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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

最新記事一覧

  • 第255便 野深卯助 2016.03.14

     正月2日、年賀ハガキといっしょに届いた封筒の差出人が、岩手県紫波郡の野深卯助となっていた。 ノブカウスケ?と読んで私は、ノブカは北海道浦河郡浦河町野深のノブカ、ウスケはそこにあった萩伏牧場の創業者である斉藤卯助のウスケだろうと思った。 『盛岡に住む友人の家に、吉川良の競馬夢景色という本があって、作者の略歴のあとに住所が書いてあり、手紙を書こうと考えました』 という書き出しの手紙の主は、1983年3月に牧場めぐりの旅...

  • 第254便 おれの野毛 2016.02.16

     2016年1月9日、土曜日、横須賀線を横浜で京浜東北線に乗りかえた私は、ひとつめの桜木町駅で下車して改札口へと階段をおりながら、「おれの駅」を歩いているという感覚になっている。 改札口を出て左へ行くと海やランドマークタワーだが、右へ行って下りのエスカレーターに乗る。地上の広い交差点へ行かずに、地下の通路を抜ける。「おれの駅」という感覚に続いて、「おれの地下通路」という気分だ。 かなり長いエスカレーターで地上へとのぼ...

  • 第253便 ハラケンの馬 2016.01.12

     「三河湾の蒲郡にて出航の準備を始めて一週間が経ちました。四日前、作業中に不注意から額をザックリと切って、二十針も縫いました。久しぶりに自分の体からほとばしる鮮血を見ました。止めどなく出る血に見とれてしまいました。長い陸ボケの代償なのだと思いました。海へ出る前の戒めだと感じました。 最近、洞窟オジさん、という本を読みました。中学一年生で家出をして、足尾銅山の洞窟で暮らし始め、何十年と動物や虫や草を食べて生き抜いた...

  • 第252便 愛情一杯 2015.12.21

     キタサンブラックが菊花賞を勝った翌日の晩、間近に富士山が見える裾野市に住む省三さんが電話してきて、 「今日の夕方、ぼくの顔をじいっと見た父が、何か言いたそうなので待っていると、ヨシカワ、ヨシカワって、いきなり二度、呼ぶように、けっこうはっきりした声で言ったんです。 そのあとすぐに目をつぶっちゃったんですけど、すみません、なんだかいろいろ考えてるうち、ヨシカワさんに、それを報告したくなっちゃって」 と言うのだった...

  • 第251便 ゴスペルな日 2015.11.16

     2015年10月4日、朝10時、JR大船駅改札口に来たのは、小中学生が対象の学習塾で先生をしている25歳のマキノくん、塗装工で24歳のスドウくん、有料老人ホームでヘルパーをしている27歳のエリカさんだ。 この3人に共通するのは、いずれもが何らかの事情で子供のころに家族を失い、養護施設、昔の言い方なら孤児院の出身者である。 8月に私は、横浜で養護施設を運営する友だちに頼まれ、その施設の出身者が10数人集まる会で1時間ほど、「とに...

  • 第250便 4番!4番! 2015.10.19

     JR京浜東北線で上野駅から南浦和行きに乗ったときのこと、ほとんど立っている人がいない電車に日暮里駅で、5歳ぐらいに見える男の子をつれた、たぶん父親だろう男が乗ってきた。白のTシャツ姿の男は35歳ぐらいだろう。顔を見るとそっくりで、親子にちがいない。 親子は私の斜め前に座った。凄い暑さから逃れて、冷えた車内で息をつき、父が汗を拭きおわったころ、男の子が前方の人に楽しげな顔で、 「はなくそ」 とゆっくりした声で言った...

  • 第249便 ひとり旅 2015.09.11

     外を歩いているだけで汗びっしょりになってしまう8月2日のこと、ウインズ横浜の4階にいた井上さんがとなりにきて、 「うちのかみさんがね、さすがに文章で生活している人は、こんなふうに嘘を書くんだって、ばかに感心してましたよ」と笑った。 井上さんの奥さんは絵を描く人の大きな会に所属していて、上野の東京都美術館で開催の展覧会に出品すると案内状をおくってくる。それを見に行って私は、出品作についての感想を手紙に書くのだ。横...

  • 第248便 地図をひらいて 2015.08.11

     サッカーの女子ワールドカップの決勝でアメリカに5-2と負けた7月7日の夕刊で、 「後半7分、主将のMF宮間あや選手のFKがアメリカのオウンゴールを誘い、2点差に。 宮間選手の地元、千葉県大網白里市では大網白里アリーナに集まった約450人が一斉に立ち上がり、拍手をしたりハイタッチを交わしたり」 と読んだ私は、大網白里市、と声にはせずに言ってみて、10日前に北海道新冠の牧場でいっしょだった板倉譲二さんの顔を思い浮かべた。内科...

  • 第247便 記念日 2015.07.13

     入会しませんか。もし入会したら仲間ができて、毎日が楽しくなり、老後の人生に元気が出てきますと、或る老人会から誘いの手紙がきた。 入会する気はないけれど、入会する場合の書類が同封されていたので読むと、「趣味」を書くスペースが大きく、「とても大切なことなので、なるべくくわしくご記入ください」と注意書きが添えてあった。 晩めしのときかみさんに、その誘いのことを話題にし、 「趣味をくわしくと言われても困るよね」 そう私...

  • 第246便 すずめの涙 2015.06.10

     3年前の春の夕方のこと、鎌倉の海岸通りにあるパブのカウンターでビールをのんでいると、近くにいた青年が競馬新聞を読みはじめた。 「今週は日経賞ですね。思いだしちゃうなあ、テンジンショウグン」 と競馬好きの白髪のマスターがカウンターの奥から私に言った。 テンジンショウグンが現役馬のころ、その馬主の清水道一さんと私はよく会っていて、東京競馬場のパドックの近くで、清水さんにマスターを紹介したことがあったりし、馬主が「テン...

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