第5コーナー ~競馬余話~
第160回 「3着」
今年も日本ダービーが終わった。5月26日に東京競馬場で行われた第91回東京優駿(日本ダービー)を制したのは、横山典弘騎手が乗る9番人気の伏兵ダノンデサイル(牡3歳、栗東・安田翔伍厩舎)だった。
年明けの京成杯で重賞初制覇を果たしたが、続く皐月賞ではレース直前に右前脚を痛め、不運の競走除外になった。だが、そこから立て直し、鮮やかによみがえった。誰もが出走を夢見る皐月賞で、レース直前に脚の異常を察知し、レースをやめたことがビッグタイトルにつながった。不完全な体調のまま皐月賞を走っていたら、ダービーに出ることさえできなかっただろう。横山騎手のベテランならではの「勇気ある撤退」が称賛された。
エピファネイアを父に持つダノンデサイルが優勝したことで、日本ダービーのある法則が今年も継続された。その法則とはダービー馬の父は自身もダービーで3着以内に入っているというパターンだ。
「ダービー馬はダービー馬から」というが、正確には「ダービー馬はダービー3着以内馬から」なのだ。
始まりは2012年のディープブリランテだった。ディープブリランテの父は2005年のダービー馬ディープインパクトだ。その後のダービー馬とその父を並べてみる。
2013年キズナ(ディープインパクト)
2014年ワンアンドオンリー(ハーツクライ)
2015年ドゥラメンテ(キングカメハメハ)
2016年マカヒキ(ディープインパクト)
2017年レイデオロ(キングカメハメハ)
2018年ワグネリアン(ディープインパクト)
2019年ロジャーバローズ(ディープインパクト)
2020年コントレイル(ディープインパクト)
2021年シャフリヤール(ディープインパクト)
2022年ドウデュース(ハーツクライ)
2023年タスティエーラ(サトノクラウン)
説明するまでもないが、ハーツクライはダービー2着馬。キングカメハメハはダービー馬。サトノクラウンはダービー3着で、エピファネイアはダービー2着だった。2011年はステイゴールド産駒のオルフェーヴルが優勝しているので、「ダービー馬はダービー3着以内馬から」という法則はもう13年間も続いている。これはひとえに内国産種牡馬のレベルアップが原因だと筆者は考えている。
キングカメハメハが優勝した20年前、2004年のダービー出走馬を調べてみると、現代との違いがはっきりする。18頭の出走馬のうち内国産種牡馬の産駒はフジキセキ産駒の2頭だけ。サンデーサイレンス(USA)産駒の8頭を筆頭に外国産種牡馬の産駒が16頭を占めていた。これに対し、今年のダービーはどうか。出走馬17頭のうち外国産種牡馬の産駒は2頭。残る15頭はすべて内国産種牡馬の産駒だった。20年が経過して種牡馬界の様相は一変した。
ただ中身を精査すると微妙な変化にも気づく。2012年から2022年までの11年間、ダービー馬の父はディープインパクト、ハーツクライ、キングカメハメハの3頭に限られていた。「3強」と呼んでもいい状態だった。ディープインパクトは7頭のダービー馬を送り出し、歴代最多勝種牡馬になった。ハーツクライは2頭のダービー馬と3頭のダービー2着馬を生んだ。全出走頭数は20頭だったので、連対率は2割5分に達する。キングカメハメハも23頭の出走馬のうち2頭が優勝し、計10頭が5着以内に入った。
しかしディープインパクトとキングカメハメハが2019年、ハーツクライが2023年にこの世を去り、内国産中心の種牡馬界にも微妙な変化が訪れている。
今年の日本ダービーで注目された見どころのひとつに、史上初めて父子3代ダービー制覇が達成されるか、というのがあった。特にキズナ産駒は皐月賞馬ジャスティンミラノを筆頭に計5頭が大量出走した。キズナ産駒が優勝すれば、ディープインパクト、キズナに続く史上初の父子3代ダービー制覇という記録が達成されていたが、ジャスティンミラノは惜しくも2着に終わり、史上初の記録達成は来年以降に持ち越された。父子3代制覇の記録がかかっていたのはキズナ産駒だけではない。
サンライズアースにはキングカメハメハ、レイデオロに次ぐ優勝、シュガークンとミスタージーティーにはキングカメハメハ、ドゥラメンテに続く3代制覇がかかっていた。GⅠ級レースの父子3代制覇といえば、メジロアサマ→メジロティターン→メジロマックイーンによる天皇賞優勝があるだけで、ほかの同一GⅠレースで達成されたことはない。内国産種牡馬のレベルアップにより、3冠レースでの父子3代制覇が達成されるのは時間の問題のような気がする。
そんなことを考えていたら、6月2日に仏シャンティイ競馬場で行われた仏ダービー(ジョッキークラブ賞)でルックドヴェガLook de Vega(FR)が優勝した。ルックドヴェガは父が仏ダービー馬のロペドヴェガLope de Vega(IRE)で、その父シャマーダルShamardal(USA)も仏ダービー馬ということで父子3代の仏ダービー制覇となった。