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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

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     2024年1月11日のこと、横浜市港南区に住む久保田順二からハガキがきた。 「ヒシミラクル、ファストタテヤマ以来の奇跡が起きました。1月7日のフェアリーステークスで、3連単⑬―③―①、15万7,970円を200円持っていました。西村淳也という騎手がいるなあ。妻の淳子の淳。命日が平成13年3月1日。墓まいりする気持ちで買いました。西村淳也のイフェイオンが勝ってくれました」 ウィンズ横浜で知りあった競馬仲間の、久保田順二の呼び名はクボジ...

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