JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

第193便 ネット時代

2011.01.06
 『12月12日,みんなで心の底から,ウインズ後楽園で待っています。堀内安雄,高橋渡,大矢佐一郎,寺沢克春,野川直子。イエロー会』
 11月中旬に来た忘年会への誘いの便りだ。「心の底から」が私の心の底にひびく。

 いいのか悪いのか,幸か不幸か,いまさら考えても遅いのだが,私には競馬つながりによる忘年会の誘いが10通以上もくる。
 おれは芸者なのかもしれない。そうであれば,声がかかるのをうれしいと感じなければバチがあたる。

 堀内さんは53歳,アパレル関係の仕事をしているようだが,くわしくは知らない。高橋さんは48歳,自動車修理工場経営。大矢くんは38歳,印刷会社勤務。克春くんは27歳,電力会社勤務。直子さんは44歳,酒場経営。

 数年前,神田にある直子さんのバーで堀内さんと私が知りあった。それがきっかけでイエロー会(ウインズ後楽園の外壁は黄色。そこでの仲間という会の名である)と,年に何度かウインズ後楽園で会うようになった。

 12月12日,ウインズ後楽園にイエロー会が集まっていた。馬券をやったあと,休みなのに直子さんが店をあけ,そこで忘年会というわけ。

 「大矢先生,ご見解を」と堀内さん。
 大矢くんが中山7Rの馬単510円を3000円1点買いで的中。中山8Rの馬連1050円も2000円持ち,中山9R舞浜特別の馬単4090円も1000円的中。それで「先生」になったのだ。

 中山10Rは美浦S。
 「コーナー4つで,この枠,このメンバーなら,モエレビクトリーで逃げ切れるなあ。相手はエオリアンハープとスズジュピター。馬単2点で行ってみます。④-②,④-③」そう言って大矢くんが自動券売機へ。

 他のメンバーもそれぞれの足どりで券売機へ。
 「そのまんま大矢先生」と私が④-②と④-③の馬券を掲げた。
 ゲートがあいた。モエレビクトリーがハナへ。そして大矢先生の予想どおり,④-③の決着。全員が馬単④-③1500円を持っていて,「神さま」みんなから握手をされて大矢くんは,「先生」から「神さま」へ昇格した。イエロー会,幸せである。

 中山11RカペラS。ダート1200,16頭立て。
 「中山でやるのに関西馬が13頭。関東馬は1頭。大井の馬が2頭。変だね」と高橋さんが言い,
 「どうしてそんなことになるんですか?」と堀内さんに私が聞かれたが,
 「おれに聞かれても困るなあ」と言うしかない。

 「16頭のうち,社台グループの馬が6頭というのも,変といえば変だよね」そう高橋さんが言い,
 「阪神ジュベナイルも18頭のうちの7頭が社台グループの馬ですよ」と大矢くんが言う。
 「たしかに,変といえば変。どうしてそんなことになるの?」また堀内さんが私に言うのだが,
 「おれに聞かれても困る」返事もまた同じなのだった。

 「わたし,人生は暗いのに,馬券だけがときどき明るい」カペラSが決着したとき,直子さんがそう言って私の腕をつかんだ。1万8610円の馬連を200円持っていたのだ。

 「イエロー会は,おれの生活の当たり馬券です」
 克春くんが乾杯の音頭をとり,ウインズからバーのカウンターへと移ったメンバーが,うれしく声をそろえた。

 「埼玉テレビとか千葉テレビとか神奈川テレビとか。25年続いていた土日の競馬中継が,今年で終わっちゃうんだってね。おれ,この15年ぐらい,あの番組を愛していたのになあ。

 余計な騒ぎがないし,ジョッキーコメントが楽しみだった。残念でならないよ」草加市に住む高橋さんが言い,松戸市に住む大矢くんも,川崎市に住む堀内さんも,高橋さんの残念に同意する顔になった。

 「ネットの時代になったからということなのかなあ。おれ,思うに,競馬場とかウインズへ行かずに,ネットでの競馬をやる人にばかり気を向けていると,この先,どんどん,競馬の人気が弱くなっていくと思うよ。

 ネット時代にイエロー会だなんて,面倒で古くさいものなんだろうね。
 これから,ますます,情報社会になればなるほど,損の出来ない人間が増えるよ。そうなったら,馬券なんかやる人,いなくなっちゃうんじゃないのかなあ」と堀内さんが言うのを聞きながら私は,行ったばかりの,ディズニーランドの盛況を思い浮かべていた。

 12月9日,高校生の孫娘,中学生の孫息子,4歳の孫娘や親戚の連中を含む総勢14名の,「吉川家忘年会」でディズニーランドへ行った。
 朝9時に入場し,夜のイルミネーションパレードを見て,花火まで見て9時すぎに退場だから,少し疲れもするが,ディズニーランドにくるたび,これだから人が集まってくるという空気に触れて,私の気持ちは元気になるのだ。

 従業員の誰もが,どんなポジションにおいても,けっして気を抜かずに,しっかりと,どんな客にも親切である。パレードを彩るダンサーたちも,ひとりして手を抜いていない。その空気が,客の1日を祝福するのだ。ネット時代に,反ネットの時間なのだ,そう思っていると,

 「有馬記念の中山へ行きたいけど,あの女子トイレの行列を思うと,行けない。いつも満員じゃありませんということなんだろうけど,競馬場って冷たいところねって思っちゃう。おしっこの心配をするために行ったみたいになるの」と直子さんが笑い,

 「イエロー会も反ネット。競馬は反ネットだよ。競馬に関係する仕事の人に,ディズニーランドへ行って,何かを感じとってほしいなあ」と私が言い,堀内さんがシャンパンを抜いた。
トップへ