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プロフィール
吉川良作家

1937年東京都生まれ。
芝高等学校卒、駒澤大学仏教学部中退。
薬品会社の営業、バーテンダーなど数々の職業を経験。
1978年すばる文学賞受賞。
1999年社台ファームの総帥、吉田善哉氏を描いた「血と知と地」(ミデアム出版社)で、JRA馬事文化賞、ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
JBBA NEWS掲載の「烏森発牧場行き」第1便~第100便は「サラブレッドへの手紙(上・下巻)として2003年源草社から出版されている。
著者のエッセーには必ず読む人の心をオヤッと引きつける人物が毎回登場する。
「いつも音無しの構えでみなの話に耳をかたむけ・・・」という信条で、登場人物の馬とのかかわり、想いを引き出す語り口は、ずっと余韻にひたることができるエッセーとなっている。
馬・競馬について語る時は、舌鋒鋭く辛口の意見も飛び出すが、その瞳はくすぐったいような微笑みを湛えている傑人である。

最新記事一覧

  • 第236便 時代はずれ 2014.08.13

     6月14日と15日、社台グループの共有馬主クラブの牧場ツアーで1泊2日。北海道へ行く。 6月16日と17日、心臓疾患の定期検診で1泊2日、病院へ行く。 6月21日と22日、社台グループの2度目の牧場ツアーで1泊2日。北海道へ行く。 牧場ツアーでの私の役割は、競馬を愛し、愛されてしまった人に喋りかけること。冗談を言って、笑うこと。 6月23日の夕方、京都へ行く。翌日の早朝からの、「PHP」という雑誌の取材仕事のため。その仕事も...

  • 第235便 シュウネン 2014.07.12

     ダービーの前夜、ブランデーをちびちびのみながら、橋口弘次郎厩舎のこれまでのダービーでの成績を、新聞のチラシ広告の裏が白いやつに書きだしていた。はじめは活字を見ていただけだが、 「1990年、ツルマルミマタオー、10番人気、4着」 と書いてみると、そのほうが、何かが頭に映ってくるような気がした。 「1991年、ツルマルモチオー、19番人気、17着。1995年、ダイタクテイオー、7番人気、6着。1996年、ダンスインザダーク、1番人気、...

  • 第234 となりの声 2014.06.11

     よく晴れた日の朝、メーンレースがプリンシパルSの東京競馬場へ行く電車で座り、目を閉じていると頭のなかに、昨夜のテレビで見たシリアやウクライナやタイの紛争が映って、 「どうしてニンゲンはニンゲンと、殺しあったり奪いあったりしなければならないのかなあ。だったらオリンピックとかサッカーのワールドカップとか、盛りあがることもないじゃないか」 「おれは相変わらずに競馬だよ。うれしいな」と誰かに言っていた。 競馬場へ着いて...

  • 第233便 キリハヤテの日 2014.05.16

     「去年の夏に女房が死んでしまって、それからはずうっとひとり暮らし。ま、さびしいけど、仕方ないわなあ。 仙台にいる息子も、水戸にいる娘も、そっちで暮らすわけにいかんから、よかったら近くに来たらいいって言ってくれるんだけども、ま、せめて、身体の動くうちは誰の世話にもなりたくないし、こっちで自由にしてる」  と山形県の鶴岡市に住むヤマケンさんが電話してきた。 「ヤマケンさんの声、何年ぶりだろう?」 私が言い、 「百年ぶ...

  • 第232便 どんけつ人気 2014.04.18

     「わたくしは3月1日の川崎でのコトバ会で、お話を聞いた者です。あのとき、ひとりでいても、仲間といても、どこにいても、世間で自分は、どんけつ人気でないかと感じているというお話、とても引きつけられました。 どんけつ人気といっても、負け犬になっているわけでなくて、どんけつ人気と感じることをバネにして、それで元気になるというのに、わたくしはとても共鳴したのです。 それにわたくしがよく行く横浜の場外が、言ってみればふるさ...

  • 第231便 ケイタイ電話で 2014.03.12

     1月30日の夕方、新宿駅から乗った京王線に座って、 「たしかおれ、初めて府中の競馬場へ行ったのは高校2年のときで、昭和28年の、ボストニアンという馬がダービーを勝った日だよな。 薬品問屋だったおれの家に住み込みで働いてた勇さんという人にくっついて行ったんだ。 ダービーを見たのを学校の作文に書いたら、先生に呼び出されて、職員室の横の個室で、いまから競馬なんか見てたら、ろくな人生にならないって怒られたの、忘れられない思...

  • 第230便 金杯5首 2014.02.10

     2014年1月5日、快晴の中山競馬場。そんなには寒くない。夏よりは冬のほうが好き。そう思いながら私は、北の地方の風雪を目の奥に描き、好きとか嫌いとか言ってる場合じゃないなと思いなおした。 第6R、4歳以上500万下、ダート1800に挑む牝馬ばかりの16頭がパドックを歩いている。私の目の前を栗毛のディジーバローズが通った。父ダイワメジャー、母ダイイチボタン、母の父ティンバーカントリー。26戦して1着1回、2着3回、3着1回、4着...

  • 第229便 時計と砂漠 2014.01.14

     秋田県横手市の建設会社で働いている30歳の宗久くんが私の家に泊まったのは11月22日である。川崎市の運送会社で働いている高校時代からの親友が、11月24日に横浜のホテルで結婚式をあげるので来たのだ。宗久くんは独身である。1日早く来たのは、23日に東京競馬場へ行きたいからだ。 宗久くんは私の競馬の先生の孫である。昭和20年代後半、宗久くんの祖父の友三さんは私の実家(薬品問屋)に住込みで働いていて、休日に浅草の映画館へ行くと言っ...

  • 第228便 職人 2013.12.17

     私は東京の千代田区神田紺屋町で生まれ育った。家がJR神田駅に近く、2階の窓をあけると、プラットホームに流れる駅員のアナウンスが聞こえてきた。  昭和20年代が私のガキのころである。町名の紺屋は、布を紺色に染める業のことだ。いくつもの家に物干し台があり、洗いたての白い布が細長い滝のように並び、風でひらひらと動いていた。 町内に下駄屋も箒屋も漆器屋もあった。店先に立って私は、その店の主人や使用人たちの作業を見ているのが...

  • 第227便 大井のびっくり 2013.11.20

     明け方に目をさまし、なにも夢でハズレ馬券をくやしがることもないじゃないかと思った。  9月22日の神戸新聞杯のことである。1着エピファネイア、2着マジェスティハーツ、3着サトノノブレスだった。私が500円持っていた3連単の2着と3着が逆。レースが終わってすぐはくやしさがこみあげてきた。 でも、ハズレ馬券には馴れていて、くやしさを引きずるなんてめったにない。それにレースから数日が過ぎている。それなのに夢にまで出てきたの...

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