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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

最新記事一覧

  • 第299便 元気で 2019.11.13

    夜、テレビのニュース番組を見ていると、たくさんの人が山道をのぼり、山頂の慰霊碑の前で目を閉じ、手を合わせた。 死者と行方不明者を63人も出した、長野と岐阜の県境にある標高3,067メートルの、御嶽山の噴火災害から5年。2019年9月27日、死者を悼む登山者を伝えるニュースである。 噴火で夫を失った58歳の女性が画面にいて、向けられたマイクに、 「先ず、ありがとう、と言いました。わたしたち家族は、あなたがいて、何ひとつ心配しない...

  • 第298便 タイセイさん 2019.10.10

     異常に暑い日が続く2019年の夏、 「昔の教え子が遊びにきてくれまして、上等なブランデーを土産に持ってきたんですよ。 わたしは酒に関して特別に知識を持っていませんが、かなり上等なブランデーのようです。 封切りしようと思うのですが、どうもひとりでというのも空しい気がして、あなたの顔が浮かびました。 競馬の帰りにお寄りいただく日を作ってくれませんか」 とタイセイさんが電話してきた。 タイセイさんは、只今83歳。ウインズ横...

  • 第297便 おれの花火 2019.09.12

     8月4日のこと、ウインズ横浜からの帰り、JR桜木町駅のホームで大船行きを待っていると背中をノックされた。ふりむくと、やはりウインズから帰りの「良寛さん」だった。 大船に住む彼は私立高校の数学教師で只今50歳。独身である。数学教師でありながら、何かというと自分と同じ出身地、越後出雲崎に生まれた江戸時代の歌人である良寛の話をするので、学校での生徒からの呼び名は良寛さん。私とは大船の酒場で知りあい、私とつきあって競馬にハ...

  • 第296便 ひとり旅 2019.08.09

     月に一度くらいかな、「どうしてる?」と電話してくる高校時代の友だちがいる。私の高校卒業は1955(昭和30)年で、同学年は82歳か83歳になっている。 その友だちは通産官僚としてかなりの出世をし、退任後も私などにはよく判らない組織の役員をし、今は奥さんとともに、裕福な人でないと入れない老人ホームで暮らしている。 「どうしてるのかなあ。おれ、どうしてるんだろうか」 などと返事をしながら私は、 「ま、言ってみれば、ひとり旅に...

  • 第295便 エポワスおじさん 2019.07.12

     第86回ダービーは浜中俊騎乗の12番人気、単勝9,310円のロジャーバローズが勝った。私は地下での、勝利騎手の共同記者会見場にいて、 「3年前に亡くなったおじいちゃんに、今日の日を見せたかった」 とそれまで笑顔だったのに、突然のように祖父のことを言って泣きだした浜中騎手を見ていて、ロジャーバローズが先頭でゴールポストを通過したシーンがよみがえり、ああ、今年も、生きていて、ダービーの日の競馬場にいて幸せだな、と自分に言った...

  • 第294便 ひとりじゃない 2019.06.12

     5月5日の夜、 「明日、遊びに行ってもいいですか。うれしい報告があるんです」 と幸市が電話してきた。 「ひょっとして、女性といっしょ?」 「だといいですけど、ちがいます。でも、ぼくには、電話で言うのはもったいないくらい、うれしいことです。ひとりじゃない事件」 「わかった。明日を待つよ」 と私が言った。 西沢幸市、26歳。横浜市戸塚の自動車修理工場で働いている。2歳のときに父親が失踪、8歳のときに母親が病死し、横浜...

  • 第293便 こんこんこん 2019.05.13

     新しい年号が「令和」と発表された日の夜、鎌倉のにぎやかな小町通りの裏にある路地の酒場にいた。あとから大工の雄二さんも入ってきて、ずいぶん会っていなかったよなあと乾杯をした。 「令和って決まったというけど、今日はエイプリルフールで、あれは嘘なんだ。本当の年号は、読み方はレイワと同じなんだけど、字が違う。数字のゼロの零に、話と書いてレイワ、零話。 じいさんもばあさんも、若いのもガキたちも、誰もがスマートフォンに占領...

  • 第292便 ユクエフメイ 2019.04.10

     新聞に哲学者の鷲田清一の連載コラム「折々のことば」があり、2019年3月8日には、 「人間には、 行方不明の時間が必要です」 という茨木のり子の詩の書きだしが引用されていた。 「自分を大切に思うのも大事だが、ときに自分に厭きる、自分をチャラにすることも必要だ」 と引用の理由も書いてある。 私には寝酒と同じように、ベッドで子守歌のように読む本が何冊かあり、文庫本の茨木のり子の詩集「倚りかからず」もその一冊で、46行の詩...

  • 第291便 とんぼのように 2019.03.12

     1月20日のこと、ウインズ横浜に着くとテレビに、中山3R3歳未勝利に出走する15頭のパドックが映っていた。 「おっ、モリト」 そう思って私は8枠15番のモリトローテローゼを見つめる。 冠名「モリト」の石橋忠之さんとは、ときどき手紙のやりとりがある。去年は救急車のお世話になったりして石橋さん、ずいぶん病院通いをしたようなので、モリトローテローゼが歩いていると、石橋さんが歩いているような気がしたのだ。 画面のパドックを見上...

  • 第290便 5GとかRTとか 2019.02.14

     60歳を過ぎたころから、自分だけの行事が二つ生まれた。ひとつは、3月10日か11日に、東京の葛飾区小菅あたりを歩きに行き、食堂を見つけてビールをのむ。 私は8歳のとき、小菅にある東京拘置所のすぐ近くの、伯母の家にあずけられていた。戦争で疎開をし、その成り行きである。1945(昭和20)年3月10日、B29爆撃機約110機の空襲で空が赤くなり、伯母の家の近くの防空壕でそれを見ていた。 夜が明け、私は伯母の家に戻らず、うろうろ、うろう...

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