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第53回 「全場制覇」

2015.08.12
 7月12日に福島競馬場で行われた七夕賞は2番人気のグランデッツァが優勝した。騎乗した川田将雅騎手(29)にとって、この勝利は福島競馬場での重賞レース初勝利となり、川田騎手は日本中央競馬会(JRA)の10競馬場のうち9競馬場での重賞勝ちを果たした。
 2004年にデビューした川田騎手が初めて重賞レースを制したのは2006年2月、小倉競馬場で行われた小倉大賞典だった。11番人気のメジロマイヤーに騎乗して1800㍍を逃げ切った。同年3月にはマチカネオーラで中京記念(中京競馬場)、同年5月にポップロックで目黒記念(東京競馬場)を制覇した。

 その後、サンアディユで阪神競馬場の2007年セントウルS、キャプテントゥーレで京都競馬場の2007年デイリー杯2歳S、アドマイヤフジで中山競馬場の2008年中山金杯と勝利を重ねた。重賞6勝目まですべて違う競馬場で白星を挙げた。2008年にオースミグラスワンで新潟大賞典を制し、7つ目の新潟競馬場で重賞初白星を飾り、2014年、ハープスターで札幌記念(札幌競馬場)をものにした。そして今年の七夕賞につながった。

 七夕賞の翌週、全10競馬場での重賞制覇を目指して函館競馬場に向かった。函館記念で騎乗したのはデウスウルト。川田騎手の記念の勝利を期待してか、デウスウルトは単勝4番人気の支持を集めた。しかし結果は11着。パンパンの良馬場ではなかったのが災いしたようだ。翌週の函館2歳Sに騎乗予定はなく、今年の函館開催は終了。川田騎手の全場重賞制覇の記録は来年以降に持ち越された。

 川田騎手が王手をかけている全場重賞制覇の快記録だが、すでに3人の騎手が達成している。

 達成順に挙げると、1996年に安田富男騎手が札幌スプリントSをノーブルグラスで制し、デビュー29年目で記録達成の第1号となり、翌1997年、武豊騎手がアグネスワールド(USA)に騎乗して函館3歳S(当時)で優勝、デビュー11年目で第2号。2004年には藤田伸二騎手がメイショウバトラーで小倉大賞典を制し、デビュー14年目で3人目の記録保持者となった。現役で川田騎手のように全場重賞制覇に王手をかけている主な騎手は3人。横山典弘騎手は新潟競馬場、蛯名正義騎手は小倉競馬場、福永祐一騎手は福島競馬場での重賞勝ちをそれぞれ残している。

 調教師で全場重賞制覇を果たしているのは3人。渡辺栄・元調教師、山内研二調教師、森秀行調教師だ。いずれにせよ、騎手も調教師も達成者が3人ずつしかいないという難しい記録である。

 出走機会の限られる「人」に対して「種牡馬」は記録達成の可能性ははるかに大きい。同じ日の別の競馬場で複数の産駒が出走することもあり得るからだ。実際に1984年にグレード制が導入されてから、7頭の種牡馬が全場重賞制覇を達成していた。勝利数の多い順に列挙すると、サンデーサイレンス(USA)、ノーザンテースト(CAN)、フジキセキ、トニービン(IRE)、キングカメハメハ、マンハッタンカフェ、クロフネ(USA)と名種牡馬の名前が並ぶ。

 今年、この名種牡馬の仲間入りに挑戦したのがディープインパクトだった。2010年に産駒が2歳になったディープインパクトは同年12月のラジオNIKKEI杯2歳S(阪神競馬場)でダノンバラードが重賞初勝利を飾ると、破竹の勢いで勝ち続け、昨2014年8月にキャトルフィーユがクイーンS(札幌競馬場)を制した時点で9場制覇。函館競馬場を残して全場重賞制覇に王手をかけていた。

 そして今年、函館競馬最終日の函館2歳Sに2頭の産駒を送り込むことになった。ブランボヌールとメジェルダ。いずれも牝馬だった。レースはそのメジェルダが引っ張る展開になった。最後の直線。今度は1番人気に支持されたブランボヌールが矢のような伸び脚を見せた。先行勢をあっという間に飲み込み、2着に3馬身半差をつける快勝劇。父に初めての函館競馬場の重賞勝利をプレゼントした。

 今年もミッキークイーンがオークスを制するなど快進撃を続ける名種牡馬に全場重賞制覇という新しいタイトルが加わった。
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