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第77回 「新境地」

2017.08.22
 7月6日に川崎競馬場のダート1600㍍を舞台にして行われた第21回スパーキングレディーカップはアンジュデジール(牝3歳、栗東・昆貢厩舎)が制し、デビュー9戦目で初の重賞タイトルを手にした。この勝利はアンジュデジールの父ディープインパクトにとって、記念すべき「ダート交流重賞初勝利」の1勝となった。
 今年で15歳になったディープインパクトは2008年生まれの初年度産駒から2015年生まれ現2歳世代まで、8世代を送り出した。「史上最強」と言われた実力はそのまま産駒に伝わった。初年度産駒が競走馬として走り始めた2010年以降、中央競馬で積み上げてきた勝ち星は1,413(2017年7月16日現在)に達した。5月21日に東京競馬場であった調布特別でゼウスバローズ(牡6歳、栗東・角居勝彦厩舎)が優勝し、通算1,380勝に達し、この時点でライジングフレーム(IRE)の1,379勝を抜いて、中央競馬歴代7位の勝利数になった。この原稿が掲載されるころには1,424勝のサクラバクシンオーを捉えて、歴代6位になっている可能性もある。

 初年度産駒が4歳になった2012年に初めてJRAのリーディングサイアーに輝いた。以来、毎年200勝以上、獲得賞金50億円以上という成績でトップの座を守り続けている。

 そんな完璧な種牡馬ディープインパクトにも苦手、弱点はある。それがダート競馬だ。1,413勝のうちダートでの勝ち星は134。1割にも満たない。

 2017年7月16日現在、ダート戦の通算成績は1,602戦134勝、2着136回。勝率は8.4%、連対率は16.9%にとどまっている。障害レースでさえ、182戦27勝、2着19回で勝率14.8%、連対率25.3%を記録しており、ディープインパクト産駒にとってダートは鬼門となっている。さらにいうと、JRAの重賞は計154勝も挙げているが、ダートの重賞は初年度産駒のボレアスが2011年のレパードS(新潟競馬場、1800㍍)を制したのが唯一の勝ち星だ。それだけにアンジュデジールのスパーキングレディーカップ優勝は価値のある勝利といえる。

 ただ最近のディープインパクト産駒には変化の兆しも見受けられる。

 昨年10月の菊花賞を前に、さかんに言われたのは長距離適性の欠如だった。サトノダイヤモンドは距離3000㍍を克服できるだろうか。菊花賞では2015年までに計19頭のディープインパクト産駒が出走し、2013年のサトノノブレスと2015年のリアルスティールが記録した2着が最高の着順で、優勝はなかった。さらに対象を天皇賞・春やステイヤーズSのような3000㍍以上の長距離レースに広げても、勝ち馬はいなかった。だからサトノダイヤモンドも距離が壁になって苦しむ。そんな見方もあったが、終わってみれば、2着に2馬身半差をつける完勝で距離不安を一掃した。

 種牡馬による産駒の特徴は時間を経て変わっていくことがある。「短距離向き」と言われたパーソロン(IRE)が距離2400㍍のオークス4連覇を果たし、晩年には3冠馬シンボリルドルフを送り出した。短距離界に逸材を生み出したサクラバクシンオーは世代を経て、母の父となって、名ステイヤー・キタサンブラックの誕生に寄与した。このように得意技だけでなく、苦手の部分を埋めていけるのが名種牡馬なのだろう。

 ディープインパクト産駒にもすでに種牡馬になった馬がいる。ディープブリランテとトーセンホマレボシだ。この2頭の産駒のダートでの成績を調べてみると、ディープブリランテは父に似ているが、トーセンホマレボシは父よりもダート適性が高そうだ。トーセンホマレボシ産駒は芝での勝率が3.6%なのに対し、ダートでは5.6%と芝以上の実績を残す。

 ディープインパクト産駒の特徴といえば、瞬発力や切れ味など運動神経の高さから来る「軽み」だったが、サトノダイヤモンドやアンジュデジールのように最近では長距離やダート戦をこなす重厚さ、「重み」が加わったような気がする。この「重み」がサトノダイヤモンドの凱旋門賞挑戦でプラスに働くことを願っている。
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