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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

最新記事一覧

  • 第189便 夏のバス停で 2010.09.10

     お願いすることがあって,都合のいい日に訪ねたいと,東京の北区滝野川に住む原田高志くんから電話がきたとき,「後楽園へ行ってる?」と私は訊いた。「毎週ではないですけど,ときどき」そう返事を耳にして私は,「後楽園で会おうよ」と提案をした。 高志くんの父の幸市さんは去年の秋,脳出血で62歳の人生を閉じた。昔,私が薬品問屋勤務のころ,幸市さんは製薬会社勤務で,おたがいの競馬好きが,つきあいを濃くした。仕事が別になっても,つ...

  • 第188便 立会川のミシェル 2010.08.10

     2010年6月30日,水曜日,午後5時すぎ,私は京浜急行電鉄の立会川駅を出てすぐの,道ばたにある坂本龍馬像に足を止め,「今日もムシムシ,嫌な天気だね」と首すじの汗を拭きながら,掲示の説明を読んだ。 立会川河口附近に土佐藩の下屋敷があり,黒船船団にそなえる警固のため,江戸詰めの武士を浜川砲台に動員した。そのなかに,19歳の龍馬がいたのである。近いらしい浜川砲台跡に行ってみようかとも思ったが,「今日は大井競馬に来たから,別...

  • 第187便 競馬の本 2010.07.09

     なるべく歩いてください,と医師に言われている私は,家庭のゴミ出しを引き受けている。小公園のきわにあるゴミ集荷所まで家から200歩くらいだが,坂道だし,起き抜けにちょうどいい運動ということなのだ。 月曜日は植木類,ダンボール,古雑誌など。火曜日は生ゴミ,燃えるゴミ。水曜日はペットボトル(第3水曜日は危険物)。木曜日はプラスチック,缶,瓶。金曜日は火曜日と同じ。 7時45分に私はゴミ出しに行く。時間を決めるのが好きという...

  • 第186便 必死の思い 2010.06.14

     2010年3月28日,日曜日のこと,東海道新幹線掛川駅の近く,掛川グランドホテルで,和田秀雄氏の「旭日雙光章受章祝賀会」があって,200人が集まった。 『日本国天皇は和田秀雄に旭日雙光章を授与する皇居において?をおさせる』と受付に飾られた賞状(2009年11月3日に受章)の?の字が読めず,それがちょっと気になったまま私は,「桐」と立札のある席に坐った。 桐の席で私のとなりにKさん,そのとなりにKさんの奥さんのU子さん。大正14年...

  • 第185便 さくら幻想 2010.05.10

     今年の関東地方の春は雨の日が多くて,冬に逆戻りしたような寒い日も多く,「風冷えて咲くに咲けないさくら花」なんぞと句をひねっていたが,「今週もタラレバ食ってハズレ花」と笑うしかない私の週末は相変わらずである。 ところが4月4日,阪神の最終レースにマルブツサクラオーが浜中騎乗で出走していて,おまけに桜色ヘルメットの8枠。それにメインの大阪杯で浜中はテイエムアンコールで勝って気分もよかろうと,14頭立て5番人気マルブツ...

  • 第184便 船橋の酒 2010.04.13

     もう40年近く昔のことだが,薬品会社に勤務していた私は,秋田市の大きな病院の院長に,とてもよくしてもらった。 そのころに中学生だった院長の三男坊が,私の家に近いホテルでの結婚式に出るとか,ひょいと電話してきて,式の翌日に顔を見せ,酔っぱらってしまって私の家に泊まった。野猿のようだった少年が,初老の白髪男になっている。 「兄貴がふたりとも医者になって,医者になれなかった三男坊としては,遠慮っぽい人生になってしまって...

  • 第183便 夢のような日 2010.04.06

     「マイコ。カネトシマイコ」 ウインズ横浜3階の人ごみのなかで,声を出さずに私はつぶやいた。京都の第6R新馬戦,16頭のなかに,カネトシマイコサンという3歳牝馬がいる。2010年1月30日のことだ。 予想のシルシがまるで付いていない。でも,100円だけでも買おうかなと思ったのは,3人いる私の娘のまんなかの名がマイコだからだ。 単勝馬券には名前が入る。ジョークで渡そうか。車の運転をするので,ハズレ馬券が,アタラナイというお守り...

  • 第182便 横浜ウインズ冬景色 2010.02.01

     2009年12月31日の午後5時ごろ,「主人がお世話になりましたタカムラと申します。もし,ご迷惑でございましたら,おっしゃってください」と女性の声の電話がかかった。 「ああ,喪中ハガキをいただきまして」そう私が言い, 「お手紙をいただいて,ありがとうございました。お仏壇にお供えいたしまして」と礼が返った。 高村さんが2009年8月に64歳で亡くなったのを私は知らなかった。喪中ハガキで知り,それで奥さんに手紙を書いたのだった。...

  • 第181便 友あり遠方より 2010.01.10

     郵便受に手紙があるとうれしい。「おっ」と-声が出そうになったのは,遠方からの便りがあったからだ。友あり遠方より来たる。手紙でも,その人に会うことになるので,そう思った。 『前略。それにしても大変な時に当たったものだと思います。今年の最後のせりが当地で行われているのですが,名簿で予め選んだ上場馬を下見に行くと,馬房が空っぽなのです。州外から運ばれる予定だったのですが,持ち主が輸送費を支払えないために,レキシントン周...

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     ウインズへ行こう。家を出る。住宅地の坂道をおりていると,静かな空気へ,カラスがうるさく鳴いた。電線か木の枝か屋根かに,3羽か4羽。 「こんにちわ」 ひょっこりと老婆が歩いてきて私とすれちがい,かすかに言った。 「こんにちわ」 私もかすかに返した。歩いているのだか,立ち止まっているのだか,老婆は坂道の上りをひょろひょろ。イチョウの木が並ぶ風景にいる人間は,私と老婆だけ。あとはカラス。 その老婆,その住宅地で,カラ...

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