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第159回 「薔薇」

2024.06.12

 2024年5月12日に東京競馬場で行われた第19回ヴィクトリアマイルは大波乱の結末となった。優勝したのは15頭立ての14番人気だったテンハッピーローズ(牝6歳、栗東・高柳大輔厩舎)だった。重賞初制覇がGⅠ。単勝の配当は20,860円。中央競馬の平地GⅠで単勝の払い戻しが万馬券になったのは、1984年にグレード制が導入されて以来、7度目だった。


 波乱の主役となったテンハッピーローズは父エピファネイア、母フェータルローズ、その父タニノギムレットという血統。2018年2月26日に北海道・社台ファームで生まれた。2019年のセレクトセール1歳馬セールに出場したが主取りになった。翌年、千葉サラブレッドセールに上場されたものの、セールは新型コロナウイルスの影響で中止となり、サラブレッドオークションに形を変えて行われた。のちのテンハッピーローズはこのサラブレッドオークションの場で2,040万円(税抜き)で落札された。


 天白泰司オーナーの所有馬となったテンハッピーローズは栗東の高柳大輔厩舎に入厩し、2020年8月に小倉競馬場でデビューし、福永祐一騎手の手綱で初勝利を収めた。3戦目には重賞アルテミスSに出走し、ソダシ、ククナという同期に続く3着になっている。


 4歳の夏、新潟競馬場で今回の快勝につながった津村明秀騎手と初めて出会った。芝1400㍍の朱鷺Sに出走し、18頭立ての4着に食い込んだ。翌年6月、東京競馬場で行われたパラダイスS(芝1400㍍)で再び津村騎手とコンビを組み、15頭立ての3着になった。このレースからヴィクトリアマイルまで5戦続けて津村騎手が手綱を取ることになる。続く朱鷺S(新潟)は2年連続出走。ゴールではクビ、ハナというきわどい勝負になったが、これに競り勝って、リステッドレースでの初勝利を挙げた。


 ここで一息入れ、6歳シーズンに備えた。2024年は京都牝馬S(7着)から始動した。次も阪神牝馬S(6着)と関西圏でレースを重ね、6歳3戦目がヴィクトリアマイルだった。ヴィクトリアマイルでは14番人気の低評価だったが、改めて調べてみると、東京競馬場では過去に6戦し、3着、2着、2着、1着、6着、3着と5戦で馬券圏内に入る実績を残していた。隠れた東京巧者だった。津村騎手はデビュー21年目、騎乗48回目でのうれしいGⅠ初制覇となった。


 GⅠレースで単勝万馬券の決着になったのは史上7度目だったと書いたが、ほかの6レースも紹介しておきたい。
 最初は1989年のエリザベス女王杯でサンドピアリス(20頭立て20番人気)の43,060円。以来、1991年の有馬記念でダイユウサク(15頭立て14番人気)は13,790円、2000年のスプリンターズSでダイタクヤマト(16頭立て16番人気)は25,750円、2002年の皐月賞でノーリーズン(18頭立て15番人気)は11,590円、2012年の天皇賞・春でビートブラック(18頭立て14番人気)は15,960円、2014年のフェブラリーSでコパノリッキー(16頭立て16番人気)は27,210円という配当だった。最初で最大の波乱を起こしたサンドピアリスのエリザベス女王杯は2着、3着にも10番人気、14番人気が入るという予想もしない結果だった。


 GⅠで単勝万馬券の主役になった過去の6頭のうち4頭は優勝した、そのレースが競走生活最後の勝利となった。残る2頭は、その後も勝ち星を重ねた。それがダイタクヤマトとコパノリッキーだ。


 ダイタクヤマトはスプリンターズSの後、スワンSと阪急杯という2つの重賞で勝ち星を挙げた。


 一方のコパノリッキーはフェブラリーSの勝利をきっかけに大きく飛躍した。その後、かしわ記念(船橋)、JBCクラシック(盛岡)、フェブラリーS(2連覇)、JBCクラシック(大井)、かしわ記念(2勝目)、帝王賞(大井)、南部杯(盛岡)、かしわ記念(3勝目)、南部杯(2連覇)、東京大賞典(大井)と統一ダートGⅠで計11勝という記録を残した。


 2018年に種牡馬生活を始めると、初年度から194頭もの種付けを行う人気ぶりだった。2年目の産駒である牝馬のセブンカラーズはデビューから8連勝で東海ダービーを制した。


 3年目の世代に当たる現3歳世代からはシンメデージー(牡、高知・打越勇児厩舎)、テーオーパスワード(牡、栗東・高柳大輔厩舎)という活躍馬が誕生した。シンメデージーは2023年12月にデビュー勝ちを収めると、今年に入ってからも連勝を伸ばし、初めて高知以外に遠征した西日本クラシック(園田、1870㍍)で優勝し、デビュー以来の連勝を6とした。テーオーパスワードはキャリア2戦の身で米国に遠征。ケンタッキーダービーに挑んだ。結果は5着。最後の直線で懸命に頑張る姿はテレビ中継でも目についた。


 きっかけをつかんだテンハッピーローズがコパノリッキーのようにスターホースになることができるのか。今後の走りが楽しみだ。

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