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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

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     私は40歳すぎから60歳まで、地元の草野球チーム「ウーンズ」の一員だった。後半の10年は出場機会がめったにない、試合後に行く酒場でのキャプテンだったが。 チームメートに私より5歳若い赤門さんがいた。赤門さんはニックネームで、東京大学出身(文京区本郷にある東大の門は赤い)だからだ。私立高校の国語教師で生真面目だったが、周囲の誰もが不思議がるほどの恐妻家で、「ウーンズ」の一員でいることにも、奥さんに気をつかわねばならない...

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  • 第243便 英才教育 2015.03.12

     「息子の結婚が決まってね、披露宴の話になったとき、頼むからおやじさんの競馬の友だちは呼ばないでくれって、そう息子が言うんだよね。わかったって返事したけど、なんだかさびしかった」 と馬主のAさんが言って笑った。 競馬を愛して、競馬に愛されてしまった人たちが集まると、ところかまわず話することがあって、それでにぎやかになってしまうことがあるよなあと私は思い、事実、自分が出席した披露宴での馬好きが集まったテーブルで、そ...

  • 第242便 昭和は遠くに 2015.02.16

     正月は親戚の人や友だちが来てくれたり、こちらから行くところもあって、ばたばたと日が過ぎる。おまけに2015年の幕開きは、5日と7日に心臓と大腸のことで病院にいなければならなかった。 かなり不安もあったのだが、おかげさまで心臓も大腸もセーフ。「おれ、しぶといなあ」と病院からの帰り道で思い、無事であることが不思議なトシになったと、あらためて感じた。 1月10日、土曜日になって、12日に成人式となる孫娘のさわぎのほかは、よう...

  • 第241便 言葉たち 2015.01.05

     ジャパンCの日の朝、6時すぎに目をさまし、ベッドから手をのばしてカーテンをあけ、うす明かりの外を見る。 よかった。ジャパンCの日に、東京競馬場のケヤキの並木道のベンチに腰かけ、ケヤキの茶色、イチョウの黄色、モミジの赤色を眺め、ぱらぱらぱらぱら舞い落ちてくる落葉を友だちのようにして、ハズレ馬券で灰色の心も見ながら過ごすのが、自分の人生の大きな楽しみだから、雨が降りそうもないのは、よかった。 私の家の裏は80坪ほどの空...

  • 第240便 深浦、恩納村、市青木 2014.12.11

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  • 第239便 私の所見 2014.11.10

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  • 第238便 ヒーラ!ヒーラ! 2014.10.15

     六本木にある国立新美術館の「オルセー美術館展」へ行き、65.2×81.2センチの油彩、エドガー・ドガの「競馬場、一台の馬車とアマチュア騎手たち」の前に立ちながら、50日ほど前に渋谷のミュージアムでラウル・デュフイの「ドーヴィルの競馬場」を見ていたときのことを思いだした。 どちらの美術展も人気があって会場は混雑しているのに、競馬場を描いた絵には人が足を止めず、まるで私のために展示されているようなのだ。 私の気分は少し笑いそう...

  • 第237便 長岡で、出雲崎で 2014.09.17

     6月の末のこと、ビッグレッドファーム主催の牧場ツアーに行き、新潟県長岡市与板(2006年までは三島郡与板町)に住む医師の小林徹さんと、参加者歓迎昼食会の、草の上でのビールをのんだ。小林さんとは新潟競馬場でも、夜の古町でも会っている競馬友だちである。 「昨夜ね、明日は小林さんと会うと言ったらかみさんが、長岡の花火の話をはじめたんだ。もう三十年前の話なんだけど、浦佐(今は南魚沼市)にかみさんの親友がいて誘われて、八十歳...

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