惜しくも2着になったものの、従来の記録を0秒7も更新する勝ちタイム1分56秒5で決着したレースで勝ち馬との差はクビだった。4月の福島牝馬Sに続く重賞2勝目はならなかったが、牡馬相手の小差2着は価値があった。


 「イスラボニータの日」の締めくくりは新潟競馬場で行われた重賞・関屋記念(芝1600m)だった。3番人気に支持されたトゥードジボン(牡5歳、栗東・四位洋文厩舎)は7枠15番ゲートからスタートした。外枠だったが松山弘平騎手は迷わず、トゥードジボンを先頭に導き、レースの主導権を握った。中間地点の800m通過が47秒7というラップは、15年以降の最近10年で3番目に遅いスローペース。そうなればもう、トゥードジボンの思うつぼだ。上がり3ハロンを33秒3でまとめ、まんまと逃げ切った。21年6月のデビュー以来18戦目にしてつかんだ初重賞のタイトルだった。8月11日の3頭の活躍によって、イスラボニータの種牡馬ランキング(JRA分)は前の週の21位から18位へと上昇した。


 イスラボニータ産駒のJRA重賞制覇はトゥードジボンの関屋記念で5つ目になった。プルパレイのファルコンSは22年、ヤマニンサルバムの中日新聞杯は23年だったが、コスタボニータの福島牝馬S、ヤマニンサルバムの新潟大賞典、そしてトゥードジボンの関屋記念と5勝のうち3勝は今年に入ってから手にしたものだ。ようやくイスラボニータの真価が発揮されてきたようだ。その中身を見てみると、今年の重賞3勝はいずれも福島、新潟という平坦コースでの勝利だ。重賞勝ちした4頭はいずれも19年生まれの5歳である。キャリアを重ねることによって、父のイスラボニータから譲り受けたスピードをコントロールする術を覚え、そのスピードが平坦コースで生きたのではないか。そう推察することができる。


 イスラボニータは11年5月21日、北海道の(有)社台コーポレーション白老ファームで生まれた。父フジキセキ、母イスラコジーン(USA)、母の父Cozzene(USA)という血統だ。イスラコジーンは米国の現役時代に11戦2勝の成績を残した。05年7月、日本調教馬シーザリオが優勝したアメリカンオークスにも出走しており、イスラコジーンは9着だった。来日後の09年に種付けをしたが不受胎。フジキセキとの間にできたイスラボニータが日本での最初の産駒になった。


 イスラボニータは美浦の栗田博憲調教師のもとで育てられ、25戦8勝の成績を残した。重賞は6勝。GⅠは14年の皐月賞、GⅡは14年のセントライト記念、17年のマイラーズCと阪神C、GⅢは13年の東京スポーツ杯2歳Sと14年の共同通信杯。1番人気で臨んだ14年の日本ダービーではワンアンドオンリーと最後まで競り合い、2着だった。2歳から6歳まで息の長い活躍を続けた。


 イスラボニータは父フジキセキの数少ない後継種牡馬だ。フジキセキは名馬サンデーサイレンス(USA)の初年度産駒としてデビューから無傷の4連勝で1995年のクラシック戦線に臨むはずだったが、皐月賞直前に脚部不安が判明。無念の引退となった。現役生活は短かったが、種牡馬としては大成功した。産駒はJRAで1,527勝を挙げた。これは中央競馬史上7位の好成績だ。また初年度の96年生まれから最終世代の11年生まれまで16世代連続重賞勝ちという記録も残した。イスラボニータはフジキセキが最終世代で送り出した唯一のクラシック馬だ。


 94年8月20日、フジキセキは競走馬としての第一歩を新潟競馬場で踏み出した。まだ右回りだった新潟競馬場の芝1200㍍戦で桁違いの末脚を披露。2着馬に8馬身もの差をつけ圧勝デビューを飾った。


 息子のイスラボニータも14年9月21日、中山競馬場改修のため新潟競馬場に場所を移して行われたセントライト記念で快勝した。そして今年、イスラボニータの息子であるヤマニンサルバムとトゥードジボンが新潟競馬場で重賞勝利を飾った。この一族に共通する持ち前のスピードは水捌けがよく、平坦で高速決着になる新潟競馬場はもっとも能力が発揮できる場所なのだろう。


 「夏は牝馬」「夏は芦毛」という格言があるが、「夏はイスラボニータ」も加えたいところだ。

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