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第87回 「辛抱」

2018.06.11
 4月29日に京都競馬場の芝3200㍍で行われた第157回天皇賞・春は、2番人気のレインボーライン(牡5歳、栗東・浅見秀一厩舎)が優勝、挑戦10度目で念願のGⅠタイトルを手にした。
 挑戦10度目でのGⅠ制覇というのは、カンパニーの13戦目(2009年天皇賞・秋)、キングヘイローの11戦目(2000年高松宮記念)に次ぐ3番目のスロー出世。あきらめずにチャレンジしてきたことが結果的に吉と出た。父親のステイゴールドもJRAのGⅠレースは19戦して勝てなかったが、引退レースとなった香港ヴァーズでついにGⅠ優勝を果たした。遠回りして頂点にたどり着いた点はどこか父に似ている。

 ところがレインボーラインは天皇賞のレース直後、右前脚を痛め、岩田康誠騎手が下馬して馬運車で運ばれた。このため表彰式に出ることはできなかった。診断の結果は右前肢跛行。命にかかわるような大けがでなかったのは不幸中の幸いだった。1日も早い回復と、再びレースに戻ってくることを祈りたい。

 天皇賞・春に挑む前、レインボーラインは阪神大賞典(阪神競馬場・芝3000㍍)で優勝していた。この勝利は実に2年1か月ぶりの白星だった。阪神大賞典はレインボーラインにとっての通算4勝目だったが、通算3勝目が2016年2月のアーリントンC(阪神・芝1600㍍)である。

 レインボーラインは1600㍍と3200㍍、距離が倍も違う二つの重賞レースを勝ったことになる。こんなに守備範囲の広い馬が過去にいただろうか。1984年のグレード制導入以降の記録を調べてみたが、ほかには1頭も見つけることができなかった。

 芝1600㍍は根幹距離とされる。JRAのGⅠレースも芝・ダート合わせて8レースがマイル戦であり、「馬の能力をはかる意味で新馬戦はマイル戦を選ぶ」と口にする調教師に会ったこともある。

 レインボーラインが勝ったアーリントンCは1992年に創設された。基本的に阪神競馬場の芝1600㍍を舞台にするが、阪神競馬場の改修などの理由で、これまで中京と京都で1回ずつ行われたことがある。

 アーリントンCは「出世レース」として知られている。出走馬から後のGⅠ馬が多数誕生しているからだ。

 古い順に馬名を挙げる。マイネルラヴ(USA)(1998年スプリンターズS)、ダイタクヤマト(2000年スプリンターズS)、タニノギムレット(2002年ダービー)、ダンツフレーム(2002年宝塚記念)、ウインクリューガー(2003年NHKマイルC)、ロジック(2006年NHKマイルC)、ディープスカイ(2008年NHKマイルC、ダービー)、ローレルゲレイロ(2009年高松宮記念、スプリンターズS)、キンシャサノキセキ(AUS)(2010、11年高松宮記念)、エーシンフォワード(USA)(2010年マイルチャンピオンシップ)、ジャスタウェイ(2013年天皇賞・秋、14年安田記念)、コパノリチャード(2014年高松宮記念)、ミッキーアイル(2014年NHKマイルC、15年マイルチャンピオンシップ)、ラブリーデイ(2015年宝塚記念、天皇賞・秋)、ペルシアンナイト(2017年マイルチャンピオンシップ)、そしてレインボーラインとなる。

 ダービー馬2頭を含め「アーリントンC出身馬」のうち16頭がGⅠ馬になり、計22勝も挙げている。この馬たちは必ずしもアーリントンCの優勝馬ではない。キンシャサノキセキは6着、ラブリーデイは5着だった。3歳2月の最終週、あるいは3月の第1週に行われる重賞レースに出走できるレベルにあることが大切なのかもしれない。

 そのアーリントンCが今年様変わりした。NHKマイルCのトライアルレースになり、3着以内に入れば、NHKマイルCへの優先出走権が与えられることに変更された。この変更とともに開催時期が約1か月半後ろにずれた。

 この変更が出走馬の今後にどう影響するのかは、しばらく様子を見なければならない。今のまま出世レースであってほしいと思う。
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