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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

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     2005年3月のこと、68歳だった私は心筋梗塞に襲われ、アウトを意識したけれど、どんな運があったのか、生き残った。 その入院中のこと、病室の窓から青空を眺めながら、もういちど、北海道の空の下で暮らしてみたいと強く思った。どうして強く思ったのか。それは簡単には言えない。 東京の下町育ちの私は、二度、北海道の暮らしを経験している。一度目は1966(昭和41)年から2年間、札幌市中央区南3条西6丁目グランドビル602号室で暮らしてい...

  • 第318便 表札看板アルバム 2021.06.18

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  • 第317便 昭和モダン 2021.05.12

     「今年も中止にするしかないね」 と4月3日、青梅市に住むササキくんが電話してきた。 「去年もダメだったし、残念」 と私も言うしかない。毎年のこと、皐月賞が近づいた日に、小金井市に住むサトウくんと3人、「ハイセイコー会」と称して、新宿の居酒屋に集まってきたのだが、新型コロナウイルスのために中止なのだった。 若い人に言ったら、「ナニ、ソレ?」と言われそうだが、ハイセイコーが引退したあと、1980(昭和55)年ごろから、サ...

  • 第316便 栄さん 2021.04.12

     昔のこと、「時間、あるかね?」と、社台ファームのボス、吉田善哉さんから電話がくると、それは美浦トレセンへ一緒に行こうよという誘いだった。それでよく同行をした。 美浦へ着くまでの車中、善哉さんは「言葉」についての話をするのが好きだった。例えば、 「草鞋(わらじ)を脱ぐ、というのはどういう意味なのかね」 といきなりの質問を私にぶつけてくるのだ。 「旅を終えるという意味もあるし、各地を回り歩いていたバクチ打ちが、或る...

  • 第315便 ノン子の手紙 2021.03.11

     シッコやウンチの世話をして、エンもユカリもない人をお風呂に入れて、エンもユカリもない人のイレ歯を洗って、エンもユカリもない人を病院へつれて行って、エンもユカリもない人にゴハンを作ってあげて、わたしの人生、ナンナのって思う」 などとノン子が口にすることもあるのだけれど、「のぎく」のママに言わせると、「やさしいし、気はきくし、介護ヘルパーとしては最高の人材ですって、介護の会社の人が店にきた時に言ってた」 ということ...

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    この数年、年賀状といっしょに、高木治彦からの手紙が届く。 「今日は2020年12月30日。コロナ、コロナで明け暮れた、変な1年だったなあと、あらためて思います。夜おそく、妻も子も眠って、われひとり、今年も手紙を書こうと思いました」 という書きだし。文字は活字のように乱れがない。 「食卓の近くに立った小さな額を見る。馬名を印刷した単勝馬券が3枚、飾ってある。ドモナラズの単勝馬券。2011年日経新春杯での、13頭立て11着。それとネ...

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