JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

最新記事一覧

  • 第332便 こんなときにも 2022.08.10

     私の家の近くに、出版社で働く若い女性がいる。彼女はかなりの酒好きで、休みの日など、 「わたしの家、みんなお酒がダメで、昼にビールなんかのんだら、変質者扱いされちゃう」 と私の家にビールをのみにきたりする。 その彼女が、雑誌の投稿歌で感動しちゃったと、 「ああ、こんなときにも空をきれいだと思っていいの 自転車をこぐ」 という歌を教えてくれた。 この作者、きっとウクライナのことを感じながらの歌だと、彼女も私も言い、...

  • 第331便 オネガイデス 2022.07.08

     ロシアのこともウクライナのことも考えたことのない奴が、いろいろ言うなよと思われるかもしれないが、いろいろ言うわけでなし、ただテレビの報道を見ていて、どうして人間をどんどん殺すんだよ、どうして建物とか自然を破壊するんだよと、悲しくてどうにもならない。 「なんとか侵攻なんかやめてください。おねがいします」 そう思うのだが、それをいったい、誰に頼んだらいいのかわからないので空しい。 そんな気持ちが消えずに競馬を見なが...

  • 第330便 Fくんとか私とか 2022.06.10

     2022年2月24日、私の85歳の誕生日に、ロシア軍がウクライナに侵攻し、それから毎日、ウクライナの建物が破壊され、人間が殺されるのをテレビで見て、プーチンさんよ、あなた、間違っているよ、と私は言いたくて、一日も早く戦争をやめてくれ、と祈りたくて、私は私なりに、何かしたいと考えた。 それで私のしたことは、ロシアの作家のアントン・チェーホフの本を5冊、書棚から抜き、仕事机の隅に積むことだった。たぶん、ウラジーミル・プーチ...

  • 第329便 会う 2022.05.12

     「ずうっと競馬をやってきた人なら、誰だってエフフォーリアとジャックドールの勝負と思うよね。どっちがハナ差で勝つかってもんだ。 その2頭の馬券じゃつまらないからって、穴としちゃレイパパレしかいない。レイパパレから2頭への馬単を買ったさ。 終わってみればエフフォーリアもジャックドールもアウト。いやはや、それが競馬だよって言われちゃ黙るしかない。 レイパパレはクビ差の2着だったけど、まさかなあ、ポタジェが勝つとは思わ...

  • 第328便 新得物語 2022.04.11

     2月1日、心臓の調子が崩れて入院した。1月26日に吉田和子さん(社台ファーム創業者吉田善哉氏の妻)の野辺送りをしたばかりで、告別式で合唱した讃美歌405番「神ともにいまして」の、「また会う日までかみの守り、汝が身を離れざれ」がよみがえり、歌いながら私は、また会う日は遠くないですと思ったことがよみがえった。 私は2005年に心筋梗塞で入院して以来、循環器の主治医が変わらずに田中先生で、10数年のおつきあいになる。なので私が競...

  • 第327便 ゆうさく殿 2022.03.11

     長野市の本村順子さんから手紙をもらった。中山と中京で金杯があった翌日である。 「去年12月22日に父が亡くなり、あわただしく家族葬をし、今年になって、長いこと一人暮らしだった父の家の整理に行きました。 10年も前に亡くなった母の仏壇を乗せたタンスの抽斗の、下着やシャツが詰まってるところに菓子箱があり、そのなかに、差出人が吉川良の、年賀状が13枚、ハガキが9枚、封書が7通ありました。あれっ、なんだろうと思ったのは、住所の...

  • 第326便 なんもかも 2022.02.10

     2021年12月5日のこと、中京競馬11R、第22回チャンピオンズCの16頭がゲートを飛び出し、テレビにかじりつきそうに見ているうちのバアさんが、「6番、6番、6番」と、祈るように呟いている。 (私が妻のことをバアさんと言ったり書いたりすると、女性にたいして失礼だと叱る人がいるのだが、12月5日が誕生日で83歳になる妻をバアさんと書くのが、私としては自然だ。10年ぐらい前まではカミさんと言ったり書いたりしてたけれど) 「6番」は松...

  • 第325便 卯助さん 2022.01.11

     2021年5月、私は胃ガンの手術をした。ステージも重く、ガンの位置も悪く、長時間の手術となった。 どうやら助かったな。そう思った手術後2日目の朝、激しく嘔吐し、それが止まらず、ベッドごと走るように廊下を移動し、エレベーターに乗った。そこまでは意識があったが、そのあとは何も記憶がない。 意識が戻った。そこは地下の手術室だ。何時間、それとも何日、そこにいたのか分からなかったが、おれ、生きてる、と思った。 あとで知ったこ...

  • 第324便 この景色、最高! 2021.12.13

     この15年で私が何度か手術をしている大きな病院の、ほとんど隣にある大きな製薬会社に水野クンは勤務している。その病院と製薬会社のあいだの敷地に仮設住宅のようなものが建っていて、そこがコロナウイルスの患者の治療室だった。 「コロナが治まったら、会社の後輩たちと4人、お邪魔させてください。みんな、めちゃくちゃ楽しみにしてるんです」 と水野クンから頼まれて1年が過ぎ、どうにかコロナが治まってきて、2021年11月6日、土曜日の...

  • 第323便 チブル 2021.11.12

     ウインズ横浜に近い川のほとりのバーで知りあった野原さんは、私より10歳若く、コンサルタント業ということだが、具体的には知らない。私が知っている野原さんは競馬にくわしく、馬券上手、お酒に強い。払戻しがあると全額そのまま、大きな壺に投げ入れ、それを貯めて資金にし、凱旋門賞を見に行くツアーに参加するのを楽しみにしている。 2006年の失格になってしまったディープインパクト、2010年のナカヤマフェスタの2着とヴィクトワールピサ...

トップへ