第5コーナー ~競馬余話~
第157回 「晩成」
エピファネイア産駒が好調だ。3月11日現在、中央競馬で164頭が252回出走し、このうち21頭が計21勝を挙げた。獲得賞金は5億5,909万3,000円にのぼり、種牡馬別成績ではキズナ、ロードカナロアに次ぐ3位につける。
特に目立つのが重賞での勝負強さだ。1月7日のフェアリーSでイフェイオン(牝3歳)が優勝したのを皮切りに、ダノンデサイル(牡3歳)が京成杯で勝利。ブローザホーン(牡5歳)も日経新春杯を制覇と1月だけで重賞3勝を挙げた。2月に入ってからもビザンチンドリーム(牡3歳)がきさらぎ賞をきわどく勝ち、エピファニー(牡5歳)が小倉大賞典で重賞初制覇を果たした。この時点で計5勝を挙げ、3勝のキズナ産駒に2勝差をつけ、重賞の勝ち星ではトップを走る。
5勝の中でもブローザホーンとエピファニーの勝利は、エピファネイア産駒の新しい一面を引き出した点で意味のあるレースだった。
エピファネイア産駒は初年度から大活躍した。2020年にはデアリングタクトが桜花賞、オークス、秋華賞の牝馬3冠を無敗のまま達成した。2年目の産駒の中からはエフフォーリアが現れた。2021年の皐月賞を制すると、同年秋には天皇賞・秋、有馬記念でも頂点に立った。
サークルオブライフは2021年の阪神ジュベナイルフィリーズで1着になった。初年度から3世代連続してGⅠ馬を送り出し、エピファネイアの名声は一気に高まった。
2021年には中央競馬の種牡馬別成績で総合6位となり、2歳部門ではディープインパクトに次ぐ2位になった。2016年に250万円(受胎確認後、BF)でスタートした種付料は2022年には1,800万円(受胎確認後F特約)にまで高騰した。
ところがエピファネイア産駒は古馬になって伸び悩んだ。デアリングタクトは秋華賞が最後の勝ち星となり、その後8連敗して現役を終えた。エフフォーリアも3歳時の有馬記念が現役最後の勝利ということになり、サークルオブライフも阪神ジュベナイルフィリーズの後は1勝も挙げることができなかった。
2021年終了時点で重賞レースは3世代で計10勝だったが、このうち9勝は2歳、3歳限定のレースで、古馬になって重賞を勝ったのはアリストテレス(牡4歳)1頭だけという状態だった。しかもアリストテレスの1勝も4歳1月のAJC杯ということで古馬になりたての時期だった。「エピファネイア産駒は早熟なのではないか」という評判がささやかれ始めた。2022年はイズジョーノキセキ(牝5歳)が府中牝馬Sを制したのが、この年唯一の重賞勝ちという成績に終わった。5歳10月での優勝はエピファネイア産駒にとっての新境地ではあったが、過去2年の活躍に比べると物足りない内容だった。
様相が変わってきたのは2023年だ。この年、重賞勝ちを収めたのはエプソムCのジャスティンカフェ(牡5歳)、中京記念のセルバーグ(牡4歳)、紫苑Sのモリアーナ(牝3歳)の3頭だった。それまでとは違い、古馬の勝ち星が3歳を上回り、早熟傾向からの脱皮が少し進んだ。この流れの中での2024年の好スタートとなった。
日経新春杯で重賞初制覇を飾ったブローザホーンは遅咲きを絵にかいたような晩成型だ。2021年11月にデビューして、初勝利を挙げたのが2022年6月。デビューから初勝利まで9戦もかかった。重賞初挑戦は4歳7月の函館記念。ローシャムパークから2馬身あまり離された3着だった。日経新春杯は3度目の重賞出走でつかんだ勝利だった。今春引退した中野栄治調教師の引退前の最後の重賞勝利ともなった。
エピファニーはデビュー3戦目から4連勝するなど走力はあったが、レース間隔をあけなければならない体質の弱さがあった。そんなエピファニーが2023年12月のチャレンジC(4着)から中山金杯(11着)、そして小倉大賞典と月1回のローテーションで臨めるようになっての重賞初勝利だった。
エピファネイアは2010年2月11日にノーザンファームで生まれた。父は天皇賞・秋と有馬記念をともに連覇したシンボリクリスエス(USA)、母はオークス、アメリカンオークスを制したシーザリオという超一流の血統だ。栗東の角居勝彦厩舎に所属し、2012年10月にデビュー。新馬、京都2歳S、ラジオNIKKEI杯2歳Sと3連勝して重賞勝ち馬の仲間入りをした。
三冠レースはすべて出走。皐月賞はロゴタイプの2着、ダービーはキズナの2着、そして菊花賞で5馬身差の圧勝劇を演じ、初のGⅠタイトルを手にした。その後、4歳時のジャパンCで快勝し、この年の世界ランキングでジャスタウェイに次ぐ2位になった。エピファネイア自身、その両親ともデビュー当初から結果を出していたものの、決して早熟ではなく、5歳春に引退するまでしっかりと走り切った。
現在、種牡馬別成績でトップを走るキズナと3位で追うエピファネイアは2010年生まれの同期生だ。2013年のダービーではキズナが1着で、1/2馬身差の2着がエピファネイアだった。現役時代の対戦成績は2勝2敗の五分だ。種牡馬としても良きライバルになれるかどうか。エピファネイアの正念場だ。