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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

最新記事一覧

  • 第315便 ノン子の手紙 2021.03.11

     シッコやウンチの世話をして、エンもユカリもない人をお風呂に入れて、エンもユカリもない人のイレ歯を洗って、エンもユカリもない人を病院へつれて行って、エンもユカリもない人にゴハンを作ってあげて、わたしの人生、ナンナのって思う」 などとノン子が口にすることもあるのだけれど、「のぎく」のママに言わせると、「やさしいし、気はきくし、介護ヘルパーとしては最高の人材ですって、介護の会社の人が店にきた時に言ってた」 ということ...

  • 第314便 家族 2021.02.12

    この数年、年賀状といっしょに、高木治彦からの手紙が届く。 「今日は2020年12月30日。コロナ、コロナで明け暮れた、変な1年だったなあと、あらためて思います。夜おそく、妻も子も眠って、われひとり、今年も手紙を書こうと思いました」 という書きだし。文字は活字のように乱れがない。 「食卓の近くに立った小さな額を見る。馬名を印刷した単勝馬券が3枚、飾ってある。ドモナラズの単勝馬券。2011年日経新春杯での、13頭立て11着。それとネ...

  • 第313便 銘酒「七冠馬」で乾杯! 2021.01.08

     第40回ジャパンCが3日後にせまった日の夜、ウインズ横浜仲間の野原さんが電話してきて、 「今日はかみさんもいなくて、ひとりで、さっきからチビチビ、冷や酒をのんで、競馬のことを考えてたの。 アーモンドアイのラストランのゲートに、コントレイルとデアリングタクトが入るなんて、こんなの、めったにあるもんじゃないなあって、考えただけでドキドキしてきた。 それでね、ドキドキしながら、リョウさんが頭に出てきたんだ。 忘れてるかも...

  • 第312便 サラ系セイシュン 2020.12.10

     コロナ禍の年の8月、家のなかで激しく転倒。左手首を粉砕骨折して10日間の入院をした私は、11月になってもリハビリで週に2日の通院をし、ほかにも月に一度の循環器科の診察もあるので、病院にいる時間が多い。 病院でのさまざまな情景を目にしながら、 「この人、たぶん、営業で」 とたいていは紺系統の背広を着て、重そうなカバンをさげて歩いている硬い表情の人を見かけると、その人に私は注目してしまうのだ。 私は30歳代から40歳代はじ...

  • 第311便 竹やぶ、海、髪の毛 2020.11.13

     風呂から出て、時計を見る。午前0時10分。かみさんは先に寝て、おれひとり。6畳ほどの板の間の、居間兼食堂の明かりを小さくして、バー「たられば」をオープンする。 一生懸命に仕事をして、あとは酒場で冗談をとばすこと。キザに思われるかもしれないが、おれの人生、それだけ。 そのように生きてきたのに、新型コロナウイルスのために酒場行きがアウト。仕方なくバー「たられば」で、ひとり、酔う日が続いている。冗談をとばせないのが空し...

  • 第310便 ビビリ 2020.10.12

     ひとりで電車に乗っていたり、ひとりで海を見ていたり、ひとりで何処かのベンチに座っていたり、ひとりで酒場にいたりする時、私の脳裡に1頭の牡の鹿毛馬が出てきて、 「おお、ビビリ」 と声をかける。ビビリが出てきてくれるひとときは、私の人生の幸せなのだ。 1989(平成元)年のこと、春から夏にかけての3か月ほど、苫小牧市美沢で開業するノーザンホースパークのことで手伝う仕事があって、社台ファーム空港牧場(現在はノーザンファー...

  • 第309便 黄金旅程 2020.09.11

     「浦和の安藤です。いつも年賀状をありがとうございます。年賀状のみのおつきあいでしたけれど、とてもうれしかったです。 夫の直行が6月4日に死去しました。コロナ禍なのにひとり旅で木曽路へ行き、宿で心筋梗塞に襲われてしまいました。71歳でした。 今日は7月13日です。それが手紙を書きたくなった理由です。直行は誰彼となく、お酒をのんだ時など、2009年7月13日のことを得意そうに話していました。 お忘れかと思いますが、2009年7月1...

  • 第308便 ヒニチジョウ 2020.08.11

     「自分で電話が出来ればいいんですけど、最近は補聴器もつけたがらないから耳がダメで、それでわたしに電話してくれって言うんです。 ほんと、すみません。わがままなんです。毎日のように、よしかわさんに電話しろって。」 と世田谷の病院に長期入院しているKさんの奥さんから電話がくる。Kさんは86歳。 私は見舞いに行く。牧場ツアーに行って放牧地の草の上で冗談を言いあったときのこと、競馬場で一緒にレースを見てたときのこと、競馬場の...

  • 第307便 バー「たられば」 2020.07.10

     「あと3日でダービー。スタンドに人がいない、新型コロナウイルスダービー、とか思いながら、そうか、おれ、ダービーのことを考えてる場合じゃないのだ。自分が食っていけるかいけないか、それを考えなくてはならぬのだ、と笑った」 と私にメールをしてきたのは、相模原市に住む34歳の原田くん。独身。タクシー運転手をしながら画家をめざしている競馬好き。数年前に府中の酒場で知りあい、原田くんが出品したグループ展に行ってからのつきあい...

  • 第306便 余計な心配 2020.06.11

     私が買う馬券はめったに当たらない。だから、間違ったように当たると、いっぺんに幸せになる。その、いっぺんに幸せになる、というのが忘れられなくて、60年以上も馬券とつきあっているのだろう。 言わせてもらえば、馬券を買えないほどに貧しくはなるまいぞ。そう思って、必死に働いてきたつもりだ。馬券が私を、叱咤激励し続けてくれたのである。 競馬場でいっしょに馬券をやる若い奴が、 「よくもそんなにハズれ続けて、何十年も馬券をやっ...

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