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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

最新記事一覧

  • 第322便 初めてのパドックで 2021.10.15

     コロナウイルスが世界中を苦しめている2021年の8月14日、ジャニーズ事務所会長の藤島メリー泰子の死去をテレビが伝えた。 ジャニーズ事務所って凄いよなあ。ジャニーズ抜きで日本の若い女性を語るわけにはいかないんだよなあ、と思ってから合掌をした。 私の沈黙のなかに、藤島メリー泰子の夫だった藤島泰輔の声がよみがえってくる。 天皇賞や有馬記念に何度も出走し、名脇役で4億円の賞金を獲得したランニングフリーの馬主だった藤島泰輔は...

  • 第321便 五輪の夏 2021.09.10

     家で、テレビで、オリンピックを見ている。2021年、コロナ禍の夏で、スタンドに客はいない。アスリートたちは、からっぽの客席を見て、どんな気持ちになるだろう。 私は25メートルぐらいは泳げるけれども、50メートルとなるとキツい。ましてや泳ぎの競争なんてしたことがない。競泳のシーンを見ながら、凄いなと感じながら、でもオレ、競馬が好きで、17歳ぐらいから84歳の今まで、ずうっと見ているのだ、と誰かに言ってる。 頭の中をヒカルイマ...

  • 第320便 喧嘩腰 2021.08.11

     不意に思い出がよみがえって、そのひとときに現(うつつ)をぬかし、うっとりと過去に浸っていることがある。 北海道勇払郡早来の、テンポイントの墓のある吉田牧場のおばあちゃん、吉田ミツさんとの思い出だ。 ようやく雪がとけて、空でひばりが鳴き、どこからか川の流れの音が聞こえてくるような晴れた朝、牧場の隅っこのカシワの木につながれたアテ馬が投げ草を食っている。 「あれっ、カラスが」 と通りかかったミツさんに私が言う。カラ...

  • 第319便 うれしそうな顔 2021.07.09

     2005年3月のこと、68歳だった私は心筋梗塞に襲われ、アウトを意識したけれど、どんな運があったのか、生き残った。 その入院中のこと、病室の窓から青空を眺めながら、もういちど、北海道の空の下で暮らしてみたいと強く思った。どうして強く思ったのか。それは簡単には言えない。 東京の下町育ちの私は、二度、北海道の暮らしを経験している。一度目は1966(昭和41)年から2年間、札幌市中央区南3条西6丁目グランドビル602号室で暮らしてい...

  • 第318便 表札看板アルバム 2021.06.18

     「いつになったらコロナウイルス戦争は終わるのでしょうか。仕事が切れない木工場にいるぼくは幸運なのですが、居酒屋やバス会社で働いている友だちは、まったく収入がなくなっている人もいて、絶望的になっています。 ぼくは相変わらず、看板追っかけを楽しみにしています。4月になってからは4日の中山10R両国特別で、(株)松浦牧場のシャチが15頭立て10番人気なのに勝ちました。単勝は2,820円。それを100円買ってたからどうだ、と言われそ...

  • 第317便 昭和モダン 2021.05.12

     「今年も中止にするしかないね」 と4月3日、青梅市に住むササキくんが電話してきた。 「去年もダメだったし、残念」 と私も言うしかない。毎年のこと、皐月賞が近づいた日に、小金井市に住むサトウくんと3人、「ハイセイコー会」と称して、新宿の居酒屋に集まってきたのだが、新型コロナウイルスのために中止なのだった。 若い人に言ったら、「ナニ、ソレ?」と言われそうだが、ハイセイコーが引退したあと、1980(昭和55)年ごろから、サ...

  • 第316便 栄さん 2021.04.12

     昔のこと、「時間、あるかね?」と、社台ファームのボス、吉田善哉さんから電話がくると、それは美浦トレセンへ一緒に行こうよという誘いだった。それでよく同行をした。 美浦へ着くまでの車中、善哉さんは「言葉」についての話をするのが好きだった。例えば、 「草鞋(わらじ)を脱ぐ、というのはどういう意味なのかね」 といきなりの質問を私にぶつけてくるのだ。 「旅を終えるという意味もあるし、各地を回り歩いていたバクチ打ちが、或る...

  • 第315便 ノン子の手紙 2021.03.11

     シッコやウンチの世話をして、エンもユカリもない人をお風呂に入れて、エンもユカリもない人のイレ歯を洗って、エンもユカリもない人を病院へつれて行って、エンもユカリもない人にゴハンを作ってあげて、わたしの人生、ナンナのって思う」 などとノン子が口にすることもあるのだけれど、「のぎく」のママに言わせると、「やさしいし、気はきくし、介護ヘルパーとしては最高の人材ですって、介護の会社の人が店にきた時に言ってた」 ということ...

  • 第314便 家族 2021.02.12

    この数年、年賀状といっしょに、高木治彦からの手紙が届く。 「今日は2020年12月30日。コロナ、コロナで明け暮れた、変な1年だったなあと、あらためて思います。夜おそく、妻も子も眠って、われひとり、今年も手紙を書こうと思いました」 という書きだし。文字は活字のように乱れがない。 「食卓の近くに立った小さな額を見る。馬名を印刷した単勝馬券が3枚、飾ってある。ドモナラズの単勝馬券。2011年日経新春杯での、13頭立て11着。それとネ...

  • 第313便 銘酒「七冠馬」で乾杯! 2021.01.08

     第40回ジャパンCが3日後にせまった日の夜、ウインズ横浜仲間の野原さんが電話してきて、 「今日はかみさんもいなくて、ひとりで、さっきからチビチビ、冷や酒をのんで、競馬のことを考えてたの。 アーモンドアイのラストランのゲートに、コントレイルとデアリングタクトが入るなんて、こんなの、めったにあるもんじゃないなあって、考えただけでドキドキしてきた。 それでね、ドキドキしながら、リョウさんが頭に出てきたんだ。 忘れてるかも...

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