北海道馬産地ファイターズ
第177回 『マークカードよりスマホ』
今年の夏もJRA北海道シリーズが行われている函館、札幌の両競馬場でビギナーズセミナーの講師を担当させていただいている。
昨年のセミナーと違うのは「ビギナーズセミナーツアー」とも言われる、「体験コース」が復活したことである。
この体験コースの内容だが、まずは馬券の種類や購入方法、もしくは競馬新聞の読み方と、いずれかのセミナーを受講。その後に体験コース参加者の皆さんとパドックへと赴いて、周回する馬を見てもらうだけでなく、その後は馬券購入とレース観戦までも同行するという、競馬初心者の方にはうってつけの内容となっている。
ちなみに、セミナー受講者の体験コース参加は自由となっているが、自分の感覚としてはほとんどの受講者の方に参加していただいている。個人的にもセミナーの後に、まだ教え足りない部分もあったと反省することが多く、それを体験コースで補えるのはありがたい。
この原稿の執筆時点では、北海道シリーズにおける約半分のセミナーを終えたが、その中で驚愕の事実が判明した。馬券の種類や購入方法のセミナーにおいて、事前に競馬場に来たきっかけなどといった、口頭アンケートを行っているのだが、その中に、「馬券の種類は知っているのですが、マークカードの書き方が分からなくて参加しました」と答えてきた方が複数名いたことである。一瞬、何を言っているか分からなくなり、対応に困ったものの、話を進めていくと納得がいった。馬券の購入歴こそあるが、マークカードの書き方が分からない方は、スマホ(あるいはタブレットやパソコン)で馬券を購入されてきた方だったのである。
自分の競馬歴を振り返ると、もうその頃にはマークカードがあった。ただ、口頭で馬券が購入できる窓口はまだ残っており、そこに並ぶ高齢の方を見ながら、「マークカードの書き方を教えたいなあ」とその頃からセミナー講師としての意識が芽生えていた(嘘)。その後、流し馬券が買える青いマークカードや、馬単、三連複、三連単の導入にともなって、ボックスやフォーメーションでの馬券が購入しやすくなる、赤いマークカードも出てくるようになった。
当時、この2つのマークカードを手に取った時には画期的!と手放しで喜んだ。だが、馬券の購入前にフォーメーションの買い目の点数を調べると、その数の多さに、「この赤いカードは危険だ…」と思うようになり、それからは馬券の購入前には必ず、自動発売機の「フォーメーション組合せ数照会機能」で買い目の点数をチェックするようにしている。
セミナーでは参加者の方から、「机に置いてある青いカードと赤いカードはなんですか?」と尋ねられることもあるが、その際は、「緑のカードで馬券を買えるようになってから、2つのカードを使ってみましょう!」とその存在を無かったことにしている。だが、スマホではマークカードの色も関係なく、しかも、ちょっとした馬券の知識さえあれば、いきなり三連単のフォーメーションを購入することも可能となっている。
現在、JRAでインターネット投票ができるのは、即PAT、A-PAT、JRAダイレクトの三種類。またNARでは地方競馬公式サービスのSPAT4だけでなく、楽天競馬やオッズパーク、そして日程指定はあるが、上記のJRAインターネット投票システムでも馬券の購入ができる。
コロナ禍でも馬券の売り上げが落ちなかったどころか、むしろ、毎年のように売り上げを更新し続けたJRA、そしてNARの各自治体であるが、これはインターネット投票の売り上げによるところが大きい。
外に出られなくなった分、テレビやインターネット配信を通して競馬を知るようになり、そして馬券購入にいきついたファンは、かなりの数がいたということなのだろう。
そのファンがコロナが5類感染症に移行したことを受けて、入場制限が無くなった競馬場に足を運び、そしてビギナーズセミナーにも来てくれているに違いない。
だが、それまではスマホをタッチすればすぐに購入できたはずの馬券が、開催されている競馬場の文字を塗りつぶし、レース番号と馬券の種類をなぞり、馬番号(あるいは枠番号)と、購入金額にも緑のえんぴつを走らせていくのは、どこか前近代的な気もしてきた。
だが、セミナー参加者の皆さんは、馬券を手にレースを観戦することを、好意的に受け止めてくれていた。その中には外れても、「初めて競馬場で馬券を買った記念ですから」
と外れ馬券を持ち帰る方がいたのには驚いた。やはりデータのやり取りよりも、実際に手元に残る馬券の方が思い出になるのかな、とも考えさせられた。