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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

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    第90回日本ダービーの2日前のサンスポ紙に、「日本ダービーといえば、出走馬を生産した牧場にとっても、年に一度の晴れ舞台」ということで、牧場が記事になっていて私はうれしかった。 記事の書きだしをそのまま使わせてもらおう。「今年で創業111年を迎える谷川牧場。かつて5冠馬シンザンを繁養した老舗がファントムシーフを送り出す」というのと、「トップナイフの生まれた故郷である杵臼牧場は、1999年皐月賞をはじめGⅠ7勝を挙げたテイエ...

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     やっとのこと、コロナから解放された2023年の4月から5月にかけての連休で、私にもうれしい集まりがあった。友だちのタカハシさんが40分の1口馬主として出資したリバティアイランドが桜花賞を勝ち、新宿の京王プラザホテルにある中華料理店で祝いの会をしたのだ。 その日、私が住む鎌倉も同じようだが、新宿にも外国人の旅行者がたくさんいた。新宿駅から京王プラザホテルへ行く道の雑踏で、たぶんアメリカ人だろう太ったオバさんが、「ハーイ...

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     2023年4月2日の午前8時半、スマホが鳴り、入院中のスドウさんからだ。3月の初め、庭で踏台に乗って植木の枝葉を切りながら転倒し、足腰と頭部を損傷し、たまたま玄関にきた宅配便の運転手に発見され、救急車に乗った。 「馬券は買ってないけど、大阪杯、一緒に見たい」 とスドウさんが言う。ほかのことは言わず、それだけを言う。 「わかった」 と私は返事をした。 その病院の10階に、3月7日から31日まで、かみさんが入院していた。ス...

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