JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

最新記事一覧

  • 第269便 石井さんの話 2017.05.17

     4月3日、月曜日の夜8時すぎ、海辺にあるカフェバーのマスターから電話がきて、 「今日はもう歩いたんですか?」 と言うのだ。私がなるべく毎日、健康のために6,000歩ぐらい歩くようにしているのを60歳のマスターは知っているのだ。 「まだ今日は歩数ゼロ」 そう私が言うと、 「では、これから3,500歩ほど歩きましょう。歩かないと長生きできませんよ。ああ、そうか、もう長生きしてるのか」 とマスターが笑った。そのカフェバーまで私の...

  • 第268便 兄貴の法事 2017.04.12

     阪神でフィリーズレビューの日、去年3月15日に旅立った兄、毅(タケシ)の一年忌法要で埼玉県加須市の寺へ出かけた。加須市は地味な地域だが、2011年3月に福島の原子力発電所が爆発し、被災した双葉町の住民が集団で避難生活をしたのが加須市の学校で、少しは地名を知ってもらえた。私の両親の出身地である。 その寺には、父の平作、母のトク、長兄の弘、次兄の毅、姉の節子、従兄弟の実が眠っている。鎌倉から加須まで電車に2時間座っているの...

  • 第267便 ノゲノキセキ 2017.03.13

     2月3日、金曜日、節分の晩、「明日、手広のラーメン屋の改築の仕事なんだけど、夜、久しぶりに、学校をやってくれないですか」と「クワタさん」が電話してきた。手広は私の家の近くの地名だ。 年に何度か若い大工のクワタさんは、私に「学校」をやらせるのである。クワタさんは生徒になり、先生役の私が、「最近」、印象に残ったこと」を話するのだ。ちゃんと学校に行ってないから勉強したいのだとか、クワタさんが殊勝なことを言うので、私も...

  • 第266便 自分で 2017.02.12

     年の瀬の夜おそく、ひとり忘年会みたいな気分でウイスキーをのみながら、テレビの「ドキュメント72時間」というのを見ていた。雨が降っている日のガソリンスタンドに寄る人たちに、「これからどちらへ」とかインタビュアーが何気ない口調で声をかけ、その人の現実をなんとなく探ろうというのが番組の狙いなのだろう。 40歳ぐらいの女が軽自動車にセルフで給油している。 「これからどちらへ?」 「高校生の娘が部活でバレーボールの試合がある...

  • 第265便 花束 2017.01.05

     ジャパンCの前日、「明日の東京は雨」と確実なようにテレビの天気予報が言い、「まいったなあ」と私はつぶやいた。私と知りあったのが幸か不幸か、若い内科医、ベテラン看護師(女性)、中年レントゲン技師の三人が、ジャパンCの日に初めて競馬場へ行くことになったので、雨じゃ気の毒、可哀そうと、私は心配なのだ。 ティッシュペーパーをまるめてテルテル坊主を作り、それしか仕方ないと軒先にぶらさげて寝た。すると、どうだろう、ジャパンC...

  • 第264便 寸又峡 2016.12.14

     東京競馬場へ行ったときの私は、いちどはメモリアル60スタンドの3階へ行き、道をへだてて装鞍所が見える窓辺に立つ。レースの時間が近づいてきた馬たちが鞍をつけ、木立ちのまわりを厩務員に引かれて歩いている。その景色が私の好きな絵なのだ。 もうひとつ、いちどは必ず行く場所が、けやき並木のベンチだ。そこに腰かけ、しばらくぼんやりする。それが私の幸せなのだ。 10月30日、天皇賞の日、くもり日だが雨の心配はない。東京7R3歳上500...

  • 第263便 種牡馬の眼 2016.11.14

     9月10日のこと、私は社台グループが営む共有馬主クラブの会員が参加する牧場ツアーに同行していた。ノーザンホースパークのグリルでの夕食会を終え、苫小牧のホテルへバスで移動する。闇がひろがる勇払原野にぽつんぽつんと光る家の明かりを眺めながら競走馬を見るためのツアーだなんて、縁のない人からすれば特殊な集団だろうなあと思った。 すると私は、昨日の自分を思いだした。横浜の教会で「バッハのオルガン曲の夕べ」という催しがあり、...

  • 第262 ありがとう 2016.10.14

     2年前の夏の日の夕方のこと、鎌倉市大船の大型スーパーマーケットに隣接する回転寿し店で、テーブル席にいた時枝さんと目が合って私は面食らった。時枝さんといっしょにマスダさんがいたからである。 大船の町はずれに、私の長女の友だちのメグさんが営む小さなバーがあり、もう10年になるだろうか、ふた月に一度くらい、私は客になる。そこで何度か、常連客の時枝さんと会っているのだ。 時枝さんは横浜にある大きな病院のベテラン看護師だ。...

  • 第261便 雲の上から 2016.09.13

     朝早く、新聞を読む。ベラ・チャスラフスカさんのことが記事になっていて、1964年の東京オリンピックの体操競技をしている彼女と、2016年6月の74歳になっている彼女の写真が並んで載っている。 「あの東京オリンピックのときの、チェコスロバキアのチャスラフスカの美しさって、今でも思いだせる。テレビに白い夢の花が咲いているみたいだった。おれも、まだ26歳さ」 そう誰かに言いたくなりながら私は、記事を読むうち、緊張してきた。 2015...

  • 第260便 相良の人たち 2016.08.09

     2008(平成20)年の皐月賞とダービーと菊花賞に、いずれも武士沢友治騎乗で出走した小桧山悟厩舎のベンチャーナイン(父エイシンサンディ、母グラッドハンド、母の父コマンダーインチーフ)の馬主は、静岡県牧之原市相良で自動車のボディミラーを製造する本杉芳郎さんである。 「わたしにとっては3冠馬です」 北海道の牧場の放牧地で知りあった私に、とてもうれしそうな顔で本杉さんは言い、 「牧之原から近い御前崎の、夕日が染める海を眺め...

トップへ