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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

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     60歳を過ぎたころから、自分だけの行事が二つ生まれた。ひとつは、3月10日か11日に、東京の葛飾区小菅あたりを歩きに行き、食堂を見つけてビールをのむ。 私は8歳のとき、小菅にある東京拘置所のすぐ近くの、伯母の家にあずけられていた。戦争で疎開をし、その成り行きである。1945(昭和20)年3月10日、B29爆撃機約110機の空襲で空が赤くなり、伯母の家の近くの防空壕でそれを見ていた。 夜が明け、私は伯母の家に戻らず、うろうろ、うろう...

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     ウインズ横浜へ行くのには、先ず住宅地から190段の石段をおりる途中の、めったに人のいない子守り神社に賽銭を入れて鈴を鳴らし、「なんとか馬券に幸運を」と手を合わせてバス停へ行き、コマワリくんと呼ばれる小さなバスでJR鎌倉駅へと向かう。 2018年12月9日、第70回阪神ジュベナイルフィリーズの日、くもり空を見上げながら石段へと歩き、昨夜、ウインズ横浜へは昭和51(1976)年から行ってるよなぁと思い、そこが自分の勤務地のような気もす...

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     JR桜木町駅に近いコーヒーショップで競馬新聞を読んでいると、「ここ、いいですか」と若い男が私と相席になった。小さなテーブルをはさんで彼も、競馬新聞を持っている。 このひと、誰かに似ている。ずいぶん、似ている。そう、ジャニーズのグループ、嵐の二宮和也に顔も体型も似ている。 「まさか、あなたは、嵐のニノじゃないよね」 コーヒーを買ってきた彼に私が笑いかけた。 「ときどき、似てるって言われる」 そう言って彼は、 「はた...

  • 第287便 競馬学者 2018.11.12

     「この一年、こんなに自分が親父のことを考えるなんて思わなかったなあ。なんだか親父の悲しさとか寂しさみたいなものが、死んでから見えてきたような気がするんですよ。 明日、会食のとき、ひとこと、親父のことを話してもらえませんか。お願いします」 と9月28日、金曜日の晩、川崎に住む昌平さんが電話してきた。明日、鶴見の寺で、イダさんの一年忌がある。昌平さんはイダさんのひとり息子で50歳。横浜の倉庫会社勤務だ。 イダさんと私は...

  • 第286便 厚真の一本道 2018.10.15

     2018年9月10日、朝7時、目をさまして私はベッドから手をのばしてカーテンをあけ、雨あがりらしい空を眺めた。薄い青のひろがりにトンビが現れ、すぐに消える。 「ゆめうつつ」 と心で言って、夢現、と心に漢字で書いてみる。夢だか現実だかわからないようにぼんやりしていること。 本当にそうなのだ。夢を見ていたのにはちがいないのだけれど、それがしっかりと今日のことのように頭に残っているのだ。 場所は北海道勇払郡の吉田牧場である...

  • 第285便 札幌開幕 2018.09.12

     札幌に佐藤行夫という友だちがいた。2014年10月に、突然のように病魔に襲われ、62歳で旅立ってしまったのだが、それから夏が来て、競馬が函館から札幌に移ると、よく私は佐藤行夫の影とビールをのんでいる。 佐藤行夫は青森県上北郡の生まれ。中学を卒業して姉の嫁ぎ先の札幌に来て大工になった。 「おれはよ、ガクはネエけどウデがアル」 というのが佐藤行夫のコマーシャルだ。 横山典弘のタスカータソルテが、前年のグランプリホースで蛯名...

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     1983(昭和58)年5月のこと、東京の港区六本木の交差点ですれちがった常盤新平さん(翻訳家。1986年に「遠いアメリカ」で直木賞受賞)が、いい時に会ったと足を止めた。今夜、この近くで、社台ファームのアンバーシャダイの春の天皇賞を勝った祝いの会があり、招かれているのだが、急用が発生して行けなくなり、社台の人に電話しておくから、代わりに出席してほしいと常盤さんが言うのである。 代理でいいのかなと思いながら、面白そうだなと思...

  • 第283便 ヌマさんのなみだ 2018.07.13

     5月の初めだったか、晴れた日の夕方、ピンポーンと玄関が鳴って出てみると、植木屋のヌマさんが笑い顔で立っていた。七十歳。まだ元気に仕事している。私とはウインズ横浜の古い仲間で、去年の暮れには、私の家の小さな庭もやってもらった。横浜の戸塚の造園会社に勤めている。 「こっちに現場があってさ、帰り道に通りかかったもんで寄らしてもらった。急で悪いと思ったけど、顔見て行こうかなって」 「車だよね。ビールはダメだな」 「すぐ...

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