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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

最新記事一覧

  • 第310便 ビビリ 2020.10.12

     ひとりで電車に乗っていたり、ひとりで海を見ていたり、ひとりで何処かのベンチに座っていたり、ひとりで酒場にいたりする時、私の脳裡に1頭の牡の鹿毛馬が出てきて、 「おお、ビビリ」 と声をかける。ビビリが出てきてくれるひとときは、私の人生の幸せなのだ。 1989(平成元)年のこと、春から夏にかけての3か月ほど、苫小牧市美沢で開業するノーザンホースパークのことで手伝う仕事があって、社台ファーム空港牧場(現在はノーザンファー...

  • 第309便 黄金旅程 2020.09.11

     「浦和の安藤です。いつも年賀状をありがとうございます。年賀状のみのおつきあいでしたけれど、とてもうれしかったです。 夫の直行が6月4日に死去しました。コロナ禍なのにひとり旅で木曽路へ行き、宿で心筋梗塞に襲われてしまいました。71歳でした。 今日は7月13日です。それが手紙を書きたくなった理由です。直行は誰彼となく、お酒をのんだ時など、2009年7月13日のことを得意そうに話していました。 お忘れかと思いますが、2009年7月1...

  • 第308便 ヒニチジョウ 2020.08.11

     「自分で電話が出来ればいいんですけど、最近は補聴器もつけたがらないから耳がダメで、それでわたしに電話してくれって言うんです。 ほんと、すみません。わがままなんです。毎日のように、よしかわさんに電話しろって。」 と世田谷の病院に長期入院しているKさんの奥さんから電話がくる。Kさんは86歳。 私は見舞いに行く。牧場ツアーに行って放牧地の草の上で冗談を言いあったときのこと、競馬場で一緒にレースを見てたときのこと、競馬場の...

  • 第307便 バー「たられば」 2020.07.10

     「あと3日でダービー。スタンドに人がいない、新型コロナウイルスダービー、とか思いながら、そうか、おれ、ダービーのことを考えてる場合じゃないのだ。自分が食っていけるかいけないか、それを考えなくてはならぬのだ、と笑った」 と私にメールをしてきたのは、相模原市に住む34歳の原田くん。独身。タクシー運転手をしながら画家をめざしている競馬好き。数年前に府中の酒場で知りあい、原田くんが出品したグループ展に行ってからのつきあい...

  • 第306便 余計な心配 2020.06.11

     私が買う馬券はめったに当たらない。だから、間違ったように当たると、いっぺんに幸せになる。その、いっぺんに幸せになる、というのが忘れられなくて、60年以上も馬券とつきあっているのだろう。 言わせてもらえば、馬券を買えないほどに貧しくはなるまいぞ。そう思って、必死に働いてきたつもりだ。馬券が私を、叱咤激励し続けてくれたのである。 競馬場でいっしょに馬券をやる若い奴が、 「よくもそんなにハズれ続けて、何十年も馬券をやっ...

  • 第305便 ウインズ休止 2020.05.14

    「あんなに競馬が好きだったのに、競馬のテレビをつけても、見ているんだかいないんだか、何も反応しないで、ただぼんやりしてるんです。 認知症っておそろしい。人間って、こんなふうにもなっちゃうんだって」 と電話をしてきた勇さんの奥さんが、 「ただね、昨日、三度くらい、ヨシカワ、ヨシカワって、わたしに言うの。 ヨシカワが、何、って聞いてみても、ただ黙って、話は続かないんです。 すみません、ほんとうに勝手なお願いなんですけ...

  • 第304便 古井さん 2020.04.10

     「日本の純文学作家の最高峰の一人で、内向の世代を代表する古井由吉さんが18日、肝細胞がんで死去した。82歳だった。葬儀は近親者のみで営んだ」 と新聞で読んだ2月の朝、庭の地面に低く咲いていたクリスマスローズの色をしばらく見つめたあと、仕事部屋の書棚から抜いた古井由吉作品集「明けの赤馬」を机に置き、合掌した。 古井さんは競馬が好きだった。雑誌「優駿」に競馬エッセイを連載し、競馬会広報に関わる人たちが集まる東京競馬場と...

  • 第303便 無時間 2020.03.11

     「暦では新しい年を迎えたが、そうした時計が刻む通常の時間、とは異なる時間がある、と谷川さんはいう。その時間の中では、死者たちも、一種の幻想みたいに存在しつづけている、という。谷川さんはそれを、無時間の時間と呼ぶ。肉体にこそ通常の時間が刻まれていくが、無時間を生きる魂や心は死ぬことはなく、不老不死。だから武満徹や大岡信ら親友が亡くなっても、寂しくないという感覚がずっとある」 と赤田康和という人が書いた文章を新聞で...

  • 第302便 マーフィーの日 2020.02.12

    「こんなことやってるんですよ。メンバーのほとんどがジィさんバァさん。もし見てもらえたらうれしいなあ」と去年の2月だったかウインズ横浜で、75歳の野田さんからハガキを渡された。野田さんは元銀行マンで、老後を馬券で楽しんでいる。 プロの画家を先生にして、趣味で絵を描くグループの作品発表展が、横浜のランドマークタワーのなかのギャラリーで開催する案内状のハガキだ。 「このギャラリーは、横浜美術館へ行った帰りに寄るので知って...

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     東京競馬場に着くと、第4R3歳以上1勝クラス、ダート1600に出走する16頭がパドックを歩いていた。 パドックで見ても何も分からない私なのだが、競馬場へ来たら殆どのレースのパドックを見ている。パドックで馬を見ているのが好きなのだ。すばらしい景色で、好きな絵で、それを見ているのが幸せなのだ。 着いてすぐのレースは、1番人気馬から上位4頭への馬単を4点買うのが、この数年の私の決めごとである。 1階スタンドのゴールポストが真...

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