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2015年の記事一覧

  • 第252便 愛情一杯 2015.12.21

     キタサンブラックが菊花賞を勝った翌日の晩、間近に富士山が見える裾野市に住む省三さんが電話してきて、 「今日の夕方、ぼくの顔をじいっと見た父が、何か言いたそうなので待っていると、ヨシカワ、ヨシカワって、いきなり二度、呼ぶように、けっこうはっきりした声で言ったんです。 そのあとすぐに目をつぶっちゃったんですけど、すみません、なんだかいろいろ考えてるうち、ヨシカワさんに、それを報告したくなっちゃって」 と言うのだった...

  • 第251便 ゴスペルな日 2015.11.16

     2015年10月4日、朝10時、JR大船駅改札口に来たのは、小中学生が対象の学習塾で先生をしている25歳のマキノくん、塗装工で24歳のスドウくん、有料老人ホームでヘルパーをしている27歳のエリカさんだ。 この3人に共通するのは、いずれもが何らかの事情で子供のころに家族を失い、養護施設、昔の言い方なら孤児院の出身者である。 8月に私は、横浜で養護施設を運営する友だちに頼まれ、その施設の出身者が10数人集まる会で1時間ほど、「とに...

  • 第250便 4番!4番! 2015.10.19

     JR京浜東北線で上野駅から南浦和行きに乗ったときのこと、ほとんど立っている人がいない電車に日暮里駅で、5歳ぐらいに見える男の子をつれた、たぶん父親だろう男が乗ってきた。白のTシャツ姿の男は35歳ぐらいだろう。顔を見るとそっくりで、親子にちがいない。 親子は私の斜め前に座った。凄い暑さから逃れて、冷えた車内で息をつき、父が汗を拭きおわったころ、男の子が前方の人に楽しげな顔で、 「はなくそ」 とゆっくりした声で言った...

  • 第249便 ひとり旅 2015.09.11

     外を歩いているだけで汗びっしょりになってしまう8月2日のこと、ウインズ横浜の4階にいた井上さんがとなりにきて、 「うちのかみさんがね、さすがに文章で生活している人は、こんなふうに嘘を書くんだって、ばかに感心してましたよ」と笑った。 井上さんの奥さんは絵を描く人の大きな会に所属していて、上野の東京都美術館で開催の展覧会に出品すると案内状をおくってくる。それを見に行って私は、出品作についての感想を手紙に書くのだ。横...

  • 第248便 地図をひらいて 2015.08.11

     サッカーの女子ワールドカップの決勝でアメリカに5-2と負けた7月7日の夕刊で、 「後半7分、主将のMF宮間あや選手のFKがアメリカのオウンゴールを誘い、2点差に。 宮間選手の地元、千葉県大網白里市では大網白里アリーナに集まった約450人が一斉に立ち上がり、拍手をしたりハイタッチを交わしたり」 と読んだ私は、大網白里市、と声にはせずに言ってみて、10日前に北海道新冠の牧場でいっしょだった板倉譲二さんの顔を思い浮かべた。内科...

  • 第247便 記念日 2015.07.13

     入会しませんか。もし入会したら仲間ができて、毎日が楽しくなり、老後の人生に元気が出てきますと、或る老人会から誘いの手紙がきた。 入会する気はないけれど、入会する場合の書類が同封されていたので読むと、「趣味」を書くスペースが大きく、「とても大切なことなので、なるべくくわしくご記入ください」と注意書きが添えてあった。 晩めしのときかみさんに、その誘いのことを話題にし、 「趣味をくわしくと言われても困るよね」 そう私...

  • 第246便 すずめの涙 2015.06.10

     3年前の春の夕方のこと、鎌倉の海岸通りにあるパブのカウンターでビールをのんでいると、近くにいた青年が競馬新聞を読みはじめた。 「今週は日経賞ですね。思いだしちゃうなあ、テンジンショウグン」 と競馬好きの白髪のマスターがカウンターの奥から私に言った。 テンジンショウグンが現役馬のころ、その馬主の清水道一さんと私はよく会っていて、東京競馬場のパドックの近くで、清水さんにマスターを紹介したことがあったりし、馬主が「テン...

  • 第245便 バンドホテル 2015.05.14

     私は40歳すぎから60歳まで、地元の草野球チーム「ウーンズ」の一員だった。後半の10年は出場機会がめったにない、試合後に行く酒場でのキャプテンだったが。 チームメートに私より5歳若い赤門さんがいた。赤門さんはニックネームで、東京大学出身(文京区本郷にある東大の門は赤い)だからだ。私立高校の国語教師で生真面目だったが、周囲の誰もが不思議がるほどの恐妻家で、「ウーンズ」の一員でいることにも、奥さんに気をつかわねばならない...

  • 第244便 なんか、生きていけそう 2015.04.15

     3月8日、中山競馬場の空はネズミ色で、ときどき雨が落ちてきた。パドックを歩く馬を見ながら、もうここに、後藤浩輝騎手は現れないのだなと思う。彼の自死からまだ9日しか過ぎていないのだと考えた私に、去年11月22日の東京競馬場での、頸椎骨折から約7ヵ月ぶりに復帰した騎手への、 「ゴトー!」 1階スタンドから湧いた祝福の叫び声がよみがえり、 「ゴトー!」 空へ私も、声にはせずに呼んだ。 その日私は、2年前に美術大学を卒業し...

  • 第243便 英才教育 2015.03.12

     「息子の結婚が決まってね、披露宴の話になったとき、頼むからおやじさんの競馬の友だちは呼ばないでくれって、そう息子が言うんだよね。わかったって返事したけど、なんだかさびしかった」 と馬主のAさんが言って笑った。 競馬を愛して、競馬に愛されてしまった人たちが集まると、ところかまわず話することがあって、それでにぎやかになってしまうことがあるよなあと私は思い、事実、自分が出席した披露宴での馬好きが集まったテーブルで、そ...

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