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第129回 「BC」

2021.12.13
 いつか、この日が来ることを願ってはいたが、実際に達成されると、信じられないような気持ちもわき上がってきた。ラヴズオンリーユーとマルシュロレーヌによる米ブリーダーズカップ(BC)制覇だ。
 持ち回りで行われるBCの今年の舞台はカリフォルニア州デルマー競馬場だった。11月5日と6日の2日間で13のGⅠレースが行われる米国競馬の祭典だ。その第2日、先陣を切ったのはラヴズオンリーユー(牝5歳、栗東・矢作芳人厩舎)だった。

 出走したのはBCフィリー&メアターフ。3歳以上の牝馬が争う芝2200m戦には、地元米国馬から5頭のほか、英国馬3頭、アイルランド馬2頭、フランス馬1頭にラヴズオンリーユーを加えた12頭が集まった。JRAが発売した海外馬券ではラヴズオンリーユーが単勝の1番人気になったが、現地では地元米国の4歳馬ウォーライクゴッデスが1番人気。2番人気はアイルランドのエイダン・オブライエン調教師が送り込んだラブだった。ラヴズオンリーユーはこれに続く3番人気の支持を受けていた。

 川田将雅騎手を背に8番ゲートから飛び出したラヴズオンリーユーは終始、4、5番手の好位置を進んだ。2周目4コーナーで少し先行勢に置かれるシーンもあったが、最後の直線で前に取り付くと、1頭だけ違う脚色で抜け出し、2着の米国馬マイシスターナットに半馬身差をつけて優勝のゴールに飛び込んだ。

 BCは1984年に創設された。日本調教馬が初めて挑んだのは1996年のBCクラシックに出たタイキブリザード(USA)だった。以来、昨年まで延べ13頭がチャレンジした。2010年にレッドディザイアがBCフィリー&メアターフ、2012年にトレイルブレイザーがBCターフで記録した4着というのが、これまでの日本調教馬の最高着順だった。これを一気に更新し、悲願の優勝を果たした。

 ラヴズオンリーユーは4月に香港・シャティン競馬場で行われたクイーンエリザベス2世C(芝2000m)で自身初の海外GⅠ制覇を果たしていた。これで海外GⅠ2勝目となった。ラヴズオンリーユー以前に海外でGⅠ2勝以上を挙げた日本調教馬は6頭いた。アグネスワールド(USA)、エイシンプレストン(USA)、ロードカナロア、モーリス、エイシンヒカリ、ウインブライトだ。ラヴズオンリーユーは日本調教の牝馬として初めて海外GⅠ2勝という記録を打ちたてた。

 ラヴズオンリーユーのBCフィリー&メアターフはある程度予想されていたが、マルシュロレーヌ(牝5歳、栗東・矢作芳人厩舎)のBCディスタフ(ダート1800m)制覇には心底驚かされた。

 牝馬限定の11頭立てのレースは超ハイペースで進んだ。先行勢が一気にペースダウンした4コーナーでオイシン・マーフィー騎手に手綱を取られたマルシュロレーヌは先頭に立った。ゴール前では内からダンバーロードが急接近。2頭はほぼ同時にゴールインした。写真判定の結果、ハナ差でマルシュロレーヌが先着。ここに日本調教馬初の米国ダートGⅠ制覇という歴史的偉業が達成された。このレースは日本での馬券発売はなかった。現地での単勝オッズは49.9倍。11頭中9番人気の伏兵扱いだった。

 2019年2月に京都競馬場でデビューしたマルシュロレーヌはこれで通算21戦9勝という成績を残しているが、デビュー以降、阪神、中京、小倉、新潟、福島、大井、川崎、門別と9つの競馬場で出走経験がある。輸送に強く、環境の変化にも動じない精神力が10個目のデルマー競馬場でも生かされた。もちろん能力があったからこそ実現できた偉業だった。

 ラヴズオンリーユーがディープインパクト産駒で、マルシュロレーヌはオルフェーヴルの娘。ともに父系をさかのぼれば、米国で生まれたサンデーサイレンス(USA)となる。素晴らしい牝馬を日本にプレゼントしてくれた米国への恩返しになった。と同時に日本の古い血統の成果でもあった。マルシュロレーヌの母系をたどると1925年にオーストラリアで生まれ、1930年に輸入された牝馬シユリリー(AUS)に行き着く。90年あまり国内で育んできた貴重な血統でもあった。
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